美しくも悲しい日々を想う 3

僕は中学に入ってから眼鏡をかけるようになった。
だから、彼女は眼鏡をかけた僕しか知らなかった。


ところが、運動部に所属していて、眼鏡をかけてると危険なこともあったので、僕はコンタクトレンズを購入した。
ある日、コンタクトレンズをして学校に行くと
「眼鏡どうしたの?」
と彼女に尋ねられた。

僕は
「コンタクトレンズにしたんだよね」
と答えると彼女は
「メガネの方が良かったなあ」
と言った。

何てことないつもりで彼女は言ったんだろう。
でも、僕にとってこの言葉は胸に突き刺さった。

せっかく買ったばかりのコンタクトレンズだったが、それ以来二度とつけることはなかった。


彼女に好かれるために、できることは何でもしたかった。



この頃、彼女との学校生活で嬉しかったことがある。
それは移動教室の時だった。

移動教室とは普段の教室以外の教室を使って行う授業のことであり、主に理科や音楽などの授業は移動教室となっていた。

普段の教室においては、彼女と席が近かったが、移動教室の場合、席順は男女別の出席番号順だった。
出席番号順になると、彼女とはどの移動教室においても、席が結構離れる形になっていた。

その時、お互いに合図を送り合うようになっていたのだ。

音楽の授業では、先生がいるピアノを挟んで合図を送り合った。
理科の授業では、一番前と一番後ろの席で合図を送り合った。

手を振り合ったり、口パクで何かを話して後で答え合わせをしたりした。

文化祭の時は、彼女は合唱部門で僕はステージ部門だった。
そのリハーサルで、合唱部門はステージ下に待機、僕は舞台袖で出番を待っていたことがあった。
あるタイミングで、舞台袖にいた僕に彼女が気づき手を振ってくれた。僕も手を振り返した。
この時は、いつもの移動教室以上に嬉しかった。

彼女と合図を送り合っていた時が、間違いなく僕にとって人生で一番幸せな時だった。
今、あの頃の自分を思い出すと、本当に羨ましくて仕方ない。
あの頃に戻れるなら、僕は今後の人生がなくってもいいと本気で思っている。


そんな日々の中、僕は彼女への想いを隠しきれなくなっていた。
そしてついに彼女へ想いを伝えることになった。

理科室で行われた理科の授業の時だった。
いつものように合図を送り合っていた流れの中で
僕は口パクで
「好き」
と言った。

前もって言おうと思っていたわけではなかった。いつものやりとりの中で、つい彼女への想いを我慢できずに口走ってしまった。
距離も遠く、口パクだったので彼女には伝わっておらず、彼女はずっと何を言ってるのかわからないリアクションをしていた。


僕はとてつもない心臓の鼓動を感じていた。
伝わってはいなかったが、人生で初めて告白した瞬間だった。


彼女に伝わらなかったことに、ホッとした気持ちと、残念な気持ちが入り混じっていた。


その日の学校が終わって、彼女から手紙を渡された。
そこに
「あの理科の時、なんて言ってたの?」
と書いてあった。

僕は迷った。本当のことを書くべきか、ごまかすべきか。
本当のことを書くということは、告白することと同義である。
ただ、僕は自分の気持ちを隠しきれなくなっていた。
だから本当のこと書くことにした。

まわりくどい言い回しで書いたが、確実に彼女に好きだという想いが伝わる内容の手紙を書いた。
そして翌日、制服の胸ポケットにしまって学校に持っていった。

何ヶ月か前には、書いたラブレターを渡せずに終わったが、今回はしっかりと彼女に渡すことができた。
渡した後に、何を考えていたかの記憶はもうない。ただ、正常な自分の状態でなかったことは間違いないだろう。


そして後日、彼女から手紙を渡された。
渡された手紙には、きっと答えが書いてある。

いつも通り、手紙を鞄にしまい、授業や部活をこなした。
もちろん、内心は上の空だったことは言うまでもない。
その手紙のことで頭がいっぱいだった。

いつもなら、彼女からの手紙は読みたくて仕方なかったが、この時ばかりは読みたい気持ちと読みたくない気持ちが半々だった。
むしろ、読みたくない気持ちの方が強かったかもしれない。

家に帰った。いつもなら、真っ先に鞄から取り出して手紙を読むところだが、この時ばかりは違った。
手紙を取り出して机に置いたまま、すぐに読むことはできなかった。

ひとまず、心を落ち着かせるためにCDを再生した。
曲を聴きながら、僕は不安と緊張で胸が張り裂けそうだった。

手紙を読みたいけど、体は動かない。
気がついたら、1時間くらいそんな状態が続いていた。


1時間後、意を決して手紙を読むことにした。

その手紙には
「好きってこと?付き合ってもいいぞ!」
「でも、浮気すんなよ!」
と書いてあった。

その時に再生していた、GLAYのBELOVEDは忘れられない曲になった。

巡り合う恋心 どんな時も
自分らしく生きてゆくのに あなたがそばにいてくれたら
Ah 夢から覚めた これからもあなたを愛してる
Ah 夢から覚めた 今以上 あなたを 愛してる

GLAY BELOVED歌詞より引用


何度も手紙を読み返して、解釈が間違ってないかを確認した。
どう読んでも、流石にフラれたわけではないと解釈できた。

手紙の解釈を終えた途端、部屋で一人で舞い上がった。

彼女を名前で呼ぶことができる。
彼女と一緒に下校ができる。
彼女とデートできる。

明るい彼女との未来を想像していた。
幸せの絶頂だった。

その手紙に返事を書いたが、正直、何を書いたのか全く覚えていない。
とにかく、色んな意味でいっぱいいっぱいだった。
翌日学校に行って、普通にいつも通り返事を書いた手紙を渡した。



彼女とのこれからの日々を想像して、僕は希望に胸を膨らませていた。
でも、残念ながらそんな希望は粉々に打ち砕かれてしまう。



僕にとって絶望の日々がやってくる。











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