美しくも悲しい日々を想う 2
とある日の昼休み時間に、僕は他のクラスの友達と遊んでいた。昼休みの時間が終わりかけになり、自分のクラスに戻ると、彼女と同じクラスの僕の友達たちが楽しそうに会話をしていた。
「何?どうしたの?」
みたいな感じでその輪に僕が加わると
「きさって彼氏いるんだって」
と友達が教えてくれた。
どうやらその彼氏のことで彼女はからかわれていたのだ。
「マジで?そうなんだ!」
僕もその会話に加わって、一緒になって彼女をからかった。
でも内心は当然違っていた。
突然、頭を石で殴られたような衝撃だった。
膝から崩れ落ちそうなくらいショックだった。
「どういうこと?」
「嘘でしょ?」
「そんなわけないよね?」
「意味がわからない」
頭が完全に混乱していた。少し気を許すと、間違いなくその場で泣き出してしまっていたと思う。
正直、彼女に彼氏がいるなんてことは微塵も考えていなかった。
無理もない、それは中学1年の2学期初め頃の話である。
ちょっとグレてるような子であれば、彼氏がいるかもしれないと予想できたかもしれないが、彼女はそんな風には到底見えなかった。
その日は、家に帰って音楽をかけながら、ただただ呆然としていたことが今も記憶に残っている。
翌日、彼女にその彼氏のことを根掘り葉掘り聞きたくて仕方なかった。
でも、そんなことはできるはずもなかった。
何事もなかったかのように、その事実を知る前と同じように振る舞った。
自分の想いは内に秘めたまま、仲のよい関係は続いた。
ある日に家族で旅行に行った時があった。
旅行に行く口実ができたことで、彼女にお土産という名のプレゼント買って渡す権利が得られた。
もちろん彼女だけにお土産を買っていってしまうと、自分の気持ちがモロバレになる。だから、本当や嫌だったが、クラスの友人数人にもお土産を買っていくことにした。
友人用のお土産は適当に決めて、彼女用のお土産を探した。
そこで、星座のキーホルダーを見つけた。当時の自分にはオシャレで可愛い素敵なものに見えた。彼女のおお土産はこれに決めた。
ところがそこで問題が起こった。
僕は彼女の誕生日を正確に覚えていなかったのだ。
誕生月は間違い無く覚えているが、日にちを覚えていなかった。
星座は1月に2星座あるから確率は1/2になる。
今になって思えば、この時点で他のお土産を買う選択肢がなかったか不思議で仕方ない。なぜか、僕はこの星座キーホルダーを買うことしか頭になかった。
確認する術はなかったので、ギャンブルではあったが天秤座のキーホルダーを買った。
翌日、ダミー用のお土産を男友達に渡し終え、いよいよ彼女にそのキーホルダーを渡した。すると
「私、乙女座なんだけど」
私は1/2のギャンブルに敗れたのである。
かなりお怒りの感じで言われたので、とにかく謝った。
すると彼女は
「生徒手帳出して!」
と言ってきた。
意味がわからなかったが、とりあえず生徒手帳を彼女に差し出した。
すると、彼女はあるページをめくり何かを書き始めた。
返された手帳を見ると、彼女の誕生日の欄にKisa Birth Dayと書いてあった。
「忘れないでね!」
と彼女は言った。
その手帳は彼女からもらった手紙と一緒に僕の宝物になった。
あれから25年経つけど、いまだに彼女の誕生日を忘れたことはない。
日々の会話の中で、徐々に彼女の彼氏のことがわかってきた。
1つ上である2年生のサッカー部の奴らしい。名前も知った。
どんな奴なのか見てみたい気持ちと見たくない気持ちは半々だった。
ただ、見るためには友達に
「2年生の〇〇ってどいつ?」
と聞く必要がある。
聞かれた方は当然、なぜその人を知りたがるのかと、疑問になることは明白である。その疑問への答えを僕は答えるわけにはいかなかった。なぜならそれは、彼女のことを好きだと言うことに等しいと思ったからだ。
結局、誰にも聞くことはできず、その彼氏の顔は今でもわからないままだ。
彼女の彼氏が1つ上の奴だとを知ってから、自分自分で変わったことがある。
意図してだったか、意図してなかったかもはや記憶はないが、大人ぶるようになったことだ。
何か物事に対して、斜に構えるようになった。常にどこか冷めたような態度をとるようになった。要はクールを気取っていた気がする。
当時の自分が精一杯できる大人っぽく見せるための行動だったんだろう。
大人っぽくななれば、彼女に好かれると思っていた。
彼女に好かれるなら何でもしたかった。
とある日、部活が終わった後で友達に
「スパイク置いて帰ろうぜ」
と誘われた時があった。
毎日スパイクを使うので、いちいち持って帰るのが面倒だから下駄箱に置いて帰りたいという意図だった。
たしかに、スパイクを毎日持ち帰りするのは面倒だったが、グラウンドと下駄箱がある正面玄関までは距離があったので、わざわざそこまでいくのはそれはそれはで面倒だと私は思った。
「いや、面倒臭いからいいんじゃね」
と私は断ったが、無理やり付き合わされて、嫌々だったが一緒に下駄箱に行くことになった。
するとそこで
「こまちゃん!」
と声をかけられた。
部活終わりだった彼女もたまたま玄関にいたのだった。
短い簡単な会話をしてバイバイをして別れた。
僕は、それから毎日スパイクを下駄箱に置きに行くようになった。
むしろ、面倒くさがって行きたがらなくなった友達を逆に僕から誘うようになってしまったくらいだ。
彼女と会話ができるチャンスをとにかく逃したくなかった。
文通も順調に続いていた。
昨日見たテレビ番組の話だったり、好きな音楽の話だったり、他愛のないやりとりが本当に幸せだった。
ある日にもらった手紙には
「昨日の月見た?綺麗だったね!」
と書いてあった。
僕はそれまで、夜に空を見上げたことはなかった。
でも、この手紙をもらってからは、夜になると空を見上げることが当たり前になった。
25年たった今でも僕は夜になると空を見上げている。
そして、あの手紙に書いてあったことも、君のことも思い出す。
僕の彼女への想いは日に日に増していくばかりだった。
そんな中、僕にとって朗報が届いた。
ある日に彼女が別のクラスのサッカー部の男子にからかわれていた。その男子と彼女は小学校時代のクラスメイトだったんだと思う。
からかわれてる内容を把握したところ、どうやら彼氏と別れたとか別れそうだという状態らしい。
「マジで!別れたの?」
とその場で彼女に直接尋ねたかったが、そんな勇気はなかった。
でも、そんな勇気のない僕には武器とも言えるものが存在していたのだ。
それは手紙だ。
彼女との文通は続いてた。
直接聞けないことでも、手紙というものを介することで、聞けてしまうのが手紙の凄さだ。
僕は会話だったら絶対に聞けなかったであろう、彼氏と別れたかどうかを手紙があったことで彼女に聞けたのだ。
彼女からの返事には
「そうなんだ。別れたんだ。」
というようなことが書いてあった。
これで、彼女が彼氏と別れたことが証明された。
彼女のことを本当に想っていれば、これで喜んではいけないところだとは思う。でも、中一の僕は正直、嬉しかった。
僕は、彼女への想いを秘めておくことができなくなっていた。
そして、ついに彼女に自分の想いを告げてしまうことになった。
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