美しく悲しい日々を想う 1

僕は中学生になった。
1学年5クラスある学校で僕は1年5組だった。

基本的にその中学校は近隣4校の小学校で構成されていた。
一番人数が多かったのが自分の出身小学校の生徒だったので、同じ学年の半分くらいは顔がわかっているような状態だった。

ちなみに僕は人の顔と名前を覚えるのが苦手なので、中学生になって1ヶ月以上過ぎた時点でもクラスの半分くらいしか顔と名前を認識把握できていなかった。しかも、その認識には同じ小学校の人も含まれていた。

そんな頃、突然、声をかけられた。
「こまちゃん!吹奏楽部に入ってよ!」
声をかけてきたのはおかっぱ頭で、メガネをかけた、色の白い見知らぬ女の子だった。

突然のことで驚きながらも僕が返した言葉は
「いやだし。」

それから数日間このやりとりが続くことになった。

その子は同じクラスで吹奏楽部に所属するきさちゃんという女の子だった。
同じ小学校ではなかったため、僕はそのやりとりをするまで彼女の存在を認識できていなかった。
もちろん、彼女は本気で僕を吹奏楽部に勧誘してきたわけではないと思う。
予想になるが、僕とクラスで仲の良かった男友達とその子がすでに仲良くなっていて、その延長上で僕に声をかけてきたのだと思う。

そして、このやりとりがきっかけで彼女と話をするようになった。

同時期ぐらいに席替えがあった。僕が窓際から3列目の1番前の席で、彼女がその後ろの席という前後の席関係になった。
このことで、昼食を食べたりする時などの何か班ごとに活動する場合において、同じ班になることになったので、なおさら仲良くなっていった。

毎日、彼女と会話をしていく中で僕は彼女に惹かれていった。
彼女と話すことが嬉しくて仕方なかった。この頃は彼女と話すために学校に行っていたと言っても過言ではないだろう。

今となってはどんな話をしたかの記憶はないが、きっと他愛ない会話だったと思う。でもそんな他愛無い彼女との日々の会話が僕の生きがいだったのは間違いない。

気づけば僕は彼女のことばかり考えるようになっていた。
学校の時はもちろん、部活をしていても、家に帰っても彼女のことばかり考えていた。

あるときにふと気づく。
僕は彼女に恋をしたんだと。

なぜ彼女を好きになったのか、具体的な理由を考えたこともあったが、おそらくそれらは全て後付けだと思う。
気づいたら彼女を好きになっていたのが正しい気がする。

ある日僕がとあるCDを買った話を彼女にした。当時、人気絶頂だった浜崎あゆみがリリースしたAというシングルCDだった。
その話をしたところ、彼女がそのCDを貸して欲しいと言ってきたので、僕は喜んで貸してあげた。

何日か後、彼女はCDを申し訳なさそうに僕に返してきた。彼女の話を聞いたところ、そのCDを誤って踏んで壊してしまったとのこと。

「何やってんの!」
的な感じで、少し怒った風な返事をしたが、内心では全く怒っていなかった。
もちろん、ただの友達であればブチギレてしまったかもしれない。
が、彼女は特別なのである。
大好きな子が僕のCDを壊したところで怒りの感情は全く湧いてこなかった。

家に帰ってCDを確認してみると、確かにボロボロになっていた。
ジャケットのあゆの顔の辺りに5cmくらいの深い傷が入り、開閉部の片方の出っ張りの部分が折れてなくなっていた。CDを開けるたびにいちいちケースが外れる仕様になっていた。

さすがにちょっとだけテンションが下がったが、よくよく見てみると、そのCDの中に彼女からの手紙が入っていた。
その手紙にはCDを壊してしまった理由とともに、ごめんなさいという謝罪の言葉が記されていた。

この手紙は僕の宝物になった。

当時、確かに浜崎あゆみが好きだったので、そのCDもそれなりに大切なものではあった。だが、所詮ただの大量生産品のCDである。
それに対して彼女からの手紙は、彼女の直筆で書いてある、世界にたった一つしか存在しないものである。

この手紙をもらった時「CDを壊してくれて本当にありがとう」と心の底から思った。

この手紙がきっかけだったか、別のきっかけだったかは覚えていないが、このくらいの頃から彼女と文通をすることになった。

文通と言うと大袈裟な感じがするが、要は交換日記のような手紙のやりとりである。

多分、彼女は僕以外の人とも普通に手紙のやり取りをやっていたような気がする。他の人とはおそらくお互いに授業中に暇つぶし的な感じで手紙のやりとりをしていたんじゃないかと思う。

ただ、僕は不器用なので授業中に先生の目を盗んで手紙を読み、その返事を書くなんて器用なことは不可能に近かった。

僕の場合は、彼女から手紙をもらった時点でカバンにしまい。家に帰ってじっくりと読んだ上で、夜な夜なその返事を書いた。そして次の日に学校で彼女にその手紙を渡していた。

彼女から手紙をもらった時は、一刻も早く家に帰って読みたくて仕方なかった。部活なんてやってる場合じゃなかった。
家に帰ったら、真っ先に手紙を取り出しカバンを放り投げたまま、彼女からの手紙を読んでいた。

ちなみに、この文通が始まるきっかけとなった彼女からの手紙を彼女からもらった時に
「返事書いてね!」
と言われたことがあった。

その手紙の返事として書いた手紙は、僕が書いた最初で最後のラブレターになった。
残念ながらその手紙は残っていないので、具体的にどんなことを書いたかは記憶にないが、確実に彼女への想いを綴ったラブレターになっていたのは間違いない。
夜中にラブレターを書き上げた翌日、制服の胸ポケットに忍ばせて学校へ持っていった。

彼女とは前日に、明日になったら返事(手紙)を渡す約束をしていたので、その日は彼女からすごく催促されたが、ラブレターをそんなに簡単に渡すことはできずに、終始後で渡すからとはぐらかしていた。

結局、その手紙は渡すことはできずに家に持ち帰った。

家に帰ってその手紙を読み返してみたところ、かなり痛い内容が書いてあった。やはりこれは渡せないと判断して結局破って捨ててしまった。

ラブレターを夜中に書くという行為は危険なので、皆さんも気を付けてほしい。最低でも翌朝に見直した方がよい。
ただ、今になって思えば記念に残しておけばよかったと反省している。残念ながら幻のラブレターになってしまった。

その代わりに、その子への想いを伝えない内容の無難な手紙の返事を書き直して、次の日に持って行った。
前日に渡す約束をしていたので
「なんで昨日返返事(手紙)くれなかったの!」
と彼女は怒っていたが、君への愛の告白を書いてたから書き直したんだよとは言えるわけもなく、適当な理由をつけて書き直した手紙を渡した。

あの時にラブレターを渡していたら、その後の手紙のやりとりがなくなっていた可能性が高いことを考えると、結果的に渡せずに終わって正解だったと今なら思う。

学校で仲良く会話をして、文通までしてるというまさに順風満帆な片思いの日々であったが、やはりそんな人生はうまくいかないものである。



ある日、現実を突きつけられる出来事が起こった。



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