美しくも悲しい日々を想う 4


この頃から、彼女が僕に話しかけてくれなくなった。


僕から話しかけにいけば良かったのかもしれないが、僕は自分から誰かに話しかけにいくことが苦手だった。
普通の男友達相手でも、自分から話しかけにいくということはほとんど皆無で、基本的に相手が話しかけてくれたのに対して、答えることで会話が始まることが当たり前だった。

ましてや、大好きな女の子に自分から話しかけにいく、なんてことはできるはずもなかった。


これまでの彼女との会話も、彼女から僕に話しかけてくれることが始まりだった。
彼女から話しかけてくれなくなり、自分からも話しかけることができないということは、会話がなくなるということだ。
あれだけ、毎日会話をしていたことが、嘘だったかのように彼女との会話がなくなった。


「なんで話しかけてくれないの?」
僕の頭の中は、そのことでいっぱいだった。

「彼女に何かしてしまったのか?」
一生懸命、毎日頭をフル回転させて考えていたが、何も思い当たることはなかった。

彼女との会話がない生活は、本当に悲しく、苦しく、寂しかった。
彼女と会話したくて仕方なかった。
でも、自分から話かけにいく勇気はなかった。

文通も、僕からの手紙を最後に止まってしまった。
どんなに待っても、彼女が手紙をくれることはなくなった。


そんな日々が続いて、僕は狂いそうだった。
そして、僕と彼女の交流は完全に途絶えた。


僕の友人たちと彼女は楽しそうに会話しているが、僕がそこに加わることはない。
僕と彼女は、そもそも知り合いじゃなかったような関係になった。

この頃になると、僕はある2つの答えに辿り着いていた。

1つは
「これまでの半年間は全て夢だった」
という答えである。

これまでの、半年間の出来事は、全て僕の夢または妄想であり、そもそも彼女と僕は出会ってすらいなかったんじゃないかと考えた。

彼女は僕のことなんて名前すら知らない。
彼女と僕が毎日会話をしたことは幻。
彼女と僕が文通をしたことも幻。
彼女と僕が合図を送り合ったことも幻。

現在の彼女と僕の関係を考えると、その方が自然に感じた。

もう1つの答えは
「彼女は僕のことが嫌いになった」
という答えである。

彼女への手紙の返事だったのか、普段の学校生活の中でだったのか心当たりはなかった。でも、きっと彼女に嫌われることをしてしまったんだろうと思った。

または、実は僕が書いた告白の手紙への返信の時点で、彼女は本当はNOと言いたかったんじゃないと思った。
ただ、優しい彼女はそれを僕に手紙で伝えることはできなかった。
その結果、学校で僕と会うのが気まずくなって、僕に話しかけることをやめたのではないか。

もう確認することはできないが、きっとこのどちらかの答えが正解だったと今の僕は思っている。

僕と彼女は会話のない、ただのクラスメイトに戻っていた。
1999年が終わる最後の月のことだった。



3学期になっても、僕と彼女の関係は変わらなかった。
学校で会話することはもちろん、挨拶すら交わさない関係になっていた。


そんな中、バレンタインデーの日がやってきた。
もちろん2人の関係は冷え切っているので、期待するのがそもそも間違っている。でも僕は、心の奥底で少しだけ期待していた。
どんな義理チョコだとしても、彼女からもらえるんであればそれほど嬉しいことはなかった。

しかし、当たり前だが、彼女からチョコなんてもらえるわけもなく、その日を終えた。


このくらいの頃になると、僕は1つの決意をしていた。
「彼女のことはもう忘れよう」
である。

こんな関係になってしまっても、どうしようもないくらい彼女のことが好きで仕方なかった。
でも、この想いが報われることはない。
だから、もう彼女への想いは心に秘めようと思った。
一生懸命、彼女への想いを抑えることに努めた。
彼女を好きじゃなくなるよう必死だった。

3月、彼女と会話をすることはないまま、中学1年を終えることになった。


そして僕は、中学2年生になった。









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