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#読書感想文

國友公司『ルポ歌舞伎町』感想

國友公司『ルポ歌舞伎町』感想

これまで『ルポ西成』『ルポ路上生活』を著してきた國友氏の新刊。氏のルポの特徴は、その場に足繫く通うとか、数日間潜入するとかでは無く、実際その土地に居を移して住民として生活を送るというものだ。本作も歌舞伎町のヤクザタワーに転居し、取材対象として歌舞伎町の人々と出会うというよりは、同じコミュニティで生活する者どうしの出会い、さながらご近所付き合いのような形で人との繋がりが生まれていく。

ホス狂風俗嬢

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太宰治『皮膚と心』感想

太宰治『皮膚と心』感想

太宰治は、とにかく短編が良い。とりわけ女性の告白体小説の手法で書かれた短編は秀逸な作品が多く、その手法で書かれた作品のみを集めた『女生徒』という短編集が刊行されているほどである。
主人公である女性たちは、女性としての共通点を持ちながらも、それぞれがまったくの別人だ。男性作家が作り上げる女性は、飽くまでも“母として”“恋人として”など、ある特定の役割や年齢に縛られたテンプレート通りのキャラクターがほ

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ボリス・ヴィアン『心臓抜き』──心臓は停止し、天国は閉ざされる

ボリス・ヴィアン『心臓抜き』──心臓は停止し、天国は閉ざされる

『心臓抜き』(L'Arrache-cœur:1953)は、改題される前の草稿では『女王と小娘たち』というタイトルであった。またこの段階では、著者ボリス・ヴィアン(Boris Vian, 1920-1959)自身の自伝的要素が強い作品だったという。クレマンチーヌは彼の母親であるイヴォンヌの面影が色濃く投影されており、クレマンチーヌ=イヴォンヌはまさに「女王」として三人の子供たちに権力を振りかざすエゴ

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町田康『私の文学史 なぜ俺はこんな人間になったのか?』感想

町田康『私の文学史 なぜ俺はこんな人間になったのか?』感想

※2022年10月執筆。

猫のエッセイ(「エッセイって言葉がセンスないんじゃ。随筆と言ひ給へ」と本著に書いていた)を全部読んでしまったので読んでみたが、存外頭を使う内容だった。哲学書の類いはしばらく読めそうに無い。本著は以下のテーマに大別される。

・幼少期に読んだ本
・青年期に読んだ本
・歌詞について
・詩とは何か
・文体について
・“笑い”について
・小説家として影響を受けた小説家
・芸能・

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高野秀行『辺境メシ ヤバそうだから食べてみた』感想

高野秀行『辺境メシ ヤバそうだから食べてみた』感想

丸山ゴンザレスさんと同じくクレイジージャーニーで知ったノンフィクションライターの高野秀行さん。早稲田大学の探検部に所属し、その頃からハードな旅にチャレンジし、同部では今でも伝説的人物だとか。ちなみに、丸山さんの憧れの人物の一人でもあり、裏社会ジャーニーにも出演している。

元々(?)は幻獣や珍獣を探したり、辺境の地域の文化を紹介したりといった内容の著作が中心だが、本著はこれまで高野さんが世界各地で

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町田康『猫とあほんだら』感想

町田康『猫とあほんだら』感想

※2022年10月執筆。

シャンティーとパンクと出会うところから始まる。熱海で新居の内見をしている際に、候補にしていた物件の前に、衰弱しきった様子で捨てられていたのを発見し、これは放っておけぬと保護したわけだが、手遅れになる前に、生かそうとしてくれる二人に見付けられてよかった……。旧宅の近所に住む人が、仔猫のシャンティーとパンクを見てそのあまりの可愛さに泣いたと書いてあったが、写真を見ると無理も

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アンソニー・ボーディン『キッチン・コンフィデンシャル』感想

アンソニー・ボーディン『キッチン・コンフィデンシャル』感想

アンソニー・ボーディン。1956年ニューヨーク市生まれ。フランス人の血を引く父親はコロンビア・レコードの重役、母親はジャーナリストという恵まれた環境で育つ。温室で甘やかされ、苦労せずともそのまま上流階級の大人になるのだろうと純粋に信じていたボーディンは、少年時代にバカンスで訪れた父親の祖国フランスの地で、食の楽しみに目覚める。飛び級で高校を卒業し、ヴァッサー大学に入学。友人から紹介されて始めた皿洗

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町田康『猫のあしあと』感想

町田康『猫のあしあと』感想

※2022年10月執筆。
※暗い話題多めです。

町田康がまだ熱海に引っ越す前の、六本木時代の話。作中、生死の境を彷徨った末、一命を取り留めたエルという仔猫が登場した一方で(昨日読んだ『猫のよびごえ』ではすっかり元気な成猫となっていた)、2匹の猫が亡くなってしまった。
猫はとても賢く、それはもう人間なんぞ足元にも及ばないくらいなのだが、病気に罹った時の対処法や病院での診察や治療のこと、食事の管理等

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町田康『猫のよびごえ』感想

町田康『猫のよびごえ』感想

※2022年10月執筆。

久しぶりに丸山ゴンザレス周り以外の人の本を読んだ。町田康なら小説も読めるかも知れない。が、無理して苦しむ必要も無いのでこの後もエッセイを読もうかと思う。
猫のエッセイは能町みね子氏以来で、かつその前に読んだのは町田康の『猫にかまけて』だった。猫は好きだが、積極的に他人の猫のことを知ろうとしていない。SNSやYouTube等に於ける殊更に贔屓している猫アカウントなども存在

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丸山ゴンザレス『世界の混沌を歩く ダークツーリスト』感想

丸山ゴンザレス『世界の混沌を歩く ダークツーリスト』感想

※2022年10月執筆。

メキシコの麻薬戦争に潜入取材したら麻薬カルテルからめちゃくちゃ怖い脅しをされた話は、『人怖』で読んだのだったか。そこに至るまでの流れが、写真も交えて詳らかに記されているので、既知の話だが初見のように慄然とした。生きて帰って本当に来られてよかったね……。
警察が麻薬カルテルを放置している為、地元住民が武装して自警団を結成するも、カルテルのメンバー(現役含む)が加入しており

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草下シンヤ『怒られの作法──日本一トラブルに巻き込まれる編集者の人間関係術』感想

草下シンヤ『怒られの作法──日本一トラブルに巻き込まれる編集者の人間関係術』感想

私が草下シンヤさんの存在を知ったのは、丸山ゴンザレスさん経由なので、たった数年前のことである。彼は作家や漫画原作者として活躍している一方、彩図社という出版社で編集長を務めてもいる。
ここ最近投稿している読書感想文は、彩図社から出版されたものや、『裏社会ジャーニー』(草下さんがプロデュースを務めるYouTubeチャンネル)や氏のTwitterで取り上げられた作品がほとんどで、要するに彼のアンテナを張

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丸山ゴンザレス『アジア「罰当たり」旅行 改訂版』感想

丸山ゴンザレス『アジア「罰当たり」旅行 改訂版』感想

※2022年10月執筆。

そういえば昨日の昼間にクレイジージャーニーの再放送が流れていたそうで…電車の中で丸山ゴンザレスさんのInstagramのストーリー見て知ったので、視聴出来ず癇癪起こしそうになった。
とはいえ過ぎたことは措くとして、今月から同番組が復活するとの由、長らく待っていたので本当に嬉しい。すっかりテレビは観なくなったが、久し振りにリアルタイムで観たい番組が出来て感謝。ヤラセでもな

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小児性愛に関するメモ 斉藤章佳『「小児性愛」という病──それは、愛ではない』に照らして

小児性愛に関するメモ 斉藤章佳『「小児性愛」という病──それは、愛ではない』に照らして

※2022年5月執筆。

私個人にとって、数ある性犯罪の中でも、小児性暴力対する関心は極めて大きなウェイトを占めている。虐待含め、小児・幼児を相手にした犯罪にまつわるニュースは聞いているこっちが死にたくなるし、どれも未遂で終わったとはいえ、自分も幼少期に性被害を受けそうになった事が何度かある。
先月、丸山ゴンザレス氏の裏社会ジャーニーというYouTubeチャンネルに於いて、国民民主党の平塚正幸氏が

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國友公司『ルポ路上生活』感想

國友公司『ルポ路上生活』感想

※2022年9月執筆。

約半年前、裏社会ジャーニーで國友氏が宣伝も兼ねて出演し、路上生活について語っていたのを観て以来気になっていた作品だった。ようやく読めた。こちらも西成と同様、著者が実際にホームレス生活を行った様子を記したルポ作品である。

こちらがその動画。他にも2本あったので、路上生活の実態が気になる方には、ぜひご視聴頂きたい。

以前読んだ西成のルポでは、生活保護受給者に対し否定的な意

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