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妄想ショートショート部

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妄想好きなオトナ達が同じテーマでショートショートを書きます。
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#小説

限定ポテトとタカシ

限定ポテトとタカシ

 マジ最悪。またあの店員、ニヤニヤしながらこっち見てるし。デートが毎度この店ってどうなの?バイト先好きすぎでしょ。しんどいわ。

「お待たせ~。あ、お金店出てからもらうわ。こないださ、カナさん、あ、あの髪の毛ながい細い人に奢ったげなよ、とか言われてさ、見られててさ」

 ハンバーガーセットが乗ったトレーをテーブルに置きながら、息つく間もなく話し続けるのが私の彼氏。この店で土日バイトしているけど、バ

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おじさんとパンケーキと若者

おじさんとパンケーキと若者

 「良いっすよね♪朝からパンケーキ。糖分とると幸せな気分になるし」

グイグイと俺の前に相席してきたのは、スーツをしっかりと着ている割には髪はロングヘアーを一括りにした、サラリーマン風の若い男だった。

「にしても、朝は混むってわかってんだから相席が嫌なやつは来なきゃいいのに!」

先ほどの女性客に聞こえる程度のボリュームで言い放つ。

「ま、あの人たちが待つっていったから俺が今パンケーキにありつ

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たかみーが朝食を。

たかみーが朝食を。

え…あれ…たかみーじゃない?

いつからいた?なんで気付かなかったんだろう。こんな見える位置に…いや、本物かどうかわかんないけど。偽物?え?でもあんなに色白いおじさんいる?髪が綺麗なおじさんいる?窓際で朝の光が差し込んでキラキラしてるんだけど。あんなキラキラしてるおじさんいる?

周りの人は気付かないの?気付いてて知らないフリしてるの?となりの席の女の子たちはなぜ普通に座ってるの?たかみー知らない

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砂を掘るということは

砂を掘るということは

ザクッ、グッ、ドサッ

ザクッ、グッ、ドサッ

ザクッ、グッ、ドサッ

なるほどね、砂を掘るのはたぶん幼稚園以来だけどなんとなくコツ掴んできたわ。スコップの角度と勢いとどの位置でテコするか、ね。いけるいける。

つーか、どこまで掘ればいいんだ?足曲げれば見えなくなるくらい?全身?もっと深く?ネットで調べておくんだったな。ネットにあるか?「砂浜 深さ 人」みたいな?ああ、こんなざるみたいな計画、うま

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断崖絶壁

断崖絶壁

   梅雨が明けて久しぶりの晴れ間、暇すぎて昼で仕事場を追い出され半休になった。溜めていた録画でも見ようかと思ったら、電話が鳴る。

「アオイ、私、結婚することになったの。隠してたけど、お腹に赤ちゃんが居てね、もう3か月も過ぎてて、いつ言おうか悩んでたんだけどね、今日彼と一緒に籍を入れてきたの。」

と言い出した。

「……おめでとう。ちょっと驚きすぎて、そうなんだ。良かったね」

「母子手帳って

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白い金魚

白い金魚

おいおい、こんな街中でウェディングドレスで号泣してる女がいるよ…

引くわー。超絶引くわー。人よけてんじゃん。涙なの?鼻水なの?ってなってんじゃん。なんかの撮影かよってくらい綺麗に豪快に号泣してるわ。

まああれウチの姉ちゃんなんだけど。気付いてたけど。

25にもなってわんわん泣いてんじゃねえよ。

だいたいなんで今日なんだよ。智樹さんと衣装合わせだって言ってたじゃないか。そのままここ来たのかよ

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ふじいろ

ふじいろ

 結婚式が嫌いだ。お金を払ってまで、どうでもいい話を延々聞かされるだけ。本当に祝いたい夫婦には、個別でなにか送ればいいでしょう? 自分が結婚した時に呼べばいいじゃないと言われても、こっちは結婚する相手も予定もない30歳なのよ。

 薄紫のふんわりとしたギリギリ膝下のドレスは、妹が自分のお色直しのドレスが紫だからと無理やり合わせた。わざわざ何店舗も回って、渋る私と一緒に購入したのだ。本来なら、花嫁が

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希望

希望

夕方の図書館で一人ノートを開くあいつが眼鏡を上げる仕草を盗み見ながら、僕は教科書のページを繰る。

窓際に座ったあいつを縁取る夕日。真剣な横顔。眼鏡で滲む窓の外の景色。

僕はなんだかやる気をそがれて、教科書を鞄にしまって席を立った。

2020年。

世界は疫病に侵され、僕たちは唐突に日常を奪われた。疫病が日本に迫りくる年始、先輩方が粛々と試験に挑むのを、僕たちはただ祈って見守るしかなかった。入

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6月は出会いの季節かもしれない

6月は出会いの季節かもしれない

 僕は今、23年間生きてきた人生で初めての経験をしている。

「あの、これと同じようなのか私に似合いそうなのありませんか?」

そう言って割れた眼鏡を差し出してきたのは、小柄でフェミニンなワンピースを着た女性だ。フェミニンの意味はあまりわからないが、梅雨時の6月にピッタリな白地に紫陽花のような模様が入っている。多分これがフェミニンだ。

 コロナ自粛が終わって眼鏡を作りに来た僕は、検査が混んでいて

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雨

雨の日は嫌い。

湿気で息が吸いづらいし、どんなに撫で付けてもねこっ毛がぽわんぽわんするから。

アルバイト先へ向かう足取りは重く、このまま改札をくぐって消えてしまいそうになる誘惑を、通帳の残高に思いを馳せて思いとどまる。次の収入の当てがないと、やめられないな……。

遅刻してはいけないと思い直して、小走りにバイト先のコンビニに向かう。

店の入り口脇にあるゴミ箱の影から覗いている、しっとりと湿っ

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雨が雪にかわるように

雨が雪にかわるように

 2月にしては暖かいそんな日、雪予報の暗い空を眺めながら店のゴミ箱からゴミを集めていた。コンビニのバイトを始めた頃は、このゴミ集めが嫌いだった。でも、慣れてしまえば何とも思わない。

「リコちゃんも、後1ヶ月ね。寂しくなるわ」

「あ、でも、就職先もここから近いんで、仕事帰りに来ますから」

 店長は、お母さんと同い年位でいつも優しくしてくれる。オーナーである旦那さんが夜勤に来たら、バトンタッチし

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