限定ポテトとタカシ
マジ最悪。またあの店員、ニヤニヤしながらこっち見てるし。デートが毎度この店ってどうなの?バイト先好きすぎでしょ。しんどいわ。
「お待たせ~。あ、お金店出てからもらうわ。こないださ、カナさん、あ、あの髪の毛ながい細い人に奢ったげなよ、とか言われてさ、見られててさ」
ハンバーガーセットが乗ったトレーをテーブルに置きながら、息つく間もなく話し続けるのが私の彼氏。この店で土日バイトしているけど、バイトがない日も学校帰りは普通にここでデート。
「あのさ、私その人知らないし。店出てから払うなら奢りじゃないよそれ?」
制服にケチャップが垂れないように気を付けながら、ポテトに少しずつディップする。この店限定のポテトは悪くない。
「高校生でお互いお金がないのは当たり前なんだからさ」
こっちの話をまったく聞かずに、モシャモシゃとバーガーを頬張る。
「ねえ、あのレジの人、ずっとこっち見てるんだけど。まじキモイ」
「ああ、ヨリが可愛いから見てるんだよ。気にすんなよ」
こういう無神経なところは、まったく愛せない。
タカシは去年まで同じクラスだった同級生。文化祭の流れで告白されて顔は悪くないし、ノリも良いし、なにより他がみんな付き合いだす日に、自分も恋人が欲しかった。それから惰性で数カ月経っている。このまま素敵なJK最後の年を、タカシと過ごして良いのだろうか。
「ねえ、私さ専門学校いくじゃん?タカシは就職するじゃん?うまくやっていけるかな」
「ん?あー大丈夫っしょ。なんなら、俺と一緒に住んだりしてさ、結婚しても良いと思うわ」
他の店員にも聞こえるような大声で「結婚」。そんな言葉を軽はずみに使うほどノリが良い男なんだ。よく言えば、場の雰囲気を盛り上げられる男。悪く言えば、なにも考えてない。
「あ、俺プロポーズしちゃったかも。やっべーじゃん」
私が機嫌を悪くしたことにも気づかず、私の限定ポテトにまで手を出している。
夕方の店内は、夕食にはまだ早くがら空きだ。なのに、突然横の席に女の人が座った。
「あ、カナさん。お疲れ様です」
「お疲れ!タカシくん、また彼女と来てたんだ」
ああ、この人がカナさんか。たしかに、店にくるたびタカシが喋っている人だ。
「ヨリ、カナさん。店で一番きれいなんだよ。あ、今年就職だから店やめちゃうけど」
ひきつる顔を笑顔に変えて、
「本当にお綺麗ですね。タカシがいつもお世話になっています」
と挨拶したら、クスッとふき出した。
「なにそれ。お母さんの挨拶じゃないんだから」
しばらく、私を無視して二人でどうでもいいバイトの話をしていた。私にはわからない人の話を、私が居る空間でずっとずっと。
「あ、そういえばこないだのバーベキュー楽しかったね。今度は彼女ちゃんも連れてきたら?」
「いやー、ヨリはあんまり休みの日デートとかしないんですよね。平日にこうやって店で会うのが定番っていうか!限定ポテトめっちゃ好きだから、ここで充分っていうか」
は?バーベキューなんて聞いてない。タカシの休みの日だってバイトが忙しいから会わないだけなのに。
「えー、そうなの?私だったら、彼氏と外でデートしたいわ。免許も取ったし、私の運転でドライブとかして…」
全く私の目を見ず、タカシに向かってだけ言っている。
私は惰性でタカシと付き合っていたけど、タカシも同じだったんだ。学校で恋人が居るというステータスが欲しかっただけ。放課後にこうやって、形だけデートできる女が欲しかっただけ。
どう考えても、今のタカシはこの女の方が好きだ。この女もそれを分かっていて駆け引きしている。
限定ポテトが空になったと同時に席を立った。
「帰る」
気まずそうな顔をしたタカシと、クスッと笑う女の顔を横切り店を出ようとした。
「さっきのプロポーズお断りするね。毎日毎日ポテト食べたくないし」
300円をテーブルに叩きつけて、あっけに取られるレジの男に微笑み店を出る。
さよならタカシ。さよなら限定ポテト。
【妄想ショートショート部】
今週のテーマは、「カップル」「ファーストフード」 でした。
毎週お題を決めて、ショートショートを投稿しています。
珠玉のメンバーが妄想をぶちまけているのでお楽しみください。
【メンバー】
ダラ
https://note.com/daramam
たね
https://note.com/cherry_seeds
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