Dara

ゆるっとダラっと

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  • 妄想ショートショート部

    • 29本

    妄想好きなオトナ達が同じテーマでショートショートを書きます。

最近の記事

限定ポテトとタカシ

 マジ最悪。またあの店員、ニヤニヤしながらこっち見てるし。デートが毎度この店ってどうなの?バイト先好きすぎでしょ。しんどいわ。 「お待たせ~。あ、お金店出てからもらうわ。こないださ、カナさん、あ、あの髪の毛ながい細い人に奢ったげなよ、とか言われてさ、見られててさ」  ハンバーガーセットが乗ったトレーをテーブルに置きながら、息つく間もなく話し続けるのが私の彼氏。この店で土日バイトしているけど、バイトがない日も学校帰りは普通にここでデート。 「あのさ、私その人知らないし。店

    • 精霊馬とリメンバーミー

       明日からお盆休みが始まる。と言っても、今年はコロナの影響で実家には帰らない。仏壇もなにもない狭いアパートで、ただ一人静かに過ごすだけだ。18歳の夏、もう少しキラキラ楽しい青春があるかと思っていたが、大学も休校中で本当にやることがない。入学してから、まだ数回しか学校へ行けていない。 「帰ってくんなよ。都会から来た息子なんて、誰も歓迎しないぞ」 父親にも釘を刺された。確かに、この地区でも感染者は増える一方だ。友達もいない東京で、俺は誰にも知られずこっそり生きている。  休

      • 花火と猫かぶり娘

         うだるような猛暑の日。マンションの窓からバルコニーを確認する1人と1匹。1人は念入りに掃除をして、この日のために買った椅子とテーブルをセットしていた。  もう一度スマホを確認して、相手の情報をじっくり読みなおす。 「ナナさん。27歳だから僕より3つ下。猫が好き。食べ物の好き嫌いはないし、お酒も好き。結婚願望は強い。真面目な人が好き。健康な人が良い。よし。」 ブツブツ言いながら歩くサトルの足元には、猫がまとわりついている。元々実家で飼っていたが、親が老人ホームに入

        • ご来店、お待ちしてます。

          サクランボウさん執筆の「ご来店、お待ちしてます。」を朗読しました。 https://note.com/cherry_seeds/n/ne81ee110e65d

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          おじさんとパンケーキと若者

           「良いっすよね♪朝からパンケーキ。糖分とると幸せな気分になるし」 グイグイと俺の前に相席してきたのは、スーツをしっかりと着ている割には髪はロングヘアーを一括りにした、サラリーマン風の若い男だった。 「にしても、朝は混むってわかってんだから相席が嫌なやつは来なきゃいいのに!」 先ほどの女性客に聞こえる程度のボリュームで言い放つ。 「ま、あの人たちが待つっていったから俺が今パンケーキにありつけるんですけど」  行列ができるパンケーキ屋が、次の取引先だった。女性部下に偵

          おじさんとパンケーキと若者

          断崖絶壁

            梅雨が明けて久しぶりの晴れ間、暇すぎて昼で仕事場を追い出され半休になった。溜めていた録画でも見ようかと思ったら、電話が鳴る。 「アオイ、私、結婚することになったの。隠してたけど、お腹に赤ちゃんが居てね、もう3か月も過ぎてて、いつ言おうか悩んでたんだけどね、今日彼と一緒に籍を入れてきたの。」 と言い出した。 「……おめでとう。ちょっと驚きすぎて、そうなんだ。良かったね」 「母子手帳ってどこでもらうの?」 「ちょっと待っててね。あ、アオイ。またかけるね!じゃあね」

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          ふじいろ

           結婚式が嫌いだ。お金を払ってまで、どうでもいい話を延々聞かされるだけ。本当に祝いたい夫婦には、個別でなにか送ればいいでしょう? 自分が結婚した時に呼べばいいじゃないと言われても、こっちは結婚する相手も予定もない30歳なのよ。  薄紫のふんわりとしたギリギリ膝下のドレスは、妹が自分のお色直しのドレスが紫だからと無理やり合わせた。わざわざ何店舗も回って、渋る私と一緒に購入したのだ。本来なら、花嫁が主役の結婚式で被った色は着ないだろう。昔からなにかと姉の私とお揃いにしたがる妹は

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          6月は出会いの季節かもしれない

           僕は今、23年間生きてきた人生で初めての経験をしている。 「あの、これと同じようなのか私に似合いそうなのありませんか?」 そう言って割れた眼鏡を差し出してきたのは、小柄でフェミニンなワンピースを着た女性だ。フェミニンの意味はあまりわからないが、梅雨時の6月にピッタリな白地に紫陽花のような模様が入っている。多分これがフェミニンだ。  コロナ自粛が終わって眼鏡を作りに来た僕は、検査が混んでいて選び終わった後も意味もなく店内をウロウロしていた。そんな時、いきなり知らない女性

          6月は出会いの季節かもしれない

          雨が雪にかわるように

           2月にしては暖かいそんな日、雪予報の暗い空を眺めながら店のゴミ箱からゴミを集めていた。コンビニのバイトを始めた頃は、このゴミ集めが嫌いだった。でも、慣れてしまえば何とも思わない。 「リコちゃんも、後1ヶ月ね。寂しくなるわ」 「あ、でも、就職先もここから近いんで、仕事帰りに来ますから」  店長は、お母さんと同い年位でいつも優しくしてくれる。オーナーである旦那さんが夜勤に来たら、バトンタッチして帰っていく店長。夫婦で一緒に過ごす時間はほぼ無いらしい。 「今日、雪予報だか

          雨が雪にかわるように