ミーシカ

初めての愛読書は「北極のムーシカムーシカ」でした。 擦り切れるほど読みました。

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  • 妄想ショートショート部

    • 29本

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最近の記事

故郷

嫌な事があって眠れない夜は、海を見ると不思議と心が落ち着いた。 海面に映ってきらきらと揺れる街灯り。繁華街の夜景が照らす水面は、華やかで喧しく、だが孤独を癒す灯りだった。あの灯りの一つひとつの下に人がいる。 都会に住む私は、暮していくための糧を得るのに心がいっぱいで、自分の孤独から目を背ける事を覚えた。 物心ついた時にはすでに両親はいなかった。老いて幼い私に依存してくる祖父母と暮らしていた日々。祖父母が家に泊めた若い男が、部屋に入ってきたときに、何かが音を立てて崩れ、私

    • 希望

      夕方の図書館で一人ノートを開くあいつが眼鏡を上げる仕草を盗み見ながら、僕は教科書のページを繰る。 窓際に座ったあいつを縁取る夕日。真剣な横顔。眼鏡で滲む窓の外の景色。 僕はなんだかやる気をそがれて、教科書を鞄にしまって席を立った。 2020年。 世界は疫病に侵され、僕たちは唐突に日常を奪われた。疫病が日本に迫りくる年始、先輩方が粛々と試験に挑むのを、僕たちはただ祈って見守るしかなかった。入試改革前年。先輩が、志望校のランクを下げてでも浪人せずに受かった大学へ行くよって

      • 雨の日は嫌い。 湿気で息が吸いづらいし、どんなに撫で付けてもねこっ毛がぽわんぽわんするから。 アルバイト先へ向かう足取りは重く、このまま改札をくぐって消えてしまいそうになる誘惑を、通帳の残高に思いを馳せて思いとどまる。次の収入の当てがないと、やめられないな……。 遅刻してはいけないと思い直して、小走りにバイト先のコンビニに向かう。 店の入り口脇にあるゴミ箱の影から覗いている、しっとりと湿った猫と目があった。薄く汚れた灰白色の足と茶色の背中。たまに見かけるけど、決して警

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