サクランボウ

錯乱坊とも呼ばれています。

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  • 妄想ショートショート部

    • 29本

    妄想好きなオトナ達が同じテーマでショートショートを書きます。

最近の記事

猫の恩返し(クリスティーナの場合)

 その猫は、怒っているようだった。 「ちょっと、『その猫』なんて言わないでくださる?私にはクリスティーナっていう素敵な名前があるんですから」 − おっと、それは失礼しましたクリスティーナ。……君、僕の声が聞こえるの? 「ある程度生きてると、人間や動物の言葉だけじゃ物足りなくなるのよ。ナレーションも聞こえてくるわ」 − まるで「くまのプーさん」のアニメーションのようだね。 「知らないわ」 − それはまた失礼しました……名作なんだけどなぁ。ところで、なぜ怒っているの?

    • ご来店、お待ちしてます。

      5月25日  今日は久しぶりのバイト。コロナからの緊急事態宣言、やっと解除〜バイトもずっと休みで干上がるかと思った。社員さんたちはずっと出てるんだもんな、社会人って感じ。新宿駅のホームは人だらけで、店にもひっきりなしにお客さん。皆マスクでいつも以上に無口。ロボットみたいだ。そんなこと思いながら接客してたから、一度だけお釣りを間違う。もう、みんなSuica使えよ。 5月26日  暑い。蒸し暑い。もう梅雨か。昨日よりもっとお客さん多くて、ドリンク類がかなり売れた。なんとなく、食

      • こんな海じゃ溺れない

        「ねえ運転手さん。この人降りたら、海に行ってください。近くでいいからお願いします」  ベロベロに酔いつぶれた挙句、私に寄りかかって爆睡している同僚をすみに追いやりながら、そう告げたところまでは覚えてる。  今、国道沿いを歩きながら、波の音を聴いているのはそのせいだ。こんな夜更けに、湘南にいるのはそのせいだ。  全然近くはなかったけど、確かに、この上なく海らしい海にいる。  でも、あそこで降りたはずのこの人は、どうして一緒にいるのだろう。まだ酔いの覚めない顔をして、ふら

        • カメラマン(仮)

           ずっと馬鹿みたいに晴れてたのに、今日は朝から雨だった。日頃のおこないか?今日、姉は嫁に行く。  こういう堅っ苦しい式みたいなのは苦手だけど、まあ、家族のだし。タダ飯食えるからいっか、くらいに思ってたのに。2年前から趣味で始めた一眼レフ。こいつのせいで、今日は一日カメラマンだ。  ちゃんとプロに頼めばいいのに。こだわりはないのかね、そこに。「あんたに撮ってもらいたい」とか、なんだそれ。こういうのって記念だろ?いいのかよ。素人だぞ。学生だぞ。弟だぞ。ケチんなよ、そこ。  

        猫の恩返し(クリスティーナの場合)

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          はっきりと見える

           柴田美優は、少し疲れていた。  今は夏休み。中学三年、受験生である美優にとって、さほど楽しくない勉強の夏。周りもみんな、なんとなく緊張したような、憂鬱な空気を溜め込んでいるように見えた。  「受験勉強は楽しくないけど、塾は嫌いじゃない」  エアコンの効いた教室で、問題を解きながら美優は思う。他校の生徒も集まる駅前のこの塾は、志望校と成績別にクラスが分かれている。それは少し嫌だけど、同じクラスに知り合いは一人もいない。知らない人たちに囲まれて、なんでもない自分が居るここ

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          素顔とコンビニ

          マスクの下の、顔が見たいと思った。 そのコンビニは、駅までの途中にある。 引っ越したばかりの自宅から、駅までの10分間にコンビニは4軒。 1つは駅の中。 駅と自宅近くばかり使うから、そこに立ち寄ったのはたまたまだった。 4月なのに汗ばむほど暑い日で、アイスコーヒーのPOPに惹かれて入っただけ。 そこで私は、彼をみた。 レジで聞かれた「袋に入れますか」の一言。 マスク越しにしてはよく通る声が、背丈の割に少し高めで気になった。 支払いを済ませながら、チラ見したの

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