ハンプティ

どんなお題で書いてもBのLになってしまうという持病を抱えた鳥です。

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  • 妄想ショートショート部

    • 29本

    妄想好きなオトナ達が同じテーマでショートショートを書きます。

最近の記事

レポート

《6月13日 懇親会の帰り、忘れ物を取りに部室に寄ったら、電気の点いていない部室で誰かの首筋に顔を埋めている堂浦センパイを見てしまった。相手は後ろ姿でわからない。おれはセンパイと目が合って、気まずくて逃げ出してしまった。暗闇にいる彼はまるで絵画のようだった。純血のヴァンパイアがいるとしたら、きっとあんなふうに吸血するんだろう。》  もしも、彼がおれの憧れの、純血のヴァンパイアだったのなら。  その日から、おれは堂浦センパイを観察することにした。  大学に入学してすぐ、お

    • ウィークリー〇ープ届いた日に食べ過ぎちゃうBのLの話

      ※このお話は、以下のツイッターアンケートを元に書いた、内輪で楽しむお話です。  夕方仕事から帰宅すると、玄関先で銀の遮熱カバーの直方体に囲まれた吉野が、涙目でドーナツを握りしめていた。 「松ぅ…どうしよ…僕、ぼく…。」 「ただいま。それ美味い?」  下駄箱の上に置かれた小さな段ボール箱には、小ぶりなドーナツが、1、2、3… 「うん…10個入りを二人で一週間かけて食べるつもりが、気がついたら4個も食べちゃって…。」 「これは?」 「これ、は、5個目…松、お腹空いて

      • 続・早とちり

        ※この話は以前書いた【早とちり】の後日談です。先にそちらを読んでからどうぞ。  執筆缶詰旅行から帰って来て、2週間ほどになろうとしていた。  海辺の生活はこれまでのどの気分転換より効いたらしい。  夜の海を散歩した翌朝から、行き詰まって家を出た前日が嘘のように、すこぶる作業が捗るようになった。  書いた、というよりは、頭の中に湧いた文章を文字に起こし続けた、と言った方が正しいかもしれない。寝食を忘れて書き留め終わった頃、延泊を重ねた滞在は1週間が過ぎ、手元には3ヶ月分の原

        • 焼肉

          「今まで言い出せなくてごめん。実はここ、事故物件だったんだ…。」  大学を卒業し、4月に入社して、早3ヶ月。  新入社員は、この部屋の家主の松下の他に、岡本、平川、工藤の男ばかりが4人。  部署は違うものの、全員が上京組で周りに知り合いが少なく、皆で示し合わせては目新しい飲食店を開拓したり、誰かの家に集まったりするようになった。  中でも、会社のあるオフィス街から私鉄で10分、駅徒歩7分に住む松下の1DKは、同期の恰好のたまり場で、今日も4人で食卓を囲むことになっていた

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        • 妄想ショートショート部
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        記事

          化け猫

          「こないだヒデの弟に久しぶりにバッタリ会ったよ。」 「ノブに?」 「うん。登校日だったのかな。ランドセルちっちゃくなってた。身長も抜かれちゃったかも。」 「6年だからな。背の順、一番後ろなんだって。」  坂を登ると、鳥居から一番近い自動販売機に自転車を並べる。  工藤はいつものようにレモン味の清涼飲料水のロング缶のボタンを迷いなく叩いた。その手の甲に汗が弾けて、傾き始めた西日を反射していた。  重たい缶が取り出し口に落ちる音を聞きながら、小銭を入れる。炭酸飲料。真

          AM7:30

          「僕はここのモーニングが好きでね。もし何か苦手なものがあったら遠慮なく言って下さい。」  前菜の向こう側に座った男は耳障りのいい声でそう言うと、並んだ銀食器を内側から使うのか外側から使うのか忘れて考え込んでしまった俺を見て、にこやかに微笑んだ。  髪をビシッと撫でつけた熟年のウエイターが、ワゴンに置かれた料理を真っ白なテーブルクロスの上に並べていく。 (スープはおそらくこの丸いスプーン…とすると、外側からか…?) 「もしかして、朝はそんなに食べない派だったかな。」

          早とちり

           初夏、執筆に行き詰まり、宿をとった。  行き詰まったと言っても、生みの苦しみというような大層なものではない。ただ、元来、呼吸をするように言葉が内から溢れてくるタイプではないのだ。  海岸沿いの平地に建つ古宿は、その立地から窓いっぱいに水平線が見渡せる造りになっていた。  壮観な景色に、窓を開けて目一杯潮風を吸込みたかったが、畳の真ん中の座卓に置かれた『虫が入るため、窓を開けないでください』の注意書きを見て我に返り、食事の後に海岸線を歩くことにした。  堤防沿いの道はL

          クーラー

          『へー。あんなに気強いのにね。』 「そこがいいんだって。義兄さん、物好きだよね。」 『ドMの人だ!』 「元カレのくせにそういうこと言う?」 『小学生の時の話だろ!』  大体アレは、彼氏とかじゃなくて、ほぼ舎弟だし。おまけに2週間で一方的に解雇されたんだって。  という工藤の恨み節まで含めて、この流れは姉が話に出る時のお約束になっていたが、この度、姉の結婚が決まったので、今のを最後にめでたくお蔵入りだ。 「それで、ドレスの試着に付き合ったんだけど、ふざけて俺にもドレ

          カーテン

           やってしまった、そう思ったが後の祭りだった。  縁から外れたプラスチックレンズと、真ん中で折れつつある紺色のフレームが、俺の手の下でアルミニウムの悲鳴を上げていた。 「わわ、ごめん、委員長!」 「いいよ、伊達だし。」 「ないと不便だろ。これから眼鏡屋に…え、伊達?」 「そう。度、入ってないの。」  窓際のカーテンが翻る度に、唸るような蝉の声が、布の隙間から教室に響く。  机の上のひしゃげたフレームを見つめながら、彼女は静かに答えた。  ふざけて、よろけて、手を

          遠雷

          「マージで可愛いから見てみろって!」  たまんないんだよなあ、お釣り渡すときに必ず顔見てニコッてしてくるんだよ。オレだけにじゃなくてさ、みんなにやるんだよ。態度悪いオッサンとか、長話のおばあちゃんとか、分け隔てなく!本当にいい子だよなあ!そう思わねえ?  俺が知る限り、入社して以来、6年連れのいない同僚は、早口でそれを言い切ると、ハァーッとか、クゥッとか、声にならない声で感情の高ぶりを噛み締めているようだった。  息の白さに透けた横顔が、頬から首まで紅潮している。 「マ