【歌から妄想してみた】第四回 ハリケン・リリ、ボストン・マリ

歌から妄想してみた。(本企画主旨)始まりました。少し間が空いてしまいましたが、まだ妄想は続いております。第一回のDameged lady(KARA) 第二回の一等星になれなかった君へ(チャットモンチー) 第三回のTake@chance(miwa) に続いて、今日は第四回ハリケン・リリ、ボストン・マり(AAA)であります。

この曲ですが、2007年にリリースされた曲であります。僕自身、AAAはあまり聞かないのですが、姉の影響でライブに連れて行ってもらったことがあります。姉の友達が急病で急遽招集できる人が家にいた僕ぐらいしかおらず、連れて行ってもらったのでありました。僕は特にAAAについて予習する時間もなく、知らない曲のテンポに合わせて手をたたいて見ているだけでありましたが、アンコールでこの歌が流れ、会場一体となってタオルを振り回すときだけはAAAを知らない僕も聊か前のめりになっていたように思えます。

その印象が今でも強く心に残っており、この歌を選択しました。この歌、歌詞を聞くと独特な世界観でありまして、不思議な妄想ができました。「そろそろ一人前になる炊き」という言葉から「UFO」という言葉まで、一見関連性のない言葉の羅列のように見えますがそれが妄想をさらに掻きたてたように思えます。それゆえ、約8000字に及ぶ、ショートショートのような妄想となりました。

僕はこの歌から、宇宙、UFO、そしてSFというのを想像しました。先ほども言いましたように、少し、妄想が長くなりましたので今日と、明日、二回に分けて妄想を披露します。以下太字部分妄想。

             【輝くコメ】

S・35 太田晴男(15) 

 「炊きあがった――。」鍋窯を開けたときには、もくもくと上がった湯気が視界からなくなると、やがて白く輝く米が見えた。この瞬間は大そう喜ばしい。そして、まだ熱く、触るとやけどしそうなご飯をしゃもじで救って食べてみる。手にとった瞬間に口に放り込む。口が焼けそうだ。でもうまい。水加減も丁度いい。ここまで来るのに、何年かかっただろう。もう5年くらいの時を費やしているのである。小学4年からだ。「こら、晴男。仏さんに最初のご飯は備えなければだめでしょう。まったく、何回言っても聞かないんだから。」「ごめんなさい。」母にはいつもこのことで怒られる。自分が仏の毒味のような役割を果たしているのだ。口に出さない言い訳を思い浮かべる。
 食卓には、僕の作ったご飯と母の作ったおかずが並ぶ。家の決まりでは、父がすべての食材の味を確かめるまでは僕と母と、そして妹二人は箸をつけることができない。以前、至極腹が減っていた時に、父親が食卓に入る前に箸をつけたところ父親が食卓に入ってきて、「誰のおかげで、食べさせてもらっとると思っているのか。」と殴られたことがある。僕はお腹がすいていても、つばを飲み込むしかできないのである。
 父親は僕の炊いたご飯を一口食べると、「晴男。ご飯を炊くのがうまくなったな。そろそろ一人前だ。」父親の褒めの言葉に、「ありがとうございます。」という言葉を返す。そろそろ一人前ということはまだ一人前ではないということだ。明日は一人前になり、父に一人前と言わせることができるだろうか。
 父が合図を出すと、母が「私たちも、いただきましょう。」といって、兄弟三人が声をそろえて、「いただきます。」と言う。そして、待っていた。ご飯は昨日より、そして1年前よりは断然おいしくなっている。そろそろ一人前だ。箸の持ち方や、食べる時の音などを父親に注意されながらも、僕はおいしくご飯を食べ終えたのであった。
 そして、先ほどの鍋窯を外にでて、井戸の近くで丁寧に洗う。ここまでがご飯を炊く、僕の仕事だ。いつも煤(スス)が顔どこかについて、妹にからかわれるか、母にあきれられる。今日もきっとどこかに煤がついているのだろう。
 外はすっかり暗い。空を見上げると、満点の星空。あの星は何万年前のものだろう。空の先には何があるのだろう。僕が見たことない世界が広がっているだろうか。僕と同じようにご飯を上手に炊ける人はいるだろうか。
 想像しているとなんだかワクワクしてきて、空に向かって、右手を高く掲げて飛び跳ねた。ピョンピョン飛び跳ねる。楽しい。何をやっているのかわからないが笑みがこぼれてくる。このままずっと飛び跳ねていられる。「晴男!」背中から寒気が走った。そして、身体は自然にジャンプを止めた。「なにやってるの!馬鹿なことを!早く鍋を洗ってちょうだい。」
 僕は再び鍋を洗う作業に戻った。先ほどの我を忘れて点に向かって右手を掲げて飛び跳ねた感覚は思い出すと不思議であった。なぜ僕はあのような行動したのだろう、そしてなぜ笑っていたのだろう。冷静に考えるとわからない行動だった。
 鍋をもうすぐで洗い終えようとしたその時だった、背中を奪うような感覚と、ものすごくまぶしい光が襲ってきた。

H・30 山田幸喜(25)
 
 ダメだ。歯を食いしばった。多大なる自己否定感にさいなまれながら、多くの人がすれ違う、街のなかを歩く。そして、ラーメン屋に入る。ラーメンとチャーハン、餃子のセット。ダイエット中のはずだったが、食わなければやっていられない。
 伝わらないのだ。自らの優しさや真心、親切心が。たとえ、やさしく、丁寧に紳士的に説いたとしても、それが契約につながるわけではない。皮肉にも、商品の良い点を誇張しすぎる表現や営業先の悪口を平気で言うような人々が僕の二倍や、三倍は稼ぐ。そして、彼らの評価はあがる。僕の場合は営業先の信頼度や満足感というもの、そして接客に関しては長けている自負と自信がある。しかし、それは数値化されない。
 僕らに求められるのは、駒としていかに自社の電化製品を売るか、そしていかに自社の電化製品が優遇されて陳列され、アウトカムとしてその売り上げが入ってくることである。僕は営業に向かないのかもしれない。
 毎日、会社に帰ると上司と同僚からの冷ややかな目と言葉が襲ってくる。「太っているから、営業成績がのびないんじゃない?少しやせたら?」彼らは、僕の営業成績が悪いという結果からどんどんと原因を見つけ出し、指摘してくる。それは、体型のことや時には彼女がいないなどの人格批判にも及ぶ。
 本当にそれでいいのか。営業成績され良ければ、只自社の商品を駒として売りさばくことさえできれば。僕の考えは少し異なっている。商品に包含されている「優しさ」、「思いやり」とともに売ること、そして「長期的な関係性を前提に、安定した事後対応をすること。それこそ営業のあるべき姿ではないか。ひいてはそれが短期的には利益をもたらさなくても、長期的には利益をもたらすのではないか。」僕はこのことを上司に言ったことがある。それを聞いた彼はこういった。「それは、お前が営業成績を向上させて、管理職クラスになってから気にすることだ。お前は、財務諸表も読めないのか?会社は当期の利益が出なければ、回らないのだよ。お前は無責任だから、そんな耳心地の良い言葉が言えるんだ。」彼は鼻で笑うと、僕の下を立ち去った。
 嫌な思い出をもう泣きそうだ。こうして食べていると、また、太る。やけくそでラーメンとチャーハンと餃子をかきこむ。そして、午後の営業先へと向かう。

                 〇
 
 午後の営業先を回り終え、会社に戻った。すると、後輩の高山もそこにいた。彼は営業成績がトップクラスである。しかし彼は顧客に商品を売ることしか考えていない。彼は営業先の人の悪口を平気でオフィスで述べる。その悪口は「死ね」や「馬鹿」などの非常に汚いものであった。僕はこのようなタイプとは相いれない。しかし、彼の方が社内において評価が高いことは紛れのない事実である。
 そのこともあってか、彼は僕を大そう見下していた。オフィスに入った僕の姿を見て、彼は言った。「お、山田さんじゃないっすか。今日も顔だけは働いたような顔してますね。営業どれくらいとれたんですか?」僕に対して、行われる定番の質問だ。僕は、「午前はアフターの対応で、午後は行ったけど、ゼロ。」ここで、午前の説明をしてしまう僕は自分の彼に対する敗北感をなんとしてでも軽減したいのである。「結局ゼロじゃないっすか。勘弁してくださいよ。しわ寄せこっちにくるんすから。外資だったらとっくにクビですよ。」彼はわかっているようだ。どうあがいても、どう理想を述べても僕は結果がでていないということを。
 僕は、結果というものの残酷さと、自分の無能ぶりを心底感じ、落ち込んで会社を後にするのであった。帰り道、歩きながら僕は考える。そろそろ転職も考え時か。しかし、高卒で、しかも営業成績も振るわない僕は転職市場においては不利に働くのである。安易に身動きはとれない。しかも、自分に向いていることすらわからない。
 ついには街の真ん中で、足をとめ、ふと夜空を見上げる。そこにはきらりと光るものがあった。あれは明らかに流れ星ではではない。光るものの軌道は不規則なのである。なんだ、あれは。幻想か。目をこすって、もう一度空を見上げても同じような不規則に揺れ動く光が空に輝く。
 それに目をとられていると、背中に震えが走った。そして、目にフラッシュをたいたような、視界を遮るまぶしい光が指す。
震えと光は同時に収まった。目の前に何やら飛行物体が留まっているようだ。まさか、UFO?このようなSFファンタジーのようなことが起こりうるのか。しかも待ちゆく人たちは現れたUFOに目もくれないで歩いている。奇妙だ。
 その飛行物体のドアが開きタラップがおり、現れたのは、明らかに服装が現代人でない、サザエさんのカツオのような恰好をした少年。目は不思議なものを見たようにきょとんとしているが僕の方をずっと見る。僕の方をずっと見る彼。いったいどこから来たのか、彼は宇宙人なのか。この状況を抜け出したく、僕は逃げようとするが、あまりの怖さに腰を抜かしてしまった。腰を抜かしたのは人生でこれが初めてで、本当に動けなくなるものだ。立ち上がることのできない僕にUFOから降りてきた彼はどんどんと近づいてくるのである。しかし、彼は僕の顔をじっとのぞき込む。鼻のところに黒い汚れをつけている。彼は、依然として僕を不思議そうにみる。僕は声を上げる。しかし、誰も見向きもしない。かといって逃げることもできない。
 僕は仕方なく彼に話しかけた。「き、き、き、君は誰?」声が震えて言葉がでない。「太田晴男、お兄さんこそ誰?ここはどこ?僕、家に帰りたい。」
 太田晴男。どこかで聞いたことのある名前。そして、見たことのあるような顔。ああ。先月惜しまれながら生涯を遂げた家電の神様、太田晴男である。彼は確か、技術者として数多くの家電を開発し、その後いくつもの会社を率いた人物だ。日本人の一度は目にしたことがあるだろう。とりわけ彼はたしか炊飯器における大幅な技術革新をしたことで有名である。                 
 僕は、恐る恐る、彼に言う。「僕の名前は山田幸喜。ここは2018年。東京。」「ええ、2018年!、嘘だ。今は1960年だろ!」僕の発言を信じられない様子だ。「僕は手帳を取り出し、2018年という文字を見せる。」しかし、彼はまだ信じていないようだ。「嘘だ。嘘だ。」彼は、泣き始めた。「家に帰らせてよ!」その場で大声で怒鳴るが、待ちゆく人々は僕らに目もくれない。僕は彼に言う。「飛行機に乗ればいいんじゃない。」彼はUFOに駆け戻った。しかし、UFOはタラップの下りたままでびくともしない。しばらくすると、彼が再びこちらへと来た。「まったくうごかないじゃないか!」、僕はため息をつく。まだ、事態は受け止め切れていない。太田晴男がなぜここに子供の姿として存在するのか、またすべてがすべてわからない。その中で、太田晴男の鼻のところについた煤が気になった。そして、僕は仕方なく言い放った。「太田君、こうしていても埒があかないので家に来ない。」晴男は静かに頷いた。

続く

では、明日はこの続きをアップします。お楽しみに。


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