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向いてないと思う仕事と向き合って得たもの

梅雨が明け
いよいよ夏が始まった。

転職先の職場で初めて迎える夏だ。

 
私は夏の暑さに弱くて
例年夏場は体調不良になりやすかった。
最高気温が30度以上になると食欲不振になりやすく
私は今月に入ってから連日給食を残していた。

 
この前、最高気温35度の日に
私の職場は某イベントに出店した。
出店場所は野外である。

 
私は勤務日ではなかったが
出勤した職員の方々は私の体調を心配した。
私もその一週間後に
イベント出店販売の勤務予定だったからだ。

 
同僚は暑さ対策を色々教えてくれたし
私自身も暑さ対策をすべく
熱中症対策について調べたり
様々なものを用意した。

 
転職して一年目の私は
販売業務は二回目だったし
一回目とは会場や勝手がかなり異なるのである。

 
イベント出店がある週
私は熱中症や脱水のような症状に襲われ
仕事中、人知れず耐えていた。

 
私は体調不良な中仕事をしていても
同僚にはまだ言えなかった。
そこまで心を開いていなかった。

 
「夏弱いなら、無理しちゃダメだよ。体調不良の時は言うんだよ。」

 
同僚は私が無理をしてしまう性格を知っていて
何度もそう言ってくれた。

 
体調不良だということは言えないが
同僚の助言もあり
職場で禁止になっているポカリをこっそり飲んだり
同じく禁止になっている塩タブレットをこっそり食べるくらいのことはしていた。

私は例年夏バテした時はポカリを飲んで乗り切っていたし
転職先は夏場も容赦なく野外仕事がある為(しかも当日急に指示される為)
塩タブレットも必要だと思ったのだ。

 
 
そうして、イベント出店に向けて私は毎日準備していた。
転職した私はイベント準備だけすればいいわけではなく
イベント準備に加えて
新たな仕事も次々に任され
一日一日があっという間に過ぎていった。

 
そんな中、明日はイベント出店という日を迎えた。

利用者が帰宅後、同僚達と最後の準備追い込みをしていた時
私は呼び出しをされた。

 
当初、呼び出しの要件は3分で終わる予定だったが
成り行きで40分になり
周りの同僚は私に何があったかを心配していた。

 
その40分の時間は私にとって辛いもので
私は俯き
涙を堪え
本音を隠して無難な言葉を選択しながら
吐き気と激しい動悸と一人戦っていた。

 
転職先でここまでメンタルがやられ
吐き気と激しい動悸と戦ったのは初めてだった。

 
私は、いらない人間だ。
やっぱりここの仕事向いてない。
辛い。

 
私の目の前にいる人は
悪気なく容赦なく笑顔で無意識に
私の心をグサグサと傷つけていった。
 
 

私がようやく解放され
部屋を出た時
先ほどまで一緒に仕事をしていた同僚達は
私の異変に気づいた。

現場リーダー「(戻りが遅いから)真咲さんの仕事、やっておきましたよ。俺がやったからいまいちな出来だけど…真咲さん流に直しちゃって大丈夫ですから。」

 
私「お忙しい中、ありがとうございます。現場リーダーがやったのなら、大丈夫ですよ。」

 
同僚A「どうしたの?何言われたの?何があったの?」

 
私「心がグシャグシャでさっきから気持ち悪いです…。明日イベントに向けて頑張りたいのに、明日に向けて心身崩さないように気をつけてきたのに、準備してきたのに……。」

 
同僚A「…話聞くから。とりあえず、会議始まるから会議に行きましょう。」

 
私「はい……。」

 
 
思えばこれが同僚にこぼした
初めての体調不良だった。

 
 
会議の後、私はAさんと帰ろうと思った。
施設から出た後に話をしようと思った。

 
 
すると、同僚Bさんが後ろから追いかけてきた。
Bさんは私が先ほどの40分の間にどんな状態か察していた。同じ部屋にいて一部始終見ていたからだ。
 
「真咲さん、今の状態で帰ってもモヤモヤしたままで、明日の勤務にも差し支えるんじゃないですか?もしよければ話を聞きますよ。」

私はAさんに先に帰っていて大丈夫だとアイコンタクトし
その場にBさんと残った。

 
私はBさんと話しながら
堪えていた涙がボロボロ落ちて
本音を打ち明けることができた。

私はBさんを信頼していた。
Bさんは私を決して否定しないし
いつも私を受け入れて共感してくれるからだ。

 
私はBさんと30分以上話し
気持ちを分かってもらえたことで
気持ち悪さや動悸息切れが和らいできた。

本当にありがたかった。

最後は笑うくらいの余裕も出てきた。

 
「話を聞いてくださってありがとうございます。」

 
私は職場を後にした。
外はどしゃ降りで車に乗るまでの間に体が濡れた。

 
車内でスマホを見ると、LINEが届いていた。
同僚Aさんからだった。

「同僚Cさんと二人で、真咲さんの様子が変だったので心配で先ほどまで駐車場で待っていましたが、現場リーダーからまた真咲さんが話を聞かれていると聞きましたので先に帰ります。

何があった?

落ち着いたらでいいので、LINEください。心配です。」

 
私はそのLINEを見て号泣した。

 
外はどしゃ降りだったのだ。

それなのに他の職員にバレないように二人で駐車場で待っていてくれたのだ。

 
私は呼び出されるまで
現場リーダー、Aさん、Cさんと明日のイベント準備をしていたから
その三人は私がいつまでも戻ってこないどころか
次に会った時に青ざめた顔をしていたから心配したのだ。

 
更に私がBさんと話しているところを
現場リーダーはたまたま目撃してしまい
私が泣きながら何らかを話していたことを
AさんやCさんに話したようだ。

 
私は現場リーダーとAさんとBさんとCさんの優しさにジンワリした。
そして、AさんとCさんにお礼のLINEをした。

 
「一人で抱え込まなくて大丈夫。私達がいるじゃない。」

「私だってそういう失敗たくさんあったよ。大丈夫。」

「真咲さんは仕事頑張ってるよ。私はそんな風には感じたことないよ。」

 
私は同僚からのLINEにまた号泣した。

 
 
家に帰ってからもワンワン泣いて
職場で何があったかを話して
またワンワン泣いた。

両親が気持ちを分かってくれて
腹を立ててくれて
私は気持ちが徐々に落ち着いてきた。

 
だが
明日のイベントに向けて精をつけるようにと母親が作ってくれた大好きなはずのハンバーグは
ほとんど食べられなくて
夜は熟睡とは言えなかった。

 
優しい同僚に囲まれることはありがたいし
自惚れるなら
私の仕事に向き合う姿勢や性格により
同僚が優しくしてくれているのだとも思う。

言われるほど私は悪い働きはしていないとも思うし
私なりに仕事の信念はあるし
分かってもらえない人には何を言っても無駄だとは思うが
それでも食欲と睡眠欲に影響は出てしまった。

 
体は正直だなぁと思った。

 
そして、私のポジションの前職者とその前の方が
半年ももたずに辞めた現実を
改めて思い知らされた。

 
同僚には恵まれた。
だけど私も前職者達のように半年ももたないのではないか?  

 
そんな思いが強まった夜だった。

 
 
 
イベント当日の朝
なんとか朝ごはんを食べられてホッとした。
無理矢理にでも食べないとやられてしまう。
夏の野外の仕事とはそういうものだ。

 
イベント出店販売日は私とAさんと施設長が勤務日で
施設長はイベント現地に集合し
私はAさんと共に荷物を搬入し
利用者と行くことになっていた。

「昨日は眠れた?食べられた?何を言われたの?」

朝の準備後
利用者が来るまで時間があり
私はAさんに思いを話した。

Aさんは私に一番仕事指導をしている職員で
私が信頼している方だった。
優しく穏やかな方だ。

昨夜何があったかを
LINEではざっくりとしか話していなかった。

 
「大丈夫だよ。みんな分かってるから。真咲さんが真面目に頑張っていることは分かっているから。」

「私達も通った道だから。」

 
私は話を聞いてもらえて分かってもらえて
更に気持ちが安定してきた。

イベント時に泣いたり落ち込んだりしている暇はない。
同僚複数人に話を聞いてもらえて
私は前を向けた。

 
利用者が来たら
私は職員モードに切り替わった。

きっと利用者は私が昨日から泣いてばかりなことや眠れないことや食べられないことに
気づかなかったはずだ。

 
 
イベント日は曇りで最高気温は30度。

イベント会場に到着し
荷物を降ろそうとしたら
隣の車から降りた人に見覚えがあった。

「ともかさん…!」

 
「Dさん!お久しぶりです!」

 
Dさんは前職時代に私が10年以上担当した利用者の保護者で
退職時に「もっとも辞めてほしくない職員でした。」と手紙を書いてくれた方だった。

再会は一年半ぶりである。

 
その日、イベント会場は約100店舗のお店が出店したわけだが
Dさんのお店はなんと私の職場のテントの隣だった。

この偶然もこの再会も嬉しかった。

 
 
私はDさんのお店の商品を買ったし
DさんはDさんで私の職場の商品をたくさん買ってくれた。

「ともかさんは物作り好きだから、転職先で色々な物が作れて楽しそうだね。

ただ、この製品数や質はすごいわ。仕事覚えたり、利用者指導が大変だわ…。」

 
Dさんは私をよく分かっているし
物作りが趣味な為
製品数の種類や質の高さを一目見て
職員がいかに大変かを分かってくれた。

 
久々の再会でしばらく話ができて嬉しかった。

 
 
だが、再会はそれだけではなかった。

前職時代の保護者であるEさんも、たまたまイベント会場に来ていたのだ。

「ともかさん!私、分かります?」

 
「分かりますよ!Eさん、お久しぶりです!」

 
Eさんのご家族は私の担当利用者ではなかったが
送迎をしたことはあったし
Eさんと協力して施設行事を企画したことがあった。

つまり、仲が良い保護者の一人だった。

 
Eさんも私の職場の製品をたくさん買ってくださり
本当に嬉しかった。
優しげな笑みも朗らかな性格も変わらず
久しぶりの再会も会話も非常に楽しかった。

 
 
イベント販売日は最高気温が30度だったが
曇りの時間帯もあり
風がそこそこにあった。

こっそりとポカリを飲み
塩タブレットを食し
濡れタオルを首に巻きつけ
私はほとんど座って休むことなく
数時間の販売を全うした。

 
売上は目標金額を達成したどころか
想像以上の金額であった。

 
 
暑くて汗は止まらなかったし 
お昼は疲れからほとんど食べられなかったが
それでも体調不良になることなく
一日勤務することができた。

 
何人かの保護者がアイスや飲み物、お菓子を差し入れしてくれたり
準備や片付けを手伝ってくれた。

帰り際、雷雨になりそうな黒い雲が空を覆ったが 
おかげさまで濡れる前に会場を後にできた。

 
暑い中での勤務中
アイスはとても美味しくて感動した。

 
飲み物は自分でペットボトル3本持参したが飲みきったし 
差し入れは実にありがたかった。

 
お菓子は販売後に食べたが
疲れた心身に甘さが染み渡った。

 
 
利用者を見送った後
Aさんと二人で最後の片付けをした。


なんとか一週間が終わったし
なんとか今日が終わった。

 
 
Aさんは改めて言った。

「今日はゆっくり休んでね。また何かあったら話してね。一人で悩まなくても大丈夫。仕事はみんなでやるものだから、みんなで協力してやればいいのよ。
失敗したって大丈夫。なんとかなるわよ。」

「一週間、お疲れ様でした。」 

 
Aさんと別れた後
私は確かな達成感や心地良い疲労感や清々しい充実感を感じた。
そして、人のあたたかさをこの2日間とても感じた。

帰宅後、昨日食べられなかったハンバーグや
母が作った私の好物のスパゲッティを
モリモリ食べた。
食欲は凄まじかった。

そして夜は泥のように眠った。

 

今の仕事は私に向いていないと思っているし 
きっと私より向いている人はいる。
頑張ったところで今後どこまでできるかは分からない。

だけど
私を支えてくれたり、共に働こうとしてくれる同僚はいる。
優しい保護者もたくさんいる。
利用者はみんなかわいい。

その思いや優しさに応えたい。

 
ずっとここで働けるか自信なんてないけど
今はまだみんなと仕事を頑張ってみたい。
できることを増やしたい。

 
過去は今に繋がり
今は未来に繋がる。

 
前の仕事があったから
前職時代の保護者と出会えて
離れ離れになってもまた繋がれた。
笑顔で笑い合いながら話せた。

そして私の職場の製品の質や好みというより
私との繋がり故に  
製品をたくさん買ってくれた。

 
本当にありがたかったし
嬉しかった。

 
私らしく笑顔で過ごせて
日々を頑張ることができたなら
大好きな前職時代のみんなときっとまたどこかで繋がれる。
再会できる。
そう信じている。

  
前職の仕事は好きだったし
性に合っていた。
前職時代のみんなが大好きな気持ちに変わりはない。
だけど

もうあの頃には戻れない。

 
好きな気持ちがあれば仕事は上手くいく

……訳でもない。


 
私は今の職場で今の仕事を
もう少し、頑張ってみる。

不器用だし、要領悪いけど 
仲間がいたら
まだ頑張れそうな気がする。













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