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狩猟免許を持つ同僚とシカを食べた私

私が小学生の頃、スーパーファミコンの「がんばれゴエモン~ゆき姫救出絵巻~」というゲームソフトを買って、よくプレイしていた。

 
 
これはアクションゲームで、主人公が敵を倒すと、敵は小判か巻物か招き猫になる。

 
小判を貯めると、様々なアイテムをお店で購入できたり、ミニゲームを楽しめたり、手裏剣の技が使える。

巻物を貯めると、特殊な技を使える。
なお、特殊な技を習得するためには大金(小判)が必要である。

招き猫は、武器のレベルが上がる。
武器はレベル3までしかないので、レベル3の状態で招き猫を手に入れると、小判一枚分と同じ価値(10両)になる。

 


 
私は小さい頃からこのゲームが大好きで得意でもあり
なんと購入から20年が経過した今でもプレイしている。
元を取りすぎている。実にいい買い物をした。

 
 
仕事のストレスがたまった時ほど、私はゴエモンをやりたがった。

 
「…ポコポコやっていい?」

 
私は姉にそう告げて、よく夜な夜なゲームしていた。
ゲームタイトルはゴエモンだし、主人公はゴエモンなのだが
敵を倒す時の効果音が「ポコッ」なので
私は姉に対してだけ、このゲームを「ポコポコ」と言っていた。

プレイヤーはゴエモンかえびす丸かプレイキャラを選択でき
私は断トツでえびす丸派だった。
ゴエモンというゲームだが、えびす丸しか使わない。
そういった背景もあり、私はゲームの愛称をポコポコにしたのかもしれない。

 
私はゴエモンをプレイする時、二時間~三時間かけて全クリをする。
敵を倒し、買い物を楽しむこのゲームは、最高にストレス発散になり
私はひたすらにポコポコして、お金を貯めた。

第一ステージでタイム5秒まで敵を倒すのが私のスタイルだった。

 
 
だが、そんな私が避けていたステージのルートがある。
第四ステージである。

第四ステージには、シカが敵としてあらわれていたが
シカに関しては、倒すと罰金である。

各ステージに敵はたくさんいるが
唯一罰金派生するのがシカである。

 
シカはピョンピョンよく跳ねる。
倒せない敵は避けるしかないが、シカはピョンピョン寄ってくる人懐っこさがある。
シカにぶつかると、HPは減る。

倒せないし、避けにくいし、非常に厄介なのがシカだった。
かわいいのは見た目だけだ。

 
ポコポコ(敵を倒すこと)を楽しみたい私にとって
シカのルートは足早に通り抜けるべきルートだ。

シカをひたすらに無視し
私は第四ステージの別ルートで再びポコポコを楽しみ
荒稼ぎをしまくるのが常だった。

ゲーム上、お金を稼ぐやり方はたくさんあるし
もちろんそれらも利用するが
あくまで私は自分の手で敵をしとめることが好きだった。

 
 
ゴエモンと出会ってから数年後の中学校三年生の時に
私は修学旅行で奈良県に行った。
奈良県に行くのは初めてだった。

奈良県にはシカがたくさんいると聞いていたが
本当にうじゃうじゃとしていて
私はあっという間にシカに囲まれた。

 
奈良県のシカはエサをくれる人間によく慣れていた。
私はリアルなシカとここまで接触するのは初体験で
かわいいというより、若干怖かった。

 
普通、動物は人を見たり、近づいたら逃げるし
大量に何らかの動物がその辺にいることはないし
大量にいる場合は動物園や檻の中が常だった。

 
奈良のシカに、私の常識は通じなかった。

見た目はかわいらしいが
あえて関わりたくはなかった。

ゴエモンのゲームと同じである。

 
  
奈良のシカは天然記念物として保護される存在らしい。

だからゴエモンのゲーム内でも優しくしなきゃいけないし
リアルの世界でも優しくしなきゃいけない。

 
先日、斧で奈良のシカに危害を加えた方が逮捕されたが
いかなる理由があろうともシカに手を出してはいけないと、当時の私は思っていた。

私にとってシカは保護の対象だったのだ。

 
 
 
「朝起きて、洗濯物を干そうとしたら庭にシカがいますよ(笑)」

だから社会人になり、同僚から笑いながらそう言われた時、私の常識はグラリと揺れた。

 
私にとって、田畑や田舎に出るのは、クマ、タヌキ、リス、サルあたりであって
シカはその辺にいるイメージはなかった。
シカは特別な神聖な動物のイメージだった。

奈良以外でシカは見たことがないまま、私は大人になったのだ。

 
それなのに、朝、庭にいるとは何事なのだろうか。
スズメや野良猫レベルの日常感ではないか。

朝は霧が派生しやすいし
霧の中庭にいるシカは
まるでもののけ姫のシシ神様のようだ。
だが、よくいるならありがたみも何もないだろう。

 
「庭でシカを見たことがある。」でも十分驚きだが
「庭でよくシカを見る。」となると、私は同僚を見る目が変わった。

 
 
そんな中、別の同僚二人が狩猟免許を持っていることを聞き、私はぶったまげた。

二人とも、何故福祉施設で働いているのだろう…?

私の常識や概念はガラガラと崩れていく。

 
福祉職といったら
ヘルパー二級、社会福祉主事、介護福祉士、社会福祉士、ケアマネ、理学療法士、作業理学療法士、看護師………あたりの資格を所持していて
あとは運転免許証を持っていることが普通だ。

 
何故だ。
何故、ヘルパー二級と狩猟免許を持っているのだ。
人を助けつつ、動物を狩るのか。
いや、動物を狩ることは人助けにも繋がるか。

 
しかし履歴書に狩猟免許とヘルパー二級を書けるってカッコいいな。

 
私は頭の中がグルグルしたり、目を輝かせた。
私は社会人になるまで、狩猟免許を持っている人を見たことがなかったのだ。
二人とも笑顔が素敵な人で、見た目だけなら、狩猟免許を持っているのは意外of意外だ。

 
逆に、この職員なら狩猟免許持ってそうだな…という、隙のない職員が
手芸が得意だったりするから人間というのは、実に面白い。

 
 
そんな中、シカ肉の話になった。

「シカ肉、クセなくて美味しいですよ。」

同僚が言い、私はまたもぶったまげた。

 
 
シカって食べられるのか………

 
 
私はドキドキした。

 
 
私にとって肉とは、牛、豚、鳥である。

ラムやジンギスカン、ワニ等他の肉は、特別な場所で観光やそこの名産として食されると思った。

 
ゲームの世界では叩くと罰金され
奈良県では大量にいても保護され
守るべき存在だと思っていたシカは
朝になると庭にいるもので
食べると美味しいものでもあった。
日常的に食されるものでもあった。

 
…………シカって、一体………………………。

 
私はシカが分からなくなった。
シカの概念が揺らいだ。
ゲームの世界、遠くの奈良県で確立されたはずの価値観が
まさか社会人になり、同じ県に住む同僚によって揺らぐとは思いもしなかった。

 
 
そんな中、同僚がシカ肉を大量に手に入れて食べきれないと話し
私にシカ肉を分けてくれた。
袋の中には確かに赤い肉があった。

 
これが、噂のシカ肉………!

 
私は事務所の冷蔵庫に肉をしまいながらシレッと仕事をしていたが
内心、ドキドキしていた。
私、今シカ肉を持っている女なんだと思うと
気分は高揚していった。 

 
仕事帰り、私は同僚の家に集まり、みんなで鹿肉パーティーをした。
そこに集まった人は、シカ肉デビューの人だけだった。

シカ肉はハンバーグが美味しいと聞き
いただいたシカ肉はハンバーグへと姿を変えた。
あと、カレーに入れた。

見た目や匂いだけでは、強烈な個性や臭みはまるでなかった。

私はドキドキしながら、シカ肉ハンバーグをまず食べた。

 
……!
美味しい………!

 
驚いた。
シカ肉は本当にクセがなくて美味しかった。
私はペロリとシカ肉ハンバーグやカレーを完食した。

 
 
他のシカ肉デビュー者も同様の反応だった。
シカ肉は想像以上に美味しかった。

シカは守るべき存在でありつつ
食べると美味しいものと、私は認識を改めた。

 
 
 
 
 
シカ肉デビューしてから、約10年が経った。

昨夜テレビを見ていたら、シカ肉を食べる某家族が映った。

両親「シカ肉、美味しいんだよね?」

 
私「そうそう、シカ肉美味しいんだよ。」

 
家族の中でシカ肉デビューをしたのは私だけで
家族はまだ食べたことがなかった。
だが、両親はワニ肉は食べたことがある。

 
シカとワニなら、レア価値はワニの方が高いだろう。

 
 
負けず嫌いな私は
ワニ肉もいつか食べたいと密かに思っている。













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