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中国の「1984年」から二つの世界の「自由」を学ぶ「1984年に生まれて」

<SF(75歩目)>
文学としても、そしてSF作品としても素晴らしい。

1984年に生まれて
郝 景芳 (著), 櫻庭 ゆみ子 (翻訳)
中央公論新社

「75歩目」は、中国SFの旗手の一人郝景芳さんの作品です。中国のSF作家として、そして女性作家として、次代を牽引される才能に時間を忘れます。

作者の郝景芳さんは、お茶の水女子大のSF研究会で留学生から紹介されました。「Folding Beijing」の作者で中国のSFブームの立役者とのこと。

この作品は、郝景芳さんの他のSF作品と一線を画す作品です。
私たちにとって「1984年」というとSF作品のジョージ・オーウェルさんの作品を思い出す。
でも、この作品を読んだ後には郝景芳さんのこの作品のことも思い出すと思います。

主人公の軽雲と父の沈智による父娘の私小説的な作品のようですが、「0」で修辞された章での登場人物のウィンストン。彼はオーウェルさんの「1984年」のあの国家のプロパガンダのために働く下級官僚のウィンストンさんです。

二つの異なる世界(解放前の中国と解放後の中国)で生きた父娘の関係性を描きながら、より深い部分で「統制された世界」「自由な世界」との差があれど、各々の自由はやはり自由ではないことを突いてきています。

SF的な色々なロジックは登場しない。
しかし、異なる世界を結び付けて世界観を伝えることに成功した文学作品でもあり、SF作品でもあると感じました。

また「1984年」は中国にとっては、「会社元年」と言われるターニングポイントであったようです。父娘は異なる中国を生きていますが「自由」というものが心の中にあり、体制で簡単にくくられるものではないと訴えています。

その意味で、他の郝景芳さんの作品と同様に通底するものが同じで、生きている中国社会を感じられる作品でした。

また父娘の愛を強く感じました。想定以上に心に残りました。

「苦しみ」から抜け出て初めて「苦しみ」の意味が肯定できる。
とても伝わりました。

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