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大切な「家族」を考える「ポトゥダニ川」

<文学(19歩目)>
アンドレイ・プラトーノフさんの短篇から、「家族」を考える。

ポトゥダニ川 (群像社ライブラリー)
アンドレイ・プラトーノフ (著), 正村和子 (翻訳)
群像社

「19歩目」はアンドレイ・プラトーノフさんのちょっと切ない短篇集。

群像社」、且つマイナーな地名「ポトゥダニ川」と言う短篇集で決して読者を多く獲得できるとは思えない。
しかし、2023年に読了した本の中で最上位の一冊です。

マイナーながら超おススメです。

アンドレイ・プラトーノフさんは、19世紀末の帝政ロシア時代に生まれ、まさに革命に翻弄された作家。

デビューは革命の余韻の中の1922年で、ロシア革命に若い理想をささげた一人のロシア人です。

しかし、ロシア革命も当初の理想から大きく変容した結果、1830年代にはスターリンをはじめとする革命指導者に対しての疑問や批判を展開した結果、共産党指導部からの批判対象となった。

その為に、発表の場を奪われて以後は塗炭の苦しみを味わったそうです。
1938年には収容所送りとなり、2年後に釈放されるが第二次世界大戦中の1943年に亡くなっています。

作家として、そして市民としての人生は苦難続きだったようですが、この苦難の際に執筆した作品がペレストロイカを経て再評価されて今に至っています。

私は、「プラトーノフ作品集 岩波文庫」を読み衝撃を受けたのですが、2023年に発行されたこの本はそれを上回る衝撃でした。素晴らしい。

5つの短篇から「ポトゥダニ川」「ユーシカ」「セミョーン」は同じくソ連時代の反体制作家のミハイル・ショーロホフさんの「人間の運命」レベルの短篇ながら刺さり方が半端ではない作品です。

総じて「体制にかかわることを書きたくても命の危険がある時、作家は究極の昇華を遂げる」作品群を残すようです。

「ポトゥダニ川」
私の中では、プラトーノフさんの最高傑作。
何でもない場所で普通の人々を扱う作品ですが、「愛(love)」の可能性を突いてくる。
読後、この本の何気ない表紙の「草」が心を突きました。

「ユーシカ」
わかっているのに、必ず泣かされてしまう。ロシア人の底流が見える作品です。

何かをこの世で残すとは、財でも栄誉でもなく「人間」なのだというロシア人のメンタリティーが現われる作品。

滞在していて感じたことは、21世紀もこのメンタリティーの国民が少なからずいるので、社会環境(執筆時はソ連で、今はロシア)が異なっていても読み継がれると感じました。

「セミョーン」
これも極めてロシア的な「家族」のお話し。
なんともまぁ。の世界なのですが、暗い中に一条の光とはこの様な作品だと思います。

色々な意味で、あまりいいことが無いまま50代前半で亡くなられたプラトーノフさん。でも、残した作品は未来も芽吹いて多くの読者を魅了すると思います。財でも栄誉でもなく「作品」を残されました。

ちょっとマイナーですが、超おススメです。

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