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2023年8月の記事一覧

孔雀

大金を奪い逃げる男
ハイヒールを脱ぐ女
綺麗な孔雀には為れずに
破滅して逝く
さよならを告げる歌が
聞こえる道を歩いて

滂沱

売れない舞台演者は
生を見いだせず
薄汚れた路肩に
とめどなく滂沱の涙を零す
一門にも為れない者は
消えて逝くべきなのか
答えを出せない日々に
心をすり減らし
精神を病んでゆく
雲一つ探せない
静寂を抱く街並みを眺め
彼は自死を選んだ
太陽が瞳に染みたから

ホウセンカ

ホウセンカが咲く頃に
西瓜売りは現れる
幾つかの西瓜を買って
近くの湧き水に西瓜を放つ
夕暮れが僕を抱きしめる頃
しっかり冷えた西瓜を
母が切り分けてくれる
縁側に座りながら僕達は
優しい甘さの西瓜を頬張る
何もかも知らなかった
遠過ぎる夏の残響
それは胸の向こうで私を
待つ事すらせずに消えて逝く
愚かな私の今を眺めて
楽しそうに嘲笑う他人みたいだ

献花

しけた毎日を
破壊する
ロックンロール
安いラジカセに
カセットテープを
嵌めたなら
パーティーが
始まるのさ
今は灰に為った
貴方にだけ捧げよう
献花よりも
綺麗で素敵な
ロックンロールを

トリチウムの海を

トリチウムの海を
越えて逝く回遊魚
生まれた川を目指して
孤独な旅を続ける
脱落して消える仲間を
横目に流して
辿り着いた故郷の川も
トリチウムに見えていた

舞台演者

スパンコールを
敷き詰めた床に
倒れ込む道化師は
セリフも無く袖へ下がる
ミュージカルの主演は
あんなにも歓声を浴びて
輝いて見えるのに
私は今日もただ
路傍の石を演じるだけ
最低の給料で雇われた
舞台演者にすら為れない
私は明日もただ
道化師を演じるだろう
狂気の雨が
街に降り注ぐ日まで

ルバーブ

自販機で
セブンアップを買う
不良少年
彼女は家で
ルバーブのパイを焼く
それは
異国の味がして
不思議な気持ちに
なるなんて
彼女には
恥ずかしくて
言えなかったよ

ジルヴァ

戦場で踊るバシール
市街戦で燃える街並み
ワルツの様に美しい
貴方にはもう会えない
ここが分水嶺だと
知ってしまったから
敵地で巧妙に仕掛けられた
対人地雷のトラップに掛かり
永遠を手に入れたジルヴァ
貴方にさよならも言えず
跡形も無く灰に為る

ピストル・リリーズ

美しい花の儘で
散り逝くのも良いでしょ
そう言って笑った
ピストル・リリーズ
私達は国の物だから
守るのは当り前なのよ
そう言って消えた
ピストル・リリーズ
君に好きだと伝えられず
僕は今日も現を生きる
脱皮出来ない抜け殻の様に

さらば愛しき友よ

あんたはきっと
変わらないと思ってた
どんな時も
最高だったから
あんたはずっと
単車に乗ると信じてた
誰よりも
巧く速かったから
さらば愛しき友よ
お別れの口笛を吹いて
それでさよならだ
大切な瞬間を胸に抱き
俺は独り孤独を歩む
あんたと二度と
分かり合えなくなっても

くすんだ月

美しい花に止まれない
夜の蝶は騒ぎ出し
心無き人達が
掻き集めた札束と共に
彼女は眠る
くすんだ月に抱かれ
何かを捨てたこの場所じゃ
愛の賛歌は聞こえない
雑な演技と片言の
日本語が今日も飛び交い
顔の無い人達は
京急線で帰路に就く

外天の空

灼熱の風を
遮りながら
夜の公道を
単車で飛ばす
外天達
轟音をかき鳴らす
儚い蛍の群れは
延々と続く
レンタル屋で借りた
ビデオテープが
擦り切れるまで

難破な夜へ

安い女だと
貴方に
吐き捨てられたなら
私は今よりも
素敵に為れたでしょう
今日も貴方の
顔色を窺い
他愛の無い話で
己を守る私は
難破な夜へ
消え去る事も出来ず
此処に留まるだけ
幾つもの心を踏み殺して

ジェニーガール

殺風景で廃れた
社会を歩くジェニー
クリスチャン ルブタンの
ハイヒールを履いて
バービードールみたいに
煌びやかにめかし込んで
私は私の為だけに
輝くのよと言いながら
喧噪の都会へ消えて逝く
誰の物でもない
彼女はいかしたガール