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【新刊ができるまで】育休明けの不安のなかでつくった『記憶はスキル』が、私を前向きにしてくれた

こんにちは。編集日記の第3回は、土屋が担当させていただきます。

ご紹介するのは、『記憶はスキル』という本です。タイトルのとおり「記憶」がテーマの本なのですが、私がどうしてこの本を企画したのかについて、徒然なるままに書いてみようと思います。少しだけお付き合いいただけますと幸いです。

「覚えが悪い」ことが、ずっとコンプレックスだった

私は、昔から覚えることが苦手でした。そのせいで、小学生の頃は忘れ物常習犯でした。必ずと言っていいほど、毎日何かしら持ち物を忘れていました。朝出かける前に頭の中で一日のシミュレーションをするようにして、なんとか忘れ物は減っていきました。

勉強でも、暗記は避けられないものでした。本当に覚えるのは苦痛でした。もともと反復練習が苦手なタイプだったこともあります。しかも、頑張って覚えても、すぐに忘れてしまうんです。今は「記憶を刷新するスピードが速いんです」とか言って、笑ってごまかしていますけど。当時は、覚えたってすぐに忘れていくのだから、「丸暗記するなんて意味がない。それよりもしっかりと理解することのほうが大事だ」って思っていたんです。

でも、その考えは、後に『記憶はスキル』の打ち合わせで著者の畔柳圭佑さんとお話ししたときに、見事に打ち砕かれることになります。「覚えるよりも理解することが大事だと言われることがありますよね。でもそれって誤解なんです。理解っていうものは、記憶の上に成り立つものなんですよ」と、言われてしまったからです。

畔柳さんは、こうも言いました。「記憶することは、つらいだけで、大して意味のない活動だと思われているかもしれない。でも、多くの問題が記憶によって解決できる」と。

まさに、「暗記はつらいだけで意味がない」というのは、まさに私が昔思っていたことでした。でも、「意味がない」というのは、そう思おうとしていただけかもしれません。社会人になって、覚えがいい人になりたいと思い始め、「記憶」に改めて向き合う必要があると考えるようになりました。

慣れない育児で、なにも覚えられない状態に

話が前後してしまいますが、この本の企画を提出したのは、育休が明けて間もない頃でした。「誰でもやっていることだから自分にもできるはず」と漠然と思っていましたが、初めての育児は想像以上にハードなものでした。右も左もわからない育児と寝不足もあって、あっという間に自分のキャパシティを超えてしまいました。

そしたら、もともと覚えが悪いほうなのに、これまで覚えられていたような些細なことすら覚えられず、すぐに忘れてしまうようになりました。「今、何やってたっけ?」と思うことがすごく増えたり、「スマホ、どこに置いたっけ?」と思ったらなぜか冷蔵庫に入っていたり。日常生活に支障をきたすほどで、危機感を覚えました。こんなにポンコツになってしまって、育休が明けたとき、まともに仕事ができるんだろうか……。そんな不安を抱えていました。

加えて、身の回りには「学習しなおす社会人」が増えたようにも感じていました。少し働いてから大学院に通ったり、新しいスキルを身につけるために学校に通い直したり……。「人生100年時代」と言われる今の時代、生涯学び続ける必要があると思っています(ビジネス書の編集者なので、そういう情報に多く触れているせいもあるでしょうが)。私だって、これからも新しいことを吸収していかなければいけない。学習に記憶力は不可欠。それなのに、自分の記憶力はあまりに心もとない……。

そんなこともあって、育休が明けて本の企画を探していたころ、畔柳さんの「記憶」に関する記事を読んで興味を持ちました。畔柳さんは、記憶を定着させる方法を研究してプロダクトに落としこんでいるエンジニアで、「記憶することのつらさから人々を解放したい」と語っていました。本当に記憶することの大変さから解放されたら、どんなにいいだろう! この人と話してみたい! そして、本の企画が動き始めました。

記憶するスキルは、人生を楽しくする

「自分の記憶力をどうにかしたい」
そんな気持ちで始まった企画でしたが、畔柳さんと話を進めるにつれ、記憶することには私が考えていたよりもっと多くのメリットがあると思うようになりました。記憶の存在は当たり前すぎて、普段あまり意識されません。でも、記憶するというスキルは、社会人としての自分にとっても、これから成長していく子どもたちにとっても、心強いツールになるに違いないと思うに至りました。

畔柳さんが開発したアプリを導入している学校の先生が、こんなことを仰っていました。「書いて覚えるために、書く回数を指定して子どもたちに書かせても、実際にはその回数を書いても覚えられない子もいます。そういったことが、子どもたちの自己肯定感を落とす要因のひとつになっていました」と。記憶するための正しい方法が広まることで、子どもたちは無駄に自己肯定感を落とさずに済むようになります。

子どもからは、こんな声もありました。「勉強してもテストで点数が取れず、勉強が嫌だった。でも、正確に覚えられるようになったら、勉強すれば点数が取れるので勉強を続けようと思うようになった」と。嫌だった勉強が楽しくなった。それだけでも、その後の人生に影響を与える大きな変化ではないでしょうか。

記憶が影響を与えるのは、学習に限りません。エンターテインメントだって、より楽しめるようになります。わかりやすいところで言えば、登場人物の多い映画や、歴史的な背景を知っていたほうが楽しめる時代モノの小説(いずれも、覚えの悪い私が昔から苦手なものでした)。それから、日常の風景も、いろいろなものを覚えることによって、より鮮明に認識できるようになります。見ている世界も変わっていくのです。

「覚えることが得意になれば、人生が10倍楽しくなる」
これは私が考えた本のコピーですが(サブタイトルにも入っています)、これは覚えることに対してネガティブな印象を持っていた私自身が、この本をつくったことによって記憶に前向きに向き合えるようになったことを表しています。自分がつくった本に、自分が影響される。こういったことが起こるのも、編集者という仕事の醍醐味かもしれません。

少しでも多くの方に、この本を手にとってもらえたら。そして本を読んだ人が「自分は覚えが悪いから…」「もう記憶力が衰えてしまったから…」とあきらめるのではなく、「覚えてみよう!」と前向きになってくれたら、編集者としてこれ以上嬉しいことはありません。

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