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#短編小説

【短編小説】学校に行かなかった日の話

学校までの道のりを重たい足を引き摺りながら歩く。朝八時の匂いはなんでこんなにも憂鬱を含んでいるのだろう。

溜め息を吐いてみるもいつもより多めに体から無くなった分の空気を吸うのが億劫で溜め息を吐くのもやめた。

それでもなるべく学校のことを考えないように、ゆっくりと流れる景色に目をやった。

白い蝶が私の前をひらひらと覚束無い様子で飛んでいった。

学校に行きたくなかった。

その日は特に。日直だ

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桜道

桜道

「自分がゆっくりと死んでいくのを私は少しずつ噛み締めたい、と思っている。もちろん生きられれば生きたいが…。

 私はもう一年もこの病院のベッドに体を括り付けられている。余命が長くないのも自分でわかっている。自分の中の小さな火が少しずつ消えていくのが自分でもわかる。

 私の病気はガンで、悪性のもので、発見した時にはもう助かる見込みがなかった。私はまだ二十歳で、これから人生が始まるのだと思っていた矢

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亡霊

亡霊

 夢の中では様々なものが鮮やかだった。ところが、それらが何なのか、目覚めてみると覚えていない。ただ鮮やかだったという印象しかない。

 色々な人が色々な事を言っている。ところが、それは私にはどうでもよかった。どうでもよかったんだ。私は、体を起こして歯を磨きに洗面台に向かった。

 歯を磨きながらテレビをつけてみた。テレビでは、さっき戦争が始まったとリポーターが興奮しつつ話していた。でしょうね、と私

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空港

空港

 私は空港職員をしている。年齢は56才だ。

 私が空港職員を志すきっかけになったのは、二十代の頃、当時付き合っていた彼と一緒に行った海外旅行だった。もっとも、私の旅行は、旅立ちの空港でほとんど終わっていたと言った方がいいだろう。

 私達は空港に行った。私は空港で、夕日を見た。大きな通路を歩いている時、滑走路の向こうで輝く夕日を見た。つまらない事に思われるかもしれないが、私はその風景にひどく感動

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