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【短編】Strawberry Feels Forever
「ぎんいろ」
ゲリラ豪雨が降るのは、もう毎日のことになってしまった。窓に次々と打ちつける雨粒を、きみはフローリングに座って凝視している。日が落ちてきたのでカーテンを閉めたかったけれど、きみはもうしばらく窓辺にいたい様子だった。僕は原稿用紙に滑らせていた万年筆の手を止めて、やかんでお湯を沸かすことにした。
今度はしゅんしゅんと音を立てる蒸気に興味を持ったらしい。きみはコンロのそばに立って、その規
【掌編】ありのみのうた
こちらは、「神話創作文芸部ストーリア」夏の企画として書いた掌編小説です。テーマは、「神話×児童文学」。
8月5日から9日まで、各日の担当者がこのテーマで作品を発表します。発表スケジュールは、以下のとおりです。
8月5日(月)吉田翠さん 掌編 三つ山物語
8月6月(火)悠凜さん 〘夏祭り2024〙 心こそこの大空にはばたかせ
8月7日(水)笹塚心琴 【掌編】ありのみのうた(この記事)
8月8日
【掌編】生ぬるい春に整うパズル
本作品は、「神話創作文芸部ストーリア」4周年記念祭へ参加している掌編小説です。あみだくじで2つのテーマをもらい、それらを掛け算して作品を書くという企画です。私に与えられたお題は「花」×「巡礼」でした。
それでは、お楽しみください。
生ぬるい春に整うパズル
言葉より先に、花はそこに咲いていた。私は貴方が貴方自身を望む以上に、貴方のことを想っているの。
沸騰を知らせる甲高い音で、俺はうたた寝か
【掌編】分けあった季節
神話創作文芸部ストーリア/お題【収穫】(1000字以内)
豊穣とは、枯れ朽ちる手前のいっときの喜び。祝福された実りを手にする人々にとって、収穫とは、その喜びを分けあう、かけがえのない作業だ。
幼馴染のフレイは、あどけなさの残る頬に土ぼこりをつけながら、僕の家の果樹園の収穫を手伝ってくれている。
「見て、ディン。とても立派な葡萄」
フレイは笑顔で、僕にたわわな一房を見せてくれた。そのうちの一
【掌編】宇宙のひみつ
神話創作文芸部ストーリア/お題【杖】(1000字以内)
朽ちた枝のように見えるこれは、実は魔法の杖なのだ。そのことを知っているのは、私と黒猫のルルルだけ。
一週間前、私は公園でその杖を見つけた。ベンチの隅に無防備に置かれていたのだ。大発見だった。だから嬉しくて、私はルルルと駆け寄った。そのとき、うっかり石につまづいて、あっけなく足首をひねってしまった。
果たして今、私は松葉杖を使っている。最
【短編】こうしてぼくらは
こちらの作品は、「神話創作文芸部ストーリア」の夏の企画への参加作品です。テーマは「学園」。創作神話の世界に、しばし浸っていただけたら嬉しいです。
昶斗の自覚は、夏真っ盛りのとある夜だ。僕、伊知が一人暮らししているアパートで、男子二人であほらしい動画を観ながら酒盛りをしていたときのこと。急に黙り込んだ昶斗は、一筋の汗をあごから垂らしながら真顔で、こう僕に告げた。
「自分でも、どうすればいいかわか
【短編×短歌】なんとなく歌を歌えばそれとなくリズムを刻むきみとの暮らし
お互い胸の内に深い傷を抱きながらも、その痛みとともに生きることを選択した、少し不思議なきみと、とても不器用な私の日常。
ふたりが過ごす季節を、短歌とエピソードで辿ってみたいと思います。どうか、一緒に見守ってください。
◈梅雨雨のなか白い紫陽花を睨んで私の名前を呼ぶのはやめて
とある日曜日、小雨のときは傘をささないきみが、ふと公園で立ち止まって「アナベル」という名前の白い紫陽花をじっと見ていた
【掌編】花をちょうだい
花をちょうだい。貴方のかびろき胸に宿る、潮風に揺れる一輪を私に。
その昔、ここに人々が暮らしていたことを知る者は、もう私しかいないだろう。なぜ自分だけが取り残されたのか、そのわけを、私は今日も探している。
かつての有史の終わりに、地球はついに怒りを爆発させた。此処に存在した人間という存在を根こそぎ流し去るが如く、大洪水を起こして、争いばかりを繰り返す、その愚かな歴史に終止符を打ったのだ。
私
【掌編】虹を見たから
錠剤をヒートからゆっくりと取り出す。左手に載るのは、ラムネ菓子より小さな一粒。
彼は今、窓のない狭い部屋にいる。家族も恋人も友人も、皆が彼の自認を拒絶した。すなわち、「僕は神である」と。
当然ながら、周囲の人々は異口同音に「妄想だ」と彼の言葉を否定した。しかし、そんなものはどこ吹く風、神を自認すると、彼は人々が縋っている倫理がいかに欠落的で独善的かを俯瞰できるのだという。そして、その欠落や独善
【掌編】ウィル・オ・ウィスプ
己の呼吸と重たい衣擦れの音だけが、空間に響いている。もうどうれくらい此処にいるのだろう。周囲は、相も変わらず闇に支配されている。冷え切った床と壁は、あらゆる生命の営みを拒絶しているかのようだ。
私は罪を犯したとされた。家族や恋人、私にとって大切な人々の誰一人として減刑を嘆願しないのは、私の罪が王の怒りに触れるものだったからであろう。
しかし、である。私はただ一言、こう詠っただけだ。
――光こ