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書評

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#結婚

堂場瞬一(2022)『小さき王たち 第二部:泥流』早川書房

早熟の少し浮かれた様相だった日本社会の雰囲気をよく表した描写のなかで、第一部に続いて政治と報道の関係をモチーフに物語は進む。少し創作味が濃いが、断っても断ち切れない人間関係の存在を読者に伝えるには分かりやすい描写でもある。

今作でもパートナーの存在の大きさが際立つ。仕事の展開と並行して、主人公たちのプライベートも進行していく。どんな人間にも公私の両面がある。そんな当たり前の現実が微笑ましくもあり

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堂場瞬一(2022)『小さき王たち 第一部:濁流』早川書房

田中角栄を彷彿とさせるある政治家と新聞記者の戦いを描く政治小説。選挙買収を巡る疑惑が物語の中心だが、その周囲で、世襲の苦楽や若者の人生設計、伴侶の大切さを真実味を持って伝えてきてくれる厚みのある一冊。

臨場感のある描写や展開は娯楽作品として十分すぎるが、日本のこの手のエンタメは必ずと言っていいほど政治家サイドが汚職や買収などに手を染める悪者として描かれる。政治は皆んな悪だという固定観念を再生産し

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白秋社編集チーム編著・天野馨南子監修(2021)『未婚化する日本:ペアーズ共同調査と統計データが示すその傾向と対策』白秋社

少子化が最重要課題となっている我が国社会。そして孤独や孤立に苛まれる市民。それらの原因として注目されなければならないのが「未婚化」である。人との繋がりの最小単位である家族について重要な視点を提供する一冊。

この40年間で日本の夫婦一組が持つ子どもの数は、実は少子化の傾向から想像されるほど変わっておらず2人前後である。それなのに、合計特殊出生率が下がり新生児の人数が過去最少になっているのはなぜか。

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凪良ゆう(2022)『汝、星のごとく』講談社

どうしてこうにも人間はままならないのだろうか。それでいて、愛おしいのだろうか。人の感情をむき出しに描くことで、この世の中を生きることの現実と希望を指し示してくれる一冊。同時にそれまでの家族の形に縛られない、新しい生き方に向け背中を押してくれる。

夢と挫折と、恋愛と依存と、社会と家族と、近いようでいて同じではないそれらに僕たちは振り回されながら毎日を生きているのだろう。ただその中でも、光る夕星をめ

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トルストイ著=木村浩訳(2012)『アンナ・カレーニナ(中)』新潮文庫



家族とか家庭とか、愛とか愛情とか、恋の苦しみや結ばれることの悦び、そして愛おしさの潮がもたらす不幸。幸せの裏に、常に見え隠れする恐ろしい何物かを、決して見過ごすことなく書き留めている。

ただそうだとしても、結婚の場面の、あの全てが祝福されたような情景には、心を動かされるしかありえなくて、ただどうしても求めてしまう。
読者の心にも、あの不可解な大きな力を体験させる一冊。

トルストイ著=木村浩訳(2012)『アンナ・カレーニナ(上)』新潮文庫



愛と人間生活の物語である。仕事と家庭と、夢と現実と、そして希望と絶望の美しいまでものコントラストに胸が苦しくなる。頭では分かっていても、心が動くのは止められない。世界と人間とはそんなものであるし、そんなものではないとも思わせてくれる。

生活はまだ連綿と続いていく。これから先どのようなことが起きるのであろうか。分からないけれども、少し楽しみにしておこう。(中巻に続く)

有川浩(2013)『植物図鑑』幻冬舎文庫



男性の方が家を守るという設定の物語が、ここ最近増えている感覚がある。料理男子はモテるよなぁ。恋愛感情の発露がないパートナーシップ関係で同居するというのもなかなかに夢。そうした関係性はこれから社会でもっと増えるのだろうか。

有川さんって女性だったのね。知らなかったよ。植物オタクらしいが、ややペダンチックな文章は気になってしまった。カーテンコールでの視点の入れ替えが面白かった。