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大学生です。興味があることについて書けたらと思っています。読書/絵画/ゲーム/amaz…

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大学生です。興味があることについて書けたらと思っています。読書/絵画/ゲーム/amazarashi/映画/小説 Twitter@clown0326

記事一覧

君のいのち 花束

廃ビルの屋上の縁から下を覗くと、そこには海が広がっていた。 あと一歩踏み出せば生からも滑落してしまうその場所で、彼女は透明な青を見た。 秋晴れの下、透明な青の中…

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2年前
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片時雨

  朝。昼。夜。   天。地。人。   父。母。子。   過去。現在。未来。   信号の青。黄。赤。   好き。嫌い。無関心。   だから、   じゃんけん、ぽん。 …

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2年前
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ラブストーリー 下

「結局、夏祭りには行きませんでした。僕と彼女の間にその話題が出ることはなかったのです。しかし、お互いわかっていました。蝉が儚さであるように、青空が青春であるよう…

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2年前
4

ラブストーリー 上

「春はあけぼの。ようよう白くなりゆく山ぎは……」 おばあちゃん先生は、普段は牛が草を食むように話すのに、朗読のときだけは小川のせせらぎのように詠じた。 僕は、その…

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2年前
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「」vol.3

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2年前
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井戸

私は朝が嫌いだった。 ということを、今朝思い出した。 昨夜は悪夢を見た。 ――私は森の中に立っていた。深い、深い、森だった。むせ返るような緑が私を囲っていた。だ…

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3年前
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「」vol.2

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3年前
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「」vol.1

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3年前
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ほんとう

「きっと何かの病気だよ。」 ――恋人にそう言われた。 幼い頃、感情の制御が苦手だった。 親の言うことに反発し、思い通りにならなければ泣き喚いた。 嫌なことを目の前…

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3年前
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廻る雨

誰もいない教室で、茜色の空を眺める。 悩み事があると、よく空を見つめていた。 上を向くことが、心も上向きにさせてくれると知っていたのか、 涙を流すまいと向いた先に…

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3年前
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日記

2021/5/4 海が見たかった。 より厳密にいえば、視界をまっさらに埋め尽くしてくれるものに出会いたかった。 GWだというのに、何もしていなかった。 やらなければならないこ…

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3年前
5

僕は誕生日の価値がわからない。

死にたい、と思っているわけではない。 生きたい、と思っているわけでもない。 生と死の狭間で、神にも死神にも嫌われ、今日も生きている。 過剰な春だ。 桜が咲き誇って…

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3年前
5

命のゆらぎ

中央分離帯で逡巡するような人生だ。 僕の目の前には、車がビュンビュン走っている。 後ろを向いても、車がビュンビュン走っている。 僕はどうやってここまで来たのだろう…

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3年前
3

青い雨

私の心は青色だ。 空と同じ、海と同じ、雨と同じ、青。 私たちは自身の色を持ってこの世界に生まれ落ちる。 そして各々、約束の色を抱えている。 自分の色と相手の色。それ…

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3年前
4

世迷言

拝啓 過去の自分へ 西日が嘯くその部屋で、相も変わらず問うている 「生きる目的とは」 すべてのものには目的が追随する 君が座る椅子も、さっき飲み干したコップも、今…

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3年前
2

方舟 下

昼下がり、少女は眠れなかった。 過去のことを思い出そうとしてしまうのだ。 思い出せない。 自分の記憶がないことと、自分に価値がないことをどんどんと近づけてしまう。 …

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3年前
10
君のいのち 花束

君のいのち 花束

廃ビルの屋上の縁から下を覗くと、そこには海が広がっていた。

あと一歩踏み出せば生からも滑落してしまうその場所で、彼女は透明な青を見た。
秋晴れの下、透明な青の中を、整頓されたスーツ姿が稚魚のように流されて、浮薄な自動車が小波のように跋扈していた。
それらは何かの設計図のように衡平で、共鳴し、そして正しかった。換言すれば、無慈悲で、排他的で、そして危うかった。また、それと同じことが生と死の境目に立

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片時雨

片時雨

  朝。昼。夜。
  天。地。人。
  父。母。子。
  過去。現在。未来。
  信号の青。黄。赤。
  好き。嫌い。無関心。

  だから、
  じゃんけん、ぽん。

病室みたいなベッド。手錠。格子付きの窓。
それらがこの監禁部屋を構成するすべてだ。
そう、私はこの部屋に監禁されている。誘拐され、監禁されている。
もうずいぶん昔のことだ。あれからどれだけ経ったのかわからない。どのように誘拐された

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ラブストーリー 下

ラブストーリー 下

「結局、夏祭りには行きませんでした。僕と彼女の間にその話題が出ることはなかったのです。しかし、お互いわかっていました。蝉が儚さであるように、青空が青春であるように」
茜に晒された彼は、私にそう話した。私に言い聞かせるように、あるいは彼自身に言い聞かせるように。
「けれども、一度だけ、青春が零れ落ちたことがありました。夏休みが始まる前日、つまり終業式の日ですね、大掃除の後、全校集会が始まるまで時間が

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ラブストーリー 上

ラブストーリー 上

「春はあけぼの。ようよう白くなりゆく山ぎは……」
おばあちゃん先生は、普段は牛が草を食むように話すのに、朗読のときだけは小川のせせらぎのように詠じた。
僕は、その声を潮騒のように聞き流し、教科書の下で英単語帳を開く。
授業の内容はもうわかっていた。中学の時に一度習ったというのに、高校になって文法だとかをきちんと勉強するためにもう一度やるのだという。僕には必要なかった。

青い空。雲一つない空。空っ

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井戸

井戸

私は朝が嫌いだった。
ということを、今朝思い出した。

昨夜は悪夢を見た。

――私は森の中に立っていた。深い、深い、森だった。むせ返るような緑が私を囲っていた。だというのに、香ばしいような木の匂いや、胸の内まで流してくれる小川のせせらぎは、全くもって感じられなかった。
ただ、現象として私はそこにいた。
あるいは、物語の登場人物として私はそこにいた。
都会にはたくさんの人がいるが、そこに生活感を感

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ほんとう

ほんとう

「きっと何かの病気だよ。」
――恋人にそう言われた。

幼い頃、感情の制御が苦手だった。
親の言うことに反発し、思い通りにならなければ泣き喚いた。
嫌なことを目の前にすると、どす黒いモノが腹の底で沸き立つ。溶岩のように沸騰したそれは、ゆったりと気泡を産み出し、喉奥までせり上がって、ぱちん。残りは口を開くだけ。
そうすることで、嫌なことを退けたいわけではなかった。誰かが慮って取り計らってくれると算

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廻る雨

廻る雨

誰もいない教室で、茜色の空を眺める。
悩み事があると、よく空を見つめていた。
上を向くことが、心も上向きにさせてくれると知っていたのか、
涙を流すまいと向いた先に、空があったのか。

あの頃のように滲み、澄みわたった空はもう見えない。
誰もいないデスクで、灰色の空を見つめる。
空は、いつでも私を見つめている。
表情は変われど、見るものすべてに分け隔てなく慈愛を注ぐ。
きっとこの同じ空の下で、私と同

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日記

日記

2021/5/4
海が見たかった。
より厳密にいえば、視界をまっさらに埋め尽くしてくれるものに出会いたかった。
GWだというのに、何もしていなかった。
やらなければならないことはたくさんあった。ただ、のっぺらぼうな虚無感が私にぶら下がっていた。そいつは私に刹那的享楽と安住とを押し付け、それに私が懐柔されたのを見計らって去って行った。残されたのは私だけだ。
――わかっている。言い訳だ。こんな大層な外

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僕は誕生日の価値がわからない。

僕は誕生日の価値がわからない。

死にたい、と思っているわけではない。
生きたい、と思っているわけでもない。
生と死の狭間で、神にも死神にも嫌われ、今日も生きている。

過剰な春だ。
桜が咲き誇っている。花びらが道を染める。或いは道を隠している。
桜の木の下には屍体が埋まっている、と謳ったのは誰だったろうか。
それならば、桜の花に濡れる僕も美しく映るのだろうか。
いや、しかし。この人類の悠久の歴史を鑑みると、屍体はどこに埋まってい

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命のゆらぎ

命のゆらぎ

中央分離帯で逡巡するような人生だ。
僕の目の前には、車がビュンビュン走っている。
後ろを向いても、車がビュンビュン走っている。
僕はどうやってここまで来たのだろうか。
わからない。
わからないが、もう後に引けないことはわかっている。
これを渡り切った向こうには、君が待っている。
ほら、今も手を振ってくれた。
君のことはよく知らない。だけど、僕がここに来た時から君はそこに居て、その笑顔を見た時から、

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青い雨

青い雨

私の心は青色だ。
空と同じ、海と同じ、雨と同じ、青。
私たちは自身の色を持ってこの世界に生まれ落ちる。
そして各々、約束の色を抱えている。
自分の色と相手の色。それらが混ざり合って約束の色となった時、人は恋に落ちる。
……そう教えてくれたのは貴方なのに。
私と同じ色の雨が降る。
その雨の涙でぐしゃぐしゃになった土に足を取られ、躓く。
拍子に服がずれる。鎖骨に入れた、青い薔薇の刺青が露になる。
服を

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世迷言

世迷言

拝啓 過去の自分へ

西日が嘯くその部屋で、相も変わらず問うている
「生きる目的とは」
すべてのものには目的が追随する
君が座る椅子も、さっき飲み干したコップも、今読んでいるこの手紙も
それを人は、
目的なんてないのだ、とか
目的を見つけるのが人生だ、とか
目的とは日々の研鑽の結果に過ぎない、とか

夕焼けが木霊する

惰弱な精神は一刀のもとに
助けは甘えだと侮り、
痛い、は通過儀礼だと嘲り、

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方舟 下

方舟 下

昼下がり、少女は眠れなかった。
過去のことを思い出そうとしてしまうのだ。
思い出せない。
自分の記憶がないことと、自分に価値がないことをどんどんと近づけてしまう。
止めることなどできない。それらを結ぶ糸をどんどん手繰り寄せる。
少女が持つ糸のもう一方の端には怪物が棲んでいる。その怪物はきっと少女を喰い殺すだろう。しかし、少女にとってその怪物を眼前に置くことでしか、この不安を拭うことはできないのだ。

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