見出し画像

世迷言

拝啓 過去の自分へ


西日が嘯くその部屋で、相も変わらず問うている
「生きる目的とは」
すべてのものには目的が追随する
君が座る椅子も、さっき飲み干したコップも、今読んでいるこの手紙も
それを人は、
目的なんてないのだ、とか
目的を見つけるのが人生だ、とか
目的とは日々の研鑽の結果に過ぎない、とか

夕焼けが木霊する

惰弱な精神は一刀のもとに
助けは甘えだと侮り、
痛い、は通過儀礼だと嘲り、
つらい、は自己陶酔だと罵った
権利には義務が伴う
栄光には痛みが伴う
……栄光を掴めなかった痛みはどこへ行くのだろう

人を省みず、忘我とは我を殺すことだと言い聞かせ、
同情は憐れみの合わせ鏡だと己を焚き付け、
灰となった魂に薪をくべ、
その煙に喉を焦がした

しかし、そうだ
私は事実の重みを甘く見ていた
痛い、つらいに目を背けるようになったのはいつからか
燃え尽きた灰は心に溜まっていく
その灰の捨て方は今や、誰も教えちゃくれない
中途半端に燃えるから、灰はどんどん溜まっていく

夜郎自大、三文芝居

負けを認めた瞬間から、時計の針はズレ始めた
秒針が、不規則になった

理由は人を弱くする
かと思うと、約束は人を強くする
きっと大事なのは、それらは手段に過ぎないと知ることなのだ
目的だってただの戯言だ
希望は望める状態にいて初めて持てるものであって、幸せの付帯状況に過ぎない
絶望状態における希望は依存に過ぎない

しかし、そうだ
私には依存でいいから必要だった
誰の助けもいらない、私は孤高の人になると息巻いて
そして、私は孤独になった

今日も暁とともに眠りにつく

ある人が言った
人生は本のようなものだと
その本には何も書かれていなくて、日を追うごとに一枚ずつページがめくられる
白紙だから、すぐにめくる人もいれば、
白紙だからこそ、ゆっくりとめくる人もいる
めくる、めくる、めくる……
そしてある日突然ページが終わる
それが人生なんだと

振り返れば、
楽しかったことは、セピア色に色褪せ、
悲しかったことは、呪詛のようにページを埋めている

だから、最後のページにこの手紙を書く
人間嫌いの寂しがりへ、道程と讃歌と手向けを捧げ、
このペンを置く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?