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廻る雨

誰もいない教室で、茜色の空を眺める。
悩み事があると、よく空を見つめていた。
上を向くことが、心も上向きにさせてくれると知っていたのか、
涙を流すまいと向いた先に、空があったのか。

あの頃のように滲み、澄みわたった空はもう見えない。
誰もいないデスクで、灰色の空を見つめる。
空は、いつでも私を見つめている。
表情は変われど、見るものすべてに分け隔てなく慈愛を注ぐ。
きっとこの同じ空の下で、私と同じように誰かが命を砕いている。
その細い糸のようなつながりで保っていた、茜。

ぽつ…ぽつ…
一雨来そうだ。傘、持ってきてないな。
少し遅くなる、と連絡を入れた私に、ある空想が舞い込む。
『もし、この空が過去とつながっているとしたら。』
この雨はあの時の涙なのだろうか。
あるいは、あの時流せなかった涙なのだろうか。

言葉とは呪いだ。
言葉は、後悔、羞恥、呵責の形で私を蝕む。
それら私を取り巻く呪いが、あの灰色に凝縮され、濾され、降り注ぐのが雨だとしたら。

万物は廻る。
あの日見上げた茜が、今の私に何かを伝えてくれているのだろうか。

明日も雨ならいいのに、と私は思った。

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