シェア
小山陽子
2023年10月18日 01:37
美味しいご飯の出てくる小説が好きだ。田辺聖子さんの小説「鏡をみてはいけません」は、主人公・中川野百合(のゆり)が朝食を作っているシーンから始まる。野百合は、小鳥の啼(な)き声の入ったテープをキッチンに流しながら、口笛を吹きつつトマトをむいてる。テレビのニュースはつけているけど、音声をほとんど絞っている。そこへ十歳の男の子・宵太(しょうた)が降りてきて、まだよく知らない同士の二人は、礼儀正し
2023年10月1日 16:13
紙の本が好きだ。年季が入り、少しくたびれて茶色くなった裸の文庫本が手に馴染む。ページを捲り、整列した文字に目を落とすと、たちまち本の中に引き込まれる。読むことはおもしろい。少しずつ、確実に文字を追ってゆく。「生きている」と感じる言葉に触れると心が踊る。小さな頃から何度も開いた本は、読むたび私に「生きている言葉」を教えてくれる。それは自分の大切な柱となっていく。「赤毛の
2023年9月13日 13:59
小さい頃から何度も読んだ本がある。田辺聖子さんの「むかし・あけぼの」。平安時代に生きた清少納言の人生を、歴史を紐解き、田辺さん独自の解釈を加え生き生きと蘇らせた長編だ。田辺聖子さんといえば、関西弁の軽妙なやり取り、大阪の食や笑い、少し癖のある文体、そういったイメージが先行するかもしれない。けれど「むかし・あけぼの」は田辺さんのエッセンスが盛り込まれつつも、清少納言という女