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僕は君になりたい。

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自作の小説をまとめています。連載中です。 美少女アイドルとして奮闘する男子中学生の葛藤の日々を描いています。不定期ですが、月2話ほどのペースで投稿しています。
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#アイドル

僕は君になりたい。 第31話「告白のリミット 手紙を読んで自分と向き合う僕」

僕は君になりたい。 第31話「告白のリミット 手紙を読んで自分と向き合う僕」

#31

土曜日の朝、僕は事務所脇の花壇の周りにできた霜柱をザクザクと音を立て、踏み潰しまくっていた。
誰も見ていないのを確認してから、むき出した白い歯みたいな霜柱の島々をゴジラみたいに粉砕して回った。
ガキな遊びをしていると思われたっていい。この行為は今の僕にとって、単なる遊びではない。

あかりは大事をとって、約1週間の休みを取るという。

「なにしてんだ? お前」

ビクッとして、顔を上げ

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僕は君になりたい。 第30話「告白のリミット 乙女心に動揺する僕」

僕は君になりたい。 第30話「告白のリミット 乙女心に動揺する僕」

#30

あかりが、倒れた⁈

どうして?

「…発作が、出ちゃったんだね」

ポツンと、美咲がつぶやいた。
その瞳には、暗く濃い影が落ちる。

「発作?」

僕が訊ねると、美咲はため息をつき、僕と西山先生を交互に見ながらうなずいた。

「あの子、てんかん持ちなんだって」

「てんかん…って?」

「まあ、脳神経的な病気らしい。あかりの場合、興奮しすぎちゃうと、もう突然身体が硬直して気を失っちゃ

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僕は君になりたい。 第29話「14歳のハート 仕事始め、僕の歌声に酔えって?」

僕は君になりたい。 第29話「14歳のハート 仕事始め、僕の歌声に酔えって?」

#29

僕らは、有名なカメラマン柳生至成氏に写真を撮ってもらった後、本日メインの仕事である、レコーディングのスタジオに向かった。

軽い発声練習を合同でやった後、僕らは別々のブースに入り、それぞれのソロをリハーサルした。
これには花岡先生も同行し、美咲、僕、綾香、あかり、の順で稽古をつけてくれた。

なぜこの順番なのかといえば、バラード、ソウル、ロック、ポップス…とだんだん曲調が速くなるからだ

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僕は君になりたい。 第28話「14歳のハート 新年早々、僕の三角関係って」

僕は君になりたい。 第28話「14歳のハート 新年早々、僕の三角関係って」

#28

年が明けた。

近所の「邑木八幡神社」に初詣した。
大きくはないが、この辺りの神社といえばこの神社で、昔から「むらきさん」と呼ばれ、親しまれていた。
僕と高柳は、それぞれ親に頼まれて持参した去年の御札や御守をお焚き上げ所に預けてから、参拝の列に並んだ。
まだ午前中だったが、もう100人は下らないであろう参拝者が列を成していた。

「…普段はだれもいなくてしーんとしてんのに、やっぱ、正月

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僕は君になりたい。 第27話「14歳のハート 恋を知った僕の落ち込む年末って…」

僕は君になりたい。 第27話「14歳のハート 恋を知った僕の落ち込む年末って…」

#27

恋? 恋?

僕は、綾香に恋してるのか?

心の中で、僕は1人キョロキョロと「恋」というものを探していた。

綾香の顔が浮かんでくる。

それ以外の人は、浮かんでこない。

カオルンは僕の中で既に「憧れの人」というカテゴリーに分類され、「好き♡」なんて言うのは畏れ多いため、恋愛の対象ではないようだった。

マジか…。

僕の中に「あり得ないことベスト10」があったとしたら、その上位をか

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僕は君になりたい。 第26話「14歳のハート 不機嫌な僕の最近の悩みって…」

僕は君になりたい。 第26話「14歳のハート 不機嫌な僕の最近の悩みって…」

#26

撮影時に、僕がスマイルを要求されたのは、最後の1枚だけだった。
コンセプトの中に「ゴシック」の重々しい感じと気高さ、精巧な装飾人形、無表情、などという要素が含まれていたからのようだ。

みんな陶磁器のような白い化粧をした。少し色黒の美咲は首まで白く塗られていた。

なのに、僕だけはいつもと殆ど変わらない薄化粧に薄い頬紅まで差された。
そんなに僕の顔は蒼白としていたのか?
先日の嘔吐から

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僕は君になりたい。 第25話「14歳のハート ゴスロリでも可愛い僕って…」

僕は君になりたい。 第25話「14歳のハート ゴスロリでも可愛い僕って…」

#25

トイレの鏡を覗くと、おしろいを塗りたくったわけでもないのに、僕の顔は真っ白で唇は真紫色になっていた。頭はフラフラし、身体は力を失ってペラペラな紙人形みたいに倒れそうに揺らぐ。

蛇口を捻って、口の中をゆすいだ。

まだ少し気分が悪い。

「……くそっ。何なんだよ、オレ」

冷たい水で顔を洗った。水飛沫が胸を濡らした。

胸くそ悪い。

とんだ、恥をさらしてしまった。

鏡の中の自分を、

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僕は君になりたい。 第24話「聖夜の夢 聖夜の僕は主役になれた?」

僕は君になりたい。 第24話「聖夜の夢 聖夜の僕は主役になれた?」

#24

メンバーたちから、プレゼントをもらった。
『のどケアセット』だという。
吸入器とハチミツとのど飴だ。カンパして買ったらしい。

それと、個々からもそれぞれもらった。

美咲は、紺の手袋とペンケースだった。なぜその組み合わせになったのかは分からないが、ペンケースは汚れてきていて、そろそろ買い替えようと思っていたのでちょうど良かった。デニム地の丈夫そうなものだ。

あかりは、陶芸教室で作っ

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僕は君になりたい。 第23話「聖夜の夢 好きな人はいますか?」

僕は君になりたい。 第23話「聖夜の夢 好きな人はいますか?」

#23

僕は、綾香からの手紙を机の引き出しにしまった。

「はああぁ…」

大きなため息が出た。

「…昨日までと何も変えなくていいからねって、そんなの無理だろっての!」

僕は机の上に突っ伏して、独りもだえながら唸る。

「うーん…」

落ち着かず、今度は天井を見上げてのけ反っていると、ドアをノックする音がして姉が顔を出してきた。

「流伊、もう12時過ぎだよ。寝なさいよ」

「…なあ姉貴。

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僕は君になりたい。 第22話「聖夜の夢 胸がドキドキしませんか?」

僕は君になりたい。 第22話「聖夜の夢 胸がドキドキしませんか?」

#22

その夜、僕はなかなか眠れなかった。

雨を降らした雲は既に遠く、家の外は美しい星空の安らぎに包まれているはずなのに、僕の心臓はドクドクと肋骨を激しく打ち鳴らし、体中に血液を大量に流している。

布団の中で、胎児のように背を丸めてジッとしているのにも関わらずだ。
それに、暗がりの中、目はバッチバチに冴え切っていた。

…明日、大丈夫だろうか?

今日は突然で動揺もあり、何も考えられなかっ

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僕は君になりたい。 第21話「聖夜の夢 告白してもいいですか?」

僕は君になりたい。 第21話「聖夜の夢 告白してもいいですか?」

#21

スティックティーの発売宣伝イベントが始まった。

雨にも関わらず、大勢の人が集まっていた。
彼らはてるてる坊主を作る以前に、大雨でも無関係に足を運んでくる人種なのだろう。

僕らは、商品をピーアールするコーナーで紙コップにそれぞれの味のお茶を手渡された。
美咲は『抹茶オレ』、あかりは『レモンティー』、綾香は『ピーチティー』を「美味しい〜!」「あったまる〜♡」などと感想を言いながら、一口

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僕は君になりたい。 第20話「聖夜の夢 君は僕の何を見てますか?」

僕は君になりたい。 第20話「聖夜の夢 君は僕の何を見てますか?」

#20

雨が降っていた。
しとしとと地面をじんわりと湿らせていく静かな雨だ。走る車が弾く水の音で、ようやく雨が降っているのだなと、窓から離れた室内にいた僕は感じた。

3枚目のシングルが発表されることになった。
やはり、夏、秋と出したので、冬も出すことにしたらしい。

僕は来年の秋冬はもう『星キャン』にはいないのだな…と、ふと思ったりした。

なんでもタイトルは『聖夜の夢』と書いて『クリスマス

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僕は君になりたい。 第19話「聖夜の夢 ルイボスミルクは好きですか?」

僕は君になりたい。 第19話「聖夜の夢 ルイボスミルクは好きですか?」

  #19

中間テストは、思ったほど悪くなかった。
ただあの高柳に誤りを指摘された数学の1問だけが悔しくてならなかった。

風に落葉が舞い狂う季節。

商店街をぶらついていると、偶然に美咲の姿を見かけた。
何かを探しているようだった。
「彼氏へのプレゼント?」と訊ねたら、なぜか僕に「欲しいものを言え」と脅してきた。
僕の欲しいものが、彼氏のプレゼントの参考になるとでも思ったのだろうか。
ひどく必

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僕は君になりたい。 〜番外編〜 「美咲のプレゼント」(後編・救世主)

僕は君になりたい。 〜番外編〜 「美咲のプレゼント」(後編・救世主)

電話に出たときは、元気はなかったが、まだ声が出せていた。

それなのに、その翌日から…声が出せなくなる心の病『失声症』になってしまったと、流伊のマネージャーをしている蝶貝誠さん(社長のご長男だという)から聞かされた。

あかりと綾香にも、私から伝えた。

「流伊くん…大丈夫かなぁ、声出せないなんて、かわいそう…」

「うん…今は、そっとしておいてあげたほうがいいんやろうか。ねえ、美咲ちゃん?」

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