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惰眠
2024年9月30日 01:38
「あっ」目を覚ますと同時に、玄関に置かれた満ち満ちのゴミ袋が目に留まる。時刻は8時半を回っていた。夏を終え9月も暮れに入り、傾いた陽が9時前後にかけてこの部屋に侵入するような季節模様になっていて、ハンガーラックに掛けたTシャツの左肩を陽の光が濡らすのを見れば大体の時間の検討がつく。起き抜けに玄関に目が向くことは、一種の条件反射に近いものだった。しかし収集車もとっくの昔に消えてしまったようなタイミ
2021年12月30日 16:51
普段は明らかに 薄い と思いながら飲むファミレスの珈琲も、想いを寄せている人と飲むとなればまた別の話で、ドリンクバーが特別だと思うのもこの瞬間だけだと思う。一杯目の珈琲が飲み終わったタイミングを見計らい、首を伸ばした彼女は黙って長い指をドリンクコーナーに向けた。「持ってこようか?」という誘いを断ってわざわざ二人で取りに行くことを選んだのは、その僅かな時間すら離れることが勿体無いと感じる私のわがまま
2021年12月21日 05:47
「悪い男に引っかかっちゃっただけで、そんなの忘れれば良くてさ」と言いながらストローで空間をなぞる友人の、グラスの中の氷が溶けている。溶けた氷が随分と厚い層を作ってミルクティーの上に漂っているのを見ていると、自然と目頭が熱くなった。僅か数ミリに満たない上澄みの色が冬晴れの空の色を反射している。それはまるで、彼と行った海によく似ている。若い、青。私の手元にあるアイスコーヒーも、すっかり薄まって色が褪
2021年12月6日 06:18
西向きの窓、カーテンの隙間から月の光が入る、極めて中途半端な時間に布団に潜る。夏も終わりを告げた涼しい夜、開け放しの窓にピタリと閉まった網戸、風の揺れも手伝ってカーテンが踊る度、天井の青色がふらふらと流れる。午前3時、月が南中を越えて部屋に光を投げ掛けるのはいつもこの時間だった。早く起きて洗濯物を干しても、昼のうちは太陽を見ることが出来ないから、夕刻が近付いた頃にふらりと降りてくる太陽を、洗濯物を
2021年12月6日 03:51
「でさぁ」と話し始める君が前傾姿勢になった時に、はらり揺れた黒髪の傍らに見えた絆創膏。白い首筋に少しだけ傾くように、V字に貼られている絆創膏の隅から赤い跡が見えた。プールの授業にもなれば絆創膏は剥がれて、プールサイドの片隅でくるりと丸まっていた。露になったほんのりと赤い傷跡を見て女子の一部が愛のカタチだとか言いながらはやし立てている。何時だか、ギターを弾く人ってなんか良いよね、と机の下でこそこ