「一人ひとりを尊重し、現場に向き合った地域づくりを」福岡地域戦略推進協議会(Fukuoka D.C.)事務局長 石丸 修平さん
日本初の新しい枠組みである、福岡地域戦略推進協議会(Fukuoka D.C.)(以下、FDC)にて事務局長を務められている石丸 修平さんにお話を伺いました。
石丸 修平さんプロフィール
出身地:福岡県飯塚市
活動地域:福岡県を中心に日本全国
経歴:経済産業省入省後、大臣官房政策評価広報課、中小企業庁長官官房参事官室等を経て、プライスウォーターハウスクーパース(PwC)に参画。その後、福岡地域戦略推進協議会(FDC)に転じ、2015年4月より現職。九州大学客員准教授。アビスパ福岡アドバイザリーボード(経営諮問委員会)委員長、Future Center Alliance Japan(FCAJ)理事、九州大学地域政策デザイナー養成講座エグゼクティブディレクター、Institute for Future Asian Football(IFAF)Advisory Fellow等を歴任。九州経済連合会行財政委員会企画部会長、福岡県飯塚市行政アドバイザー等公職も務める。
座右の銘:莫煩悩
13世紀、蒙古襲来という国家存亡の危機に立ち向かう若き執権・北条時宗に禅僧の無学祖元が贈った言葉。精神を集中し、できる限りの準備を行うこと。そうすれば、自ずと結果は出るという意味。
「地域を超える枠組みをFDCによって補完することで、地域全体を底上げしたい」
Q.どのような夢やビジョンをお持ちですか?
石丸 修平さん(以下、石丸):FDCでは、福岡都市圏(福岡市を中心とする10市7町)を起点として、この地域の課題を解決し、地域をより良くしていくことを目指しています。従来の成長や発展のイメージよりは、持続可能性を重視し、広域かつ産学官民で取り組んでいます。
税収やリソースなど、行政に足りないものが多い中、それだけで地域を良くしていくことはできません。民間企業の知恵やリソースを活用して、地域に求められるサービス・製品を一緒に考えていくことが、地域をよくしていくために必要です。
大学は、教育で地域の人材を輩出することが重要ですし、研究も次の時代を見据えて課題を解決していくようなことが大前提としてあるので、そういう成果をもっと地域に役立てていくことも重要です。また民間企業と一緒にやっていくことで、現場にいる人たちにフィードバックされていく流れをつくることができます。
産学官民の「民」は市民のことを言っています。190を超える大企業、中小企業からスタートアップ企業までが協議会に参画していますが、その中には自治協議会を動かしている人たちも入っていて、そういうところも大事にしています。
「10市7町」と言っている意味は、それぞれの自治体だけでは解決できないことを広域でやることで解決していこうという考えです。観光はわかりやすいです。九州に入る人の7割は福岡からですから、九州の観光を考える上で福岡は重要です。そういう意味で、福岡と一体となって、福岡に来ている人を送客する仕組みや利便性を高めるといったことに取り組むことで問題が解決されていきます。
地域を超える枠組みをFDCによって補完することで、地域全体を底上げしていきたいと考えています。そしてFDCのような組織を広げていきたいですね。
記者:画期的な取り組みですね。
「価値観の変化とそれを支える仕組みづくり」
Q.夢を具現化するために、どんな目標や計画を立てていますか?
石丸:FDC自体は2011年にスタートしました。ちょうど3.11をきっかけに日本全体が大きく変わるタイミングでもあったし、FDCも従来にない価値観を生み出しそれを支えるための仕組みを作っていくことが大きな目的だったと思います。他の地域にはFDCのような組織はなく、まさに福岡発でつくった枠組みだと思います。色々な地域から視察に来られますが、地域によって事情は様々ですので、それに合った仕組みができたらいいと考えていて、各地域にカウンターパートができれば、色々な課題や解決策をシェアしたり、将来的にはリソースもシェアできるのではないかと考えています。
また、世界的にもこれまでの概念で社会に向き合い続けることは困難です。例えば高齢化社会です。相対的に恵まれているとされる福岡都市圏でも高齢化率は確実に上昇しています。あと10年もすれば、構造が一気に変わると思います。これを支えるための解決策は、2つあります。1つはAIをはじめとするテクノロジーがソリューションになって、人間生活を支えている状態を作ること。もう1つは価値観の変化です。高齢者の定義を変えてしまうなど、従来の常識自体を大きく変えてしまうことで状況は一変します。価値観を変え、政策も変え、新しいモデルを作っていくことが必要です。そして実はこれからアジアが追従してきます。そうなったときに、課題先進国という立場で解決策を持っている我が国が、世界をリードしていく1つのきっかけになれると思います。そういったモデルを福岡で作っていけるとよいですね。
記者:福岡が世界に先駆けてモデルを提示していくことの重要性とそれができる希望を感じますね。
「皆で決めて皆でやったんだけど失敗したら、笑いあえる気がする」
Q3. その中で、どんな活動指針を持って活動されていますか?
石丸:一人一人を尊重することを意識しています。Aさんだけでなく、BもCも大事という考え方です。例えば、東京一極集中の問題がよく言われるじゃないですか。それはなぜかというと単純で、みんな便利なところに行きたいからですよね。でもそれを制限することはできないんです。リソースは限られていますから、費用対効果が高いところに投下されるのは仕方ない面もあります。でも、地方にも人は住んでいます。その人たちの生活は無視していいのか?ということなんです。地方にも生活者はいるから、その人たちのために何ができるのかと考えます。だからこそ地域の実情に応じて地域で意思決定していく仕組みをつくる必要があると思っています。
簡単に言うと、地域の皆でやりたいんですね。一部の人が勝手に決めて勝手にやって上手くいかない社会って不幸だと思っていて。でも、皆で決めて皆でやったんだけど失敗したら、笑いあえる気がするんです。だからできる限り、皆で意思決定して実行していくということは大事にしているし、これから先地域の意思決定をする時も大事にしていきたいと考えています。
記者:素敵ですね。皆の意思が反映された意思決定ができたら理想的ですよね!
「痛みを知り、傷ついた上で、切るべきところは切る」
Q4. 「FDCのような組織を広げていきたい」という夢をもつようになったきっかけはなんですか?そこにはどのような発見や出逢いがあったのですか?
石丸:私は元々経産省にいたんです。入った理由は結構ミーハーだったのですが、国家公務員なので、入る時に宣誓書を書くんです。簡単に言うと、国家国民のために命を懸けられるか?ということなんです。極端ですが、国民を守るために死ぬことができるか?という宣誓書なわけです。その時に国とか国民を意識したし、国家国民のために全身全霊頑張っていこうと思いました。
入ってからは、中小企業の支援とか地域にあるものを価値化するための法律を作ることをやっていました。国の政策や法律では、判断1つで何人もの人たちが死ぬ可能性だってあるんです。中小企業政策もそうかもしれない。役所時代はそんな一大事を背負って仕事をしているということを痛感しました。昔は「現場をみるな」という話があったりもしたようです。なぜなら、現場をみると情が生まれて冷静な政策決定ができないからです。でも私は逆ではないかと。「痛みを知り、傷ついた上で、切るべきところは切る」といった意思決定をしなきゃいけないのではないかと思ったわけです。中央にいると現場が見えにくいと思ったし、そこに不満が残りました。もちろん国家としての視点は大事ですが、地域に向き合うことも必要だなと思ったんです。宣誓した時の心構えはぶれないけれど、経産省以外の選択肢があると思い、経産省を辞め、コンサルの仕事を経て今があります。
記者:宣誓書を通した決断、そして現場と向き合い痛みを感じた経験が今に繋がっているのですね。
「その痛みがわからない人は政策でその人を救えない」
Q5. その発見や出逢いの背景には、何があったのですか?
石丸:今このような立場ですけれど、私の人生は決して順風満帆だったわけではないんです。だから、純粋に一人一人が幸せに生きる社会をつくるというのは子供の頃からあったと思います。やはりその痛みがわからない人は政策でその人を救えないと思ったんです。共感して一緒に泣いたりしながら、向き合うことが必要なんです。向き合えない苦しみもあると思いますが、そういう環境のなかで一歩一歩着実に地域をよくしていき、一人でも多くの人の幸せをつくるということをやっていかなければならないと思います。例えば、最近虐待のニュースをよく見ますが、悲しくて本当に涙が出ます。子どもの大切さ、素晴らしさ、愛らしさが目に浮かび、苦しみが想像できるからでしょうか。社会をよくしたいと痛切に思います。親のせいだけではなくてそうなってしまう社会の状況もあるし、そういったところにも入り込んで気持ちを理解した上で、丁寧に地域づくりというところに向き合っていきたいなと思いますね。
記者:ご自身の経験からも、色々な痛みがわかるからこその石丸さんの懇切な想いを感じます。
石丸さん、本日は貴重なお話、有難うございました。
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【編集後記】今回インタビューの記者を担当した大野、相良、吉田です。多様なセクター、観点を同時に視野に入れながら、上手く掛け合わせていくという困難にみえる立場にいらっしゃいますが、どんな立場のどんな意見であっても格差なく取り入れるという普段からの姿勢があるからこそ可能であるとわかりました。またその姿勢の裏には、人間一人一人の尊厳を守りたい涙を感じます。石丸さんのような想い溢れる方が福岡、九州、そして日本を支えているということにとても希望を感じましたし、共に美しい時代を作っていきたいと思いました。
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この記事は、リライズ・ニュースマガジン“美しい時代を創る人達”にも掲載されています。
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