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📕ショート【モノローグ】 787

 もしかしてあの方の人生に寄り添えるかもしれないなんて、どうしてそんな突拍子もないことを本気で考えてしまったのかしら。
有頂天になる様は、さぞかし滑稽に映ったでしょうね。


 眩しかったのですよ。
好きなこと、好きなもの、好きな方のことを、何の衒いもなく
「好きです」
と言う素直さが。
懸命に責任を果たそうと奔走する姿が。
悔しいときに隠しもせずに泣ける強さが。
ええ、弱さではなく強さです。
泣けるほど激しく想いを注いでいるという証拠ではないですか。


 ただひとつ、胸が苦しくなることがありました。
人の悪口を絶対に言わないこと、自らを傷つけてでも人を傷つけまいとすること。
どうしてそこまで自分を後回しにするのか、もどかしくて仕方がありませんでした。


 そんなあの方と接点を持つだなんて、一体誰が想像したでしょう。
たとえ接点がないままだとしても、好きだったのですよ。
あの方は冗談だと思っていたでしょう。
本気でしたよ、恋愛ではありませんでしたけれどね。


 嬉しかったですよ。
どうしてこのタイミングで私なのかしら、と何度も考えてみました。
勿論、答えなんか出ませんけれど、存在が認識されていたという嬉しさでしょうか。
 例えばアーティストから見て
「その他大勢のファン」
というのではなく
「いつも観に来てくれてるよね?」
と認識されている感じとでも言うのかしら。


 印象のままでした。
優しいし、常に気遣いを忘れないし。
それでいて率直で、やっぱり苦しさを感じました。
 もっともっとご自分を優先していいのですよ。
どなたかの犠牲にならなくていいのです。
あの方だって、うんとお幸せになっていいのです。
貪欲になっても構うものですか。
躊躇う必要なんてないのですよ。



 苦しみの正体を知った私は、好きになってしまいました。
今度は恋です。
気づかれなかったでしょう。
自分でも気づいていませんでしたから。
 恋慕う気持ちが未だ残っているなんて意外でした。
出会いも別れも経験しましたし、既に、恋心が人生に不可欠だとは考えてもいませんでしたしね。
でもね、素敵でした。


 日々の生活の中で、何かのことを考えてワクワクしたり、どなたかを想い浮かべてドキドキしたりすることは、長らく絶えてありませんでした。
 おかしいでしょう。
ひとりでに、嬉しくなったり切なくなったり苦しくなったりするのですよ。
自分の心臓の音が大き過ぎて、眠りにつけなくなったりするのですよ。
想像もできないでしょう。
私だってびっくりしましたから。



 恋人ではないですからね。
自覚くらいはしていましたよ。
それでも傲慢になってしまうのですね、無意識のうちに。
親切や気遣いを、親しさだと取り違えてしまうのです。
 踏み込んではいけない領域や、曝さない方がよいこともあると思うのです。
知りたいし知ってほしいとは想いますよ。
でもね、お相手にとっては要らない情報もあるのではないでしょうか。
知り過ぎない方がいいこともあるのです。



 毎日外で働いて、日々いろいろな方と出会って、様々なことから刺激を受けていることでしょう。
取り巻く状況は刻々と変わっていることでしょう。
考えなくてはならないことが山積していることでしょう。
ある意味、健全ですよね。
 考えることが少ししかないと困ってしまうのですよ。
「連絡があるかしら」「忙しいのかしら」「疲れているのかしら」なんてね。
まだまだあるのですよ。
「違う言い方の方がよかったかしら」「伝えない方がよかったかしら」「押し付けがましかったかしら」……
まったく嫌になってしまいます。


 口から出てしまった言葉や送信してしまったLINEには、どれほどやきもきしたことでしょう。
ひとたび相手に届いてしまえば、取り消すことなどできません。
 貶す言葉でなくても攻撃になり得るのです。
好意であったとしても善意であったとしても、受け取り手の許容範囲を超えてしまえば攻撃と同じです。
率直に伝えたつもりの好意や善意が、脅威となることもあるのです。


 咎められたことはありません。
優しいし気遣いの方ですからね。
ご自分を卑下することはあっても、人のことは決して悪く仰いませんから。
私のことも、傷つかないようにしてくれていたのですね。


 自己嫌悪に陥っています。
どうして今まで気がつかなかったのでしょう。
いつから、自分のエゴを優先させようとしていたのでしょう。
 あの方の感情をコントロールできるとでも、思い上がっていたのでしょうか。
嫌われてしまったかもしれないと、今も不安で堪りませんよ。
確かめることなんてできません。
ああ、自分の発した全ての言葉を引き上げてしまいたい……


 心理的なストーキングではと、心配しています。
そんなつもりはなかったのですけれど、気持ちが強くなり過ぎてしまったのではないかと……
 自分に嫌気がさして、つい理由を説明してしまうのですよ。
それが言い訳じみていて、益々あの方にご負担をかけてしまったと、後悔の気持ちが堂々巡りしてしまうのです。



 眩しく想っていたとき、恋心を抱いたとき、私が望んでいたことは、あの方の幸せな姿を見守っていたいということだったのです。
こちらを振り向かせたい、一緒に人生を歩みたいと望んではいなかったのです。
 何も悪くないのです。
どなたも悪くはないのです。
募ったのは私の気持ちだけですから。
重荷になっているのは私なのですから。
勿論、あの方から重荷だなどと言われたことはありません。


 一人芝居のようですよね。
でも解るのですよ、あの方の理解者でいたいと想っていますから。
確かめる必要性は感じていません。
間違っていても構いませんから。
自分を責めないでいてほしいし、私に余計な気遣いをしないでほしいですからね。



 お付き合いをしていないのですから、失恋ではありませんよ。
それにね、これからも恋心は持ち続けるつもりです。
諦める必要なんてないでしょう。
気持ちが華やぐことって素敵ですもの。
存分に味わい尽くしますよ。
 眩しさを取り戻してほしいのです。
もうご自分のことを後回しにしないでほしいのです。
ご自分の幸せを一番に考えてほしいのです。
いつまでも見守らせてほしいのです、ずっと。



 伝えようなどとは想いませんよ。
録音もしていませんし、手紙なんかに書くつもりもありません。
そうね、小説にするのは良いアイデアかもしれませんね、他人事のようで。
 寧ろ伝わらなくていいのです。
伝わってご覧なさいな、きっと私を傷つけないようにと、気遣ってくださることでしょう。
ね、素敵な方なんですよ、本当に。
あら、惚気話みたいですね。




 これからも、偶に会えるといいのにと想いますよ。
幸せな自慢話を聞かされて、ヤキモチを妬いてみたいわ、なんてね。








※創作です

#note祭
#遊星
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