記事一覧
人魚と冷たい人間の話
友の力も借りて、少年を探す為にサンディールという砂漠地帯まで足を運ぶ事ができたけれど…長い間深海で過ごしていた彼女にとって、暑さは天敵。砂漠の日差しなんて耐えられるものではない。足元でミスティックが彼女を労る。横に付き、寄り掛かれと言わんばかりのセナルにそのまま身を寄せて、少しでも温度を下げる。セナルの身体は冷えていて、とても涼しいから――…
「なあ人魚さんよ」
「今日も宝石ジャンジャン出してく
陸に上がった人魚の話
「声のない人魚なんて人魚じゃないわ」
貝から生まれて、間も無くわたしが言われた言葉は「はじめまして」でも「おはよう」でもなく「罵倒」というものだった。
本来人魚という生き物は、美しい声で歌い、様々な生物と交友を図るもの。だけど、わたしにはその"声"がないうえに貝の中で成長しきらずに出てきたのだと聞いた。だからわたしは他の人魚よりも少し幼くて、哀れんだお姉さんがたまに話をしに来てくれた。本当に、
時を巡り続ける双子の話
「いつか、目を覚ました時には…あの子の側に、いてやってくれ。」
Motherの手で、キングナソードのコアに素体を安置された私達。そして、添えられた傷付いた手…Mother、貴女はいつもそう言うわ。
だけど…ねぇ、Mother。
「アリーヤ……アリーヤ、目を…アリーヤ…!」
貴女だけ、いつも居なくなってしまうわ。あの薄暗い魔界で、貴女の亡骸を抱いて泣いているが誰か分かっている筈です。最愛の…
哀れな少年の悪夢の話
僕は物心付いた時から冷たい檻の中に居た。
檻には何人も何人も、沢山の人が押し込められたいた。
どの大人も子供も生気がなく、暗く俯いていた。
代わる代わる入れ替わり、入って来ては居なくなり…
そんな様子を、ずっと見ていた。
たまに誰に話し掛けてみても、誰からも返事は返ってこない。
ある日、檻の前に大人数人と女の子がやって来た。
そして、僕を指差してこう言った。
「"アレ"がいい!白く
とある親子の始まりの話
「おとうさん!」
毎日聞いていた、愛しい息子の明るい声。私は「なんだい」と振り向くと、子供らしい絵で、自分の住む街の風景と、笑顔で手を繋ぐ自分達と母代わりをしてくれた我が妹。
「あぁ、とても上手だね」と褒めると、息子は嬉しそうにその絵を私にくれた。
…今でも、宝物だよ。
『―――異常ヲ見ツケタ。』
――あぁ…神よ…
「ぼくが、一人で…?」
「そうだ。父さんと強くなる訓練をしただろう?
奇跡から生まれた子供
遠い遠い、精霊の森の奥。長の血を受け継ぐネックの一家がいた。
その家に産まれた"奇跡"の力を持って産まれた男児。
それこそが精霊王、ヴンダー・トーナリティ。
森が生まれ、水が生まれたその時から泉に棲むウィンディーネが自分をも越える力のある妖精が産まれたのは初めてだと驚愕する程のものであった。
彼は育つにつれて、幼少の頃よりその頭角を現し森中が彼を長と謡い崇めた。
ただ彼は冒険心の塊であっ
愛しか聞こえない男の話
私は、生まれ付き耳がよくない。
領主の息子として生まれながら、日常会話すらも意識をしなければ耳に入っては来ない。
突然の事には到底対応が出来なかった。
その為、幼い頃からお見合いの話が絶えなかった。
しかし現れる少女は皆自分の作ったいい性格ばかり…
誠に美しい心の方も居たけれど
「 …、お初……… ござ 」
聞こえない。
「…お引取り願います。」
「この子も気に入らないか…?とても器