狐に小豆飯

俺が産まれたのはサンディールの都会。母さんとその家族に囲まれて赤ん坊の頃は育った。

その家からしたら、俺はだいぶ問題児だったらしい。
なんたって家のだーれにも懐かない、母親にさえそっぽ向くうえとにかくイタズラ好き。相当手を焼くガキだったらしい。言うこと聞かせる唯一の手段は俺の好物、桃をやる事だったそうだ。それに比べて弟は至ってフツーで、めちゃくちゃ扱いやすかったそうだ。

俺が5つになる頃、親父が家に来て俺を連れて山に行った。こちとら山に大はしゃぎ。親父は着いてくりゃいいって顔でずんずん進む。怖いもんなんてないもんで、そこら中行ったり来たりしながらついて行くと人が寄り付かないような視界の悪い場所に着いた。そこで親父は何も言わずに狐の姿になって問った。

『俺をどう思う』

どうと言われてもただのでかい狐だ。
驚きも何も無かった。

「べつに?」
『狐の子である気分はどうだ』
「しらねぇ〜キョーミねえしぃ?」
『………』
「かあさんもじいちゃんもばあちゃんも、みーんなシケたニオイしかしねーし、おやじがおれのこと"さらう"ならかまーねーよ」

"普通"の5歳児じゃ考えられない言葉を聞いて、狐の姿の親父は目を三日月のように細め、口角を上げて『合格だ』と言った。親父が言うには、俺は人間の姿ではあるが、中身は完全に妖狐なんだそうだ。

正に「人間の皮を被った狐」ってやつだ。

『ようやくいい狐が産まれた。獣の姿にはなれないのは残念だが些か問題では無い。』
「ほーん…キツネな…」
『息子。お前の名はなんだ』
「んー、ばあちゃんがつけたのがあるけど、おれあれキライなんだよなあー?ふるくせぇしなによりだっせぇの」

それを聞いた親父はまた笑った。これが欲しかっただの言って、名前を新たに『桃餌(トウジ)』として、親父も家に頻繁に現れるようになった。親父も化けてる間は普通の人間をして生活してた。正直、俺にはダルそうにしか見えなかったが母親達はそうでもないらしい。

―――所詮、人間だ。

見抜く能力もない人間。俺は自分が狐と知った時から人間を見下す事が加速して益々手が付けられなくなった。考えてもみろ?動物は成長が人間の倍なんだぜ?5歳児と思ってガキ扱いしてる間に、狐として急速に成長を始めた俺はコイツらなんか目じゃなかった。次の年には妹を引き取りに行くから付いてこいと言われて…行った先で

「ふざけんじゃないわよ…!お母さんが…お母さんがだいじに、この子に、大事に付けた名前をあんた!!!」
「ッてえな!!!だせぇからだせぇっつったんだ!ホントのこと言ってなァにが悪ィってんだ!!!」


最悪との遭遇。


妹と血縁関係にある半エルフの女。

あの場で殺せなかった事を、俺は後に後悔することになる。

妹を連れて帰って、桃子って呼んで、これがまた最高にかわいい奴で、ガキの俺でもバッチリ分かったぜ…初めて感じて、自覚した。

こいつは"最高の妖狐"だ、ってな。

だけど俺と弟以外の人間は正直、桃子を可愛がらなかった。それは親父が外で作ってきたガキだからで、2度目だからだ。弟の桃鳴も俺と母親が違って、その時も相当モメたらしい。道理でいくら言う事聞きやしねえ悪戯小僧でも、自分の産んだ子である俺の方が可愛いわけだ…

「━―━―!ちょっと何してるのよ!」
「虫がいたからぶっころしてやろーと」
「虫なんて花瓶倒してまで追い掛ける必要なんてないの!全く、怪我してないわね?水浴びただけ?」

そう言って俺を勝手に抱き上げるウザい母親。そのだせぇ名前で呼んでんじゃねェよ

「俺のももちゃんに近寄る虫はミナゴロシなんだぜ」
「はいはい、そんな物騒な言葉使っちゃいけません!妹なんて放っておいて、私達だけで外食にでも行」
「ももちゃんを殺すのか」

言葉を遮ると心底驚いた顔して、俺の頬を撫でた。触んなクソが

「な、なに言ってるのよ?うちにはおじいちゃんもおばあちゃんもいるんだから、私達2人だけが食事に行くぐらい…」
「母親が赤ん坊の1人や2人増えたくれぇでなに毛嫌いしてんだ」

うぜぇ、うぜぇ、うぜぇうぜぇうぜぇうぜぇうぜぇ。

「━―━―!!あんたそんな言葉どっから覚えて来たの!?」

殺させない俺のかわいい妹をこんなクソ親に俺のかわいい妹を奪われてたまるか俺のかわいい妹俺のかわいい桃子。

「───…が…」
「いらねぇよ。もう」

大人のくだらないドロドロママゴトに付き合ってなんかいられねぇんだ。桃子は俺が育てる。

俺は母親の喉元に爪を立て掻っ切った。
残ったそれは人間の引っ掻き傷とは到底思えない、獣の鋭い爪で掻っ切ったような傷口でそれは…本当に呆気なく死んだ。人間なんてこんな簡単に狩れるんだと、笑顔が隠せずにいると、奥から祖父母が母の倒れた音を聞き付けてやって来る音がした。俺は面倒で面倒でたまらないが、俺がやったとバレるのも面倒…となれば行動は1つ。

「なんだこれは!?一体、どうしたんだ!」

じいちゃんが見えて、ばあちゃんも俺たちを見て悲鳴を上げた。状況が飲み込めてなくて放心するフリに、ブツブツと何かを呟く事に徹する俺。尻餅を着いて震えてりゃあ孫が娘殺したなんて思いもしねえさ。バカな人間なんてそんなもんだ。そしてその状況に拍車を掛けるように、親父がじいちゃんとばあちゃんを狩った。俺達を怪しみ、縛るモンが消えた。俺は本当に笑いが止まらなかった。

「今のは最高だぜ親父」
「それはこちらの台詞だ息子。まさかこんなに早く殺すとは思っていなかった」
「人間風情が俺とももちゃんを引き剥がそうったってそうはいくかよ」

これでももちゃんを独り占め出来ると思って俺は大はしゃぎ。だけどこれからの事を考えてない訳じゃない…家には俺が飼おうとしてた動物のような魔物がいて、そいつが母親達を殺した、って筋書きを作ってちゃっちい警察呼ばれて俺は事情聴取…と言っても相手は6歳のガキだ。急に母さんやじいちゃんばあちゃんがあんな死に方したら泣いてて当たり前じゃね?俺があんなの拾って来なきゃ良かったんだーって喚けば警察だって不憫に思ってすぐ親父の所に返してくれる。

…実際、その魔物の暴れた跡は親父の自演。

めちゃくちゃになった家は取り壊される事になって、俺達は新しく家を新調する必要があった。

「にーに、ままは…?」

そこで面倒なのは弟だ。正直捨てたい気持ちは山々だが、兄妹3人で生きる事に意味がある為捨てるに捨てられない。4歳で丁度イヤイヤ期の弟が居ることによって長男の俺は泣くのを我慢して、ももちゃんをおんぶしながら道端で他人に物乞いをするんだ。母さんを探す弟がふらふらとどこか行きそうになるけど、それを引き止めると当然弟は駄々をこねる。そうそう、こういう図がないと周りの同情ってのは買えないんだ。惨めに縮こまって声掛けられるのなんて待ってたら、その間にみんな餓死しちまうぜ。

こうやって、弟には大人達に物乞いやらなんやらする俺を見て覚えて貰わねぇと困るってワケだ。どうしてって?イヤイヤ期でも弟は兄貴の俺が好きだからだ。俺のマネをしたがるだろうし、それがどんなに大変か知って、俺が居る事が一番安心だと思わせるのが目的。

これは物の見事に大成功!弟は俺がすごい兄貴だって刷り込み、完全に金魚のフンになった。

俺は料理屋の人間に頼み込んで料理を教えて貰ったり、保育所にも頼み込んで寝泊まりさせて貰ったついでに子育て云々を教えて貰ったりもして、俺は人間特有の白い目や後ろ指なんか気にも留めず人間の知識を吸収した。そんな頃親父が各地域に住まいと仮妻1人を調達してきたので、こっからが俺の本領発揮。

「トージちゃん!また買いすぎちゃったから、うちまで手伝ってちょうだい!」
「おばさん俺居るからっていつも買いすぎだよ!でも、まいどあり!」

「ガキにしちゃ悪くない出来じゃないか」
「ありがとうございます」
「でもこんなんじゃ、金やる気にはなれねぇな」
「大人なら相手が子供でも商売は商売じゃん。お金払ってくんなきゃ困る」
「ガキが商売ナメんな!!たかがガキのクオリティで貴重な時間をやったんだ!俺が貰いたいくらいだぜ!」

各地域で"なんでも屋"と称して靴磨きや荷物持ち、犬や子供の面倒をみたり、ガキができる範囲でなんでも屋として荒稼ぎした。文句言う客は顔覚えて親父に殺して貰って有り金全部俺達のポケット。変な噂立つといけないから全員じゃねえけどな。毎月違う地域で、親父が調達した家っつーか小屋を移動して過ごした。

たまに女がいる小屋があって、その女が弟と妹に変な手出ししてないかを必ず確認しながらちょっと前に頼み込んだ各所へ律儀に金を入れたりして、俺は2年で至る所で信用を掴み取った。ちなみに仮妻はとっくに親父が食い殺した。強い狐を産めそうでもねぇし育児も半端。単に丁度いい家を持ってたから近寄ったんだそうだ。我が親父ながら最悪だ(笑)。でも丁度よくまた妹が出来た。だけどコイツは全くの雑魚。正直愛情の欠片も無いけど…一応母親付きだから俺はまた親父と荒稼ぎに出られる…なんて上手くはいかない。女はキツくこんなに子供いるなんて聞いてない、こんなの無理!だの騒いでみんなギャン泣き。2歳になったももちゃんも俺にしがみついて離れない。

こんな手本みたいな毒親とももちゃんを一緒にする訳にはいかない。

まあ女はさっさと子供置いてどこかに姿を眩ませて、雑魚とは言え多少は血の繋がった妹。表向きはいい兄貴を演じて弟と妹を育てないといけないのが本当にダルいとこだ

「なあ親父ーこれ以上増えたら俺の手に負えねぇぞ?せめて桃鳴が使えるようになるまで待ってくれよー」
「…もう一体はいい狐を確保しておきたいが…ふむ」
「俺だって大人じゃねえから3人も面倒見切れねぇよォ」

夜中に親父と話してる時だった。俺に小さい狐が張り付いた。

「なーんだももちゃんどうした〜起きちゃったのかぁ?」
「にー…にーに…」

桃子はよく真っ白な子狐になって駆け回ってた。親父や俺にとっちゃ最高だけど、周りに知られる訳にはいかなかった。だから狐にはならないように言い聞かせた。桃子は本当に素直でかわいい妹だ。ま、寝惚けてる時はしょうがねぇよな。抱き上げて背中を撫でてやるとすぐに寝落ちる。

「はぁ〜〜ももちゃんはほんとにかわいいな〜〜〜!」
「狐姿もまるで問題ない…本当にこれ以上ないくらい最高の娘が産まれたものだ」

親父が来るのは大体桃子の様子を見る時だけ。母親の確保の相談と害客の駆除とかは俺が親父のニオイ辿って見付け出して話してる。今回は子供好きそうな女引っ掛けて面倒見てもらうって流れだ。

「桃餌くん、桃鳴くん、桃子ちゃんに姫桃ちゃん!まぁ〜!みんなかわいい〜〜!!」
「すまない…俺も仕事したきりで、世話は長男の桃餌に任せきりだったんだが、流石にこうなると子供だけではと…」
「大丈夫です!ご事情はしっかり理解したうえで引き受けたんですから!」

人が良さそう、ってだけの女だ。顔は特別美人じゃねえが優しさと思いやりで人から好かれそうな、見るからに騙されやすい人間。
こういう奴ほど子供好きなんだよなぁ…意味ワカンネ

「お姉さん」

とりあえず…

「俺、お姉さんには手を掛けさせません。でも、ていまいの事、どうかよろしくお願いします!」

俺がしっかり挨拶する。

「よ…よろしくおねがいします!」
「おねがーしまっ!」

桃餌と桃子が続き、内心ほくそ笑む俺。
さあて、俺が育てて俺にバッチリ懐いてるこの状況で…どうサポートしてくれるか楽しみだ。

「にぃ゛〜〜〜〜〜にぃ゛〜〜〜〜〜」

なけなしの金を稼いで帰ると、毎日桃子が泣きながら俺にしがみついて来る。思ってた通り、桃鳴はちょっとずつ兄貴をしようと頑張っているが母代理と同様、俺に敵わず2人でしょぼくれてる。

「桃餌くんはすごいわねぇ!なんでも出来ちゃうなんて!」
「なんでもは、出来ないですよ…大人じゃないからマトモに金も稼げない…」
「でもお料理やお洗濯、お掃除も下の子3人の面倒だって、桃餌くんカンペキじゃない!お金だって、無理に稼ぎに行かなくったって…」
「俺が稼がなきゃみんなご飯食えなくなっちゃうよ。親父は中々帰って来れねーし、俺が3人を食わしてやらねーとダメなんだ!」
「桃餌くん…」

こういう女ほどこういうのに弱い。俺は兄貴だから、俺は兄貴だからと口癖のように言うようにしたら母代理は俺を不憫に思ってか、ことある事に甘やかしてきて死ぬ程うざい。

「(ああぁ〜〜〜〜クソウッザ!マジで食い殺すぞ…)」

かと言って、今俺の都合で食い殺すのはどう考えたって不利益だ。

なんたってこの母代理は3年は世話をしてくれた。その間に1歳の弟とこの母代理が産んだ妹がまた増えた。これまたハズレでまっっっっったくのゴミ。チッ…出費ばっか嵩んじまう…ま、俺も11になってやれる事が増えてきた。桃鳴も前よりは使い物になる。

とりあえず、母代理は親父と喰った。親父はデカい妖狐だからバキバキ食えちまうけど、俺は狐体になれないから美味いもんじゃなかった。どっちかってーとマズい。そもそもなんで母代理をずっと置いておかねえかってーと

「ガキ共が俺以外に懐いたら面白くねーからなァ〜」

そこらの枝を振り回して後ろにぶん投げた。それが偶然カップルに当たったらしく文句を言われた。それで思い付いた。あの母代理に、俺は女と間違うくらい美人だって言われた…そうだ、って事は…"そういう"稼ぎ方も出来る。そうなれば俺自身大男を軽々と倒せるようにならないと誤魔化しが出来ねぇ。まず体術を習う事にした。金は掛かるが金を稼ぐ為だ。俺なら何億だって手に入れられる。とりあえずは仕事を減らして貯蓄を切り崩しながら弟妹の世話。仕事に当ててた時間で護身とかそれっぽいとこに通う。ま、当然俺は身体も柔らかい、動きも機敏で覚えも早いでセンセーからは絶賛の嵐!そこから芋づる式にあれやこれや大会出場やらあちこちからこれやらないかあれやらないかでてんやわんやあって、俺は槍術をやる事になった。

こ〜れで金になりそうでずっとやりたかった護衛が出来るぜ〜!三男の母親も子育てしてくれそうだし、金稼ぎに集中しよ〜〜〜っと♪

…なんて、長く持つ訳ねぇよなぁ〜〜〜〜〜

「私だって自由な時間欲しいのよ!!!」

育児疲れで半年でヒス起こしやがった。

「お前が長時間外で遊び歩いてる間私は子供!子供!子供!!!こんな育児漬けの生活もうイヤ!!!」
「叫ばないでよ。みんな怖がってんじゃん!それに俺は遊んでるんじゃなくて金稼いでんの!何度も言っただろ!?」
「うるさい!!!子供に仕事なんて無理に決まってるじゃない!!!こんっっなに可愛くない子供達をお金もないのにどうやって育てろって言うのよ!!?」
「買い物とか金のやりくりしてんの俺じゃんか!!金ならちゃんと俺が貯金して無駄遣いなんかしてねえから安心しろよ!!自分が自由に金使えないからって1人で被害者面とかほんとにない!そもそもなんで俺に言うんだよ!親父としろよこんな話!!」
「全っっっっっ然帰ってこなくて言えないからアンタに言ってんのよ!!!!!!」

うっっっっっるせえババア。
毎回このヒステリー聞かされる俺ってば不憫~!ま~たタダで保育士してくれる女見付けないとなのかとか思うとクソダッッッッッッッル

あ〜でもこれはこれでいい展開か~!どう考えたってぽっと出の女より、俺の方が信頼出来るもんなぁ〜?
そうこう色々ありはするけど、なんかそんな見所もねえようなこういうのばっかのフツーの日常が続いて、狐姿の親父と話してるとこを姫桃に見られて嫌われたりしたけど後は特に…いや、育つにつれてももちゃんが超〜〜〜丁寧な働き者になっちゃって助かっちゃうのなんのって〜〜〜金にも大分余裕出たから、ももちゃんにも槍術習って貰って〜♪他の奴らもやりたい習い事やらせてしっかり大黒柱の俺!害客の始末も親父に頼まなくたって自分でさっくり殺れちゃうし手間も無くなった!この時俺16!

「桃餌くん、ほんとにおっきくなったわねぇ〜!」
「いや〜!それもこれも、おばさんがいつもご贔屓にしてくれるからですよ〜!今日もご利用ありがとうございます!」
「ほんとにこんな金額でいいの〜?うちも裕福って訳じゃないけど、もっと払ってもいいのよ?」
「何言ってんすか!十分ですよ〜!おばさんにはずっとお世話になってるんですから!こないだくれた芋煮なんて、弟妹がおいしいおいしいってすっげえ喜んでたんですから!」

俺がこのおばさんから金を貰わないのは、そうしておかないといけないからだ。昔馴染み価格、って事でクチコミをしてもらう為だ。俺は何でも屋。なーんでも出来る"何でも屋"だ…だから

「この辺りで評判のいい"何でも屋をやっている桃餌くん"…と言うのは君ですか?」

たまに、こういう"大物"が釣れる。

「はい。そうですケド」
「私、こういう者ですが…」

そう言って渡された名刺には、どっかの財閥のお名前。社交界パーティーを開催するんだけどなんか恨み買ってるらしく、その財閥の娘を護衛をしてくれと…はァ〜ん…こういうのには心底キョーミねぇが、金を稼ぐ為だ。危険な仕事程、結構な額請求したって相手さんも納得して飲んでくれる。

「あっでも、俺ビンボーなんでスーツ…っつーか正装自体持ってないんですけど…」
「あぁ、それなら此方でご用意させて頂きます!様々な所で志願したが、殆どの所に拒否されてしまって…」

どんだけ恨み買ってやがんだ…?
とりあえず、直接交渉する為にその財閥の屋敷に案内されると既に親父さんと娘が待ってた。その娘に出会い頭、疑念いっぱ〜い!って感じの声で本当に男?とか言われた。親父さんの方は失礼だろうと宥めてはいるが娘は不機嫌な顔のまま俺を舐めるように観察して「女装しろ」と言い放った。

恨み買ってるっつーかそういう感じで嫌がられてんのか…

こっちがあっさりOK出すと、2人してさっきの険悪ムードが吹っ飛んだ。娘がソッチ系で男嫌いらしいが俺もそこらじゃ別人になりきってオヤジ狩りなんかよくやってっしやること普段と変わんねーなとか思いながら依頼の手続きの話を始めた。内容は命を狙われるかも知れない親父さんと攫われる可能性のある娘の護衛。

「…危険な護衛になるなら、俺になんかあった時の手当てとかあります?」
「と、言うと?」
「俺、6人兄妹の長男なんです。母さんは死んで親父も滅多に家にゃ帰って来ないんで、俺になんかあった時には弟妹の生活保護が欲しいです。次男は14、一番下の三女は5歳です。ちなみにみんな母さんが違います。」

そこまで言うと、財閥のおっさんは「分かった、約束しよう」と言って契約書に手書きで万が一契約者に何かあれば生活保護をすると一筆書いてくれて、俺もしっかりと名前を書いた。何も無かったとしても報酬は弾んでくれるらしく、願ったり叶ったりだ。

社交界当日、俺は完全に女になりきってお嬢様のご友人って設定でここに居る。タダで豪勢な飯食えるし、なんだかんだオイシイ仕事かもなぁとか思ってた。俺が女装してるの忘れてるぐらいの勢いで女子トークする娘さんに、正直既に疲れた。依頼内容、護衛っつーかお守りだったのか…?

「(だり…さっさと終わんねーかな…)」

これじゃあ料金上乗せは望み薄か〜…なんて思ってたら酒の匂いに紛れて妙なニオイがする。…親父さんは丁度運ばれてきたいいワインをグラスに注がれてるとこ…

「おじさま!」
「お、おお。ももえくんか…どうしたのだね?」

この依頼主である親父さんには…俺が動く時は何かしら怪しんで確かめたい時だから、素直に従ってくれと頼んである。周りにはあまりの美人の登場に騒然としてる。いや〜女より美人だなんて俺ってばほ〜んと罪な男だぜ〜♪親父さんにワインを嗅ぎたいって申し出るともちろんOK。はしゃぐ演技をしながら親父さんのグラスを受け取る。

俺がワインを嗅ごうとするといかにもって感じの金持ちの服パッツパツのデブが俺に怒鳴りつけた。ニオイからするとこのワインを選んだのはこのおっさんらしい。「お前のような娘にワインの何がわかる!」などと喚き立てるが、無言でおっさんの顔面にワインをぶちかけた。

「なっ…ももえくん!それは…」
「よく見ておじさま」

そうだ、見ろ。このワインが掛かっただけで恐れ戦き、床に転がって惨めに悲鳴を上げて悶え苦しむ肉団子を。

「たすっ…!助けてくれ…!!!ヒィッ いたい、痛イイイイ!!!」

抑えきれない笑みを抑えて、俺は会場の端にあったバケツの水をおっさんの目の前に持ってって洗えばいいと促すと、自分からそれをひっくり返して必死に浴びた。チッ…こっちまで水飛んできやがったこのクソ惨めな豚が…俺はまだ持ってたワイングラスでおっさんの顎を持ち上げて言った。

「刺激が強いこんな毒をワインに混入させるなんて…豚さん、とっても頭が悪いのね」

おっさんは肉をブルブル震わせながら俺に命だけはと命乞いをして来る。最初に命脅かそうとした奴が都合のいいこった

「自分だけ助かろうなんて、そんな虫のいい話あります?脳みそまで肉団子なのかしら」
「にっ…!?」
「それに、私はただの護衛です。貴方をどうするかはおじ様にお任せします。」
「うむ、実に見事だももえくん。ありがとう」

こんな事があったから、俺は見事に金持ち共から護衛の仕事が山程来るようになって、生活がだいぶ安定していった。まだまだ贅沢ってワケにゃいかねーが、それはまた裏ルートで荒稼ぎすれば、ど〜にでもなっちゃうんだなこれが♡

俺の仕事はナンデモ屋。

荷物持ちに場所取り、靴磨きにペットの世話、家事代行にベビーシッター…護衛に一日恋人なんかもよくやった。それに今じゃ、それ相応の金さえ貰えりゃ殺しだって喜んでやる。

なんたって金を集めるのは楽しいし好きだが、それよりも人間の死に際に見せるあの顔が大好きだ。崖っぷちに立たされた時の絶望した顔、怒り狂った様、泣き喚き命乞いをする様…罠にハメるのも大  大  大っっっ好きだ。最高にゾクゾクする。

純朴少年のフリして女引っ掛けんのも、女装して男引っ掛けるのも、面白くってたまんねぇ。それなりの格好しちまえばいくらでも騙せちまって笑いが止まんねーよ!

「た〜だいま〜」
「おかえりなさい桃餌にいさま!」
「兄さん今日は早かったね」
「いやぁ〜!今日はヒマだったからさっさと切り上げてきたんだよ〜お前達も心配だし〜?」
「にーに、にーにあそぼ!」
「お〜胡桃!いい子にしてたか〜?」

コイツらも俺の事を疑いもしない。なんたって弟妹にとっての俺は親も同然だからなぁ♪住む所も毎回使ってた小屋じゃなくて、最近一軒家を買って大はしゃぎさせたばっかりだ。

「なんでも屋だけでこんな立派な家に住めるなんて夢にも思わなかったよ…兄さんは本当にすごいなぁ…」
「なーに言ってんだよ!お前もしっかりしてくんねーと俺も安心して稼ぎに出らんねーぞ!な?桃鳴兄ちゃん!」
「お、おぉ…なんか、兄さんに言われると急に恥ずかしいな…」

そんな桃鳴が腕に抱いてるのは四女の桃愛。深桃も胡桃もまだまだ手の掛かる時期だってのに、ま〜た赤ん坊。まあ今回は桃鳴にちょっと頑張って貰う事になったから、お姉ちゃんとして一生懸命なももちゃんもこれからぐんぐん成長するし、俺はみんなを養う為稼ぎに集中する事にした。

ちなみに桃愛も狐としては最高にゴミ☆

表向きは仲良し兄妹、実際俺の妹は桃子だけ♡  酷いと思うか?残念ながらこれが俺達妖狐の本能だ。生まれながら力量が決まってて、いい狐悪い狐の選別をするのも習性だ。ま、自覚があればの話だな

「さ〜お前ら何食いたい?兄ちゃん頑張って作っちゃうぞ〜〜〜!」

胡桃がオムライスがいい、深桃がハンバーグがいい、って言い争うから、結局どっちも食べられるようにお子様ランチみたいに両方皿に盛る。野菜もスープに小さめに入れちまえばみんなアホだから喜んで食う。人数がいると飯の意見割れで毎回こうなるから食費が馬鹿にならない。かと言って育ち盛りに食事を我慢させるのは俺らの生い立ち上酷だし、それなりの暮らしさせてやんねーと世間とかいう人間のクソ社会はす〜ぐ村八分にすっからな。

正直今すぐコイツらを捨てて俺も子作りしてーんだが、せっかく勝ち取った信頼捨てんのも勿体ねーしなぁ…

「あーーーくるみのハンバーグーーーー!!!ねーーー!!!!!!」
「くるみはオムライスあればいいんだろ!」
「じゃあみと兄のオムライスちょうだい!!!」
「もうないもんねーーー」
「やーーーーあーーーもーーーーばかばかばーぁーかーーーーー!!!」
「あーもうほらもうお兄ちゃんの半分あげるからやめなさい!」

うるせ〜〜〜〜〜

深桃が急に胡桃のハンバーグをフォークでぶっ刺して盗んだ。先に食べたかった方のオムライスに夢中だった胡桃はまんまと盗られてギャン泣き。桃鳴が自分のもやる事で済ませようとしてっけどそうじゃねぇよなぁ〜

「深桃も胡桃もケンカするなら、もうハンバーグもオムライスももう一生作ってやんねーぞ?」
「兄さん!?」
「兄ちゃんせっかくお前たちの為にご飯作ってんのに、ケンカになっちゃうならこんなメニューやめちまった方がいいよなぁ〜?」
「だめぇえ!!!」
「にーちゃんのハンバーグやめたらだめ!ぜったいにだめ!!!」

必死にハンバーグとオムライス無くすな講義してきたから、次食事中にケンカしたら廃止って事で深桃にハンバーグを返させて、胡桃もばしばし殴ってたから2人共謝らせた。うちで1番ケンカするコイツら…珍しく1個しか歳違わねぇからか?

…まだ桃鳴だけに任せんのはしんどそうだなぁ…やっぱり期待出来んのはももちゃんだけだぜ!

あーーーーあーーーーー!早く使いもんになんねーーーーーかなーーーーーーーーー



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?