青兄姉のコピ

奇跡から生まれた子供

遠い遠い、精霊の森の奥。長の血を受け継ぐネックの一家がいた。

その家に産まれた"奇跡"の力を持って産まれた男児。

それこそが精霊王、ヴンダー・トーナリティ。

森が生まれ、水が生まれたその時から泉に棲むウィンディーネが自分をも越える力のある妖精が産まれたのは初めてだと驚愕する程のものであった。

彼は育つにつれて、幼少の頃よりその頭角を現し森中が彼を長と謡い崇めた。

ただ彼は冒険心の塊であった。

やることなす事はちゃめちゃな事ばかり。

だが、それも全て収める程の…恐ろしいとも言える強大な力。

そんな奇跡が恋をしたのは1000年祭の踊り子であった。

森の中で一番美しい舞を魅せるネックと言われていた、リュトムス。

2人を祝う祝祭となった1000年祭は誰もが忘れられぬ程盛大なものであった。

それから数千年が経ち、2人の間には3人の子が産まれた。


風の力を持った代一子は体術に長けたブラーゼン。

力も十分、頭脳も十分、跡継ぎとしては文句の付けようのない男児であった。

第二子は氷の力を持ち弓の名手となるフロッケ。

活発でいたずら好きなお茶目さんだが、狩りの腕はそこらの男子に劣ることはない女児。

第三子は大地の力を宿した破壊のボーデン。

強力な腕、肉体で物事をこなし、少し軽率な所はあるが豪快で頼れる男児。


…そしてまた、2つの命が産まれようとしていた。


「おぉ……おお…!なんと」

「なんと素晴らしい力…!」

「感じます…素晴らしい音と、水の力を!」


産まれた双子は女児にシャルと、男児にクヴェルと名付けられ、どんなに素晴らしい妖精になるかを誰もが楽しみにしていた。

だが


「ねえ、兄さん。」


弟をじっと見詰めながら、フロッケがふと何かに気付いた。

何だ、と返事を聞くと弟を抱いて歩み寄り


「シャルはもう目を開けるのに、クヴェルは全然開けないの。」

「そんなの、そのうち開けるようになるさ」

「でも、さっき目蓋を少し上げてみてもなにも反応しなかったの。」


それに、父様や母様も、クヴェルが目を開けた所なんて見た事がない。

座りも四足歩きもする、だがそれもシャルと隣に添っていなければしない。

仲が良いとだけ思ってたが、そうではない。


「クヴェル様…あぁ…なんとお労しや…」

「それはどう言うことだ」

「…クヴェル様は、盲目にございます長…」

「、な…」


なんと無慈悲な運命だと、森中の妖精が嘆いた。

こんなにも祝福された子の目が光を移さぬなど。

森には薬草の扱いに長けた者も、癒す力に長けた妖精もいる。

しかし、目が見えぬ妖精など産まれた事がなかった。

どう治療していいか、誰も検討が付かなかった。


「道理でやたら大人いいと思ったぜ」

「見えないの?クヴェル、怖くないの?」


盲目の弟を囲む兄姉。

息子の悲報を聞き、泣き崩れる母。

きっと、双子のシャルは分かっていたのだろう。

片割れが不自由である事を…

だからこそ、寄り添っていた。

今も、ただ弟の方へと、兄の腕の中から手を伸ばす。

そして長の一言。


「私が治そう。」

「私は奇跡だ。出来ぬことなど、ありはしない」


なにもせず、息子が盲目であり続ける事などこの私が許さぬ。

こうして長い長い、クヴェルの瞳に光を与える為の治療が始まった。


「クヴェル」

「しゃる」

「こっち」


シャルがコロン、と音を鳴らして道を示し、近くまで着たら手を繋ぐ。

目を開けるようにはなったが、光はまだ、一筋もない。


「クヴェルの瞳は美しいわね」

「そうなのですか?」

「ええ。とても…」

「ぼくも、かあさまのひとみを、みてみたいです」

「…そう、そうね…いつか、きっと見られる日が来るわ。」


今は暗闇に取り残された、巨大な運命を背負う事となる


王の器。



【世界はまだ、漆黒の海。】

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