アルビノの王
私はバジリスク。それ以外の名はない。
我々バジリスクは、とても孤独なものだ。自らの毒で他の生き物を殺めてしまう。
その為に我々は強きが弱きを喰らう習性がある。死体を放って置けば、たちまち死体が毒によって腐蝕し猛烈な毒となり生ける者を滅する。毒以外にも、強靭で物理的な力も持っている。
…だがしかし、私は違う。
私はバジリスクだが、毒性は通常よりも薄い。その影響か、はたまた逆かは分からないが、アルビノという身体の白い個体として産まれた。親からは出来損ないなどと罵倒され、出来損ないだとすぐに喰われる筈であった。
毒性は薄いが、力は劣る物ではなかったのだ。
出来損ないだと、私自身はそう思わない。
素晴らしいじゃないか!
バジリスクの私が、私以外の生物に触れても命のやり取りがない!宙に舞う毒が極力少ない為に出来た交流!私は嬉しかった。命を奪い、生を石像と化させ…あらゆる生命から全てを奪ってきたバジリスクでありながら命と言うものを覚え、理解し、生活を共にした。
それはもう素晴らしい一時だった。
そしていつらか年月が過ぎ…私は彼らの王となった。
「――惰弱ね。」
ある日聞こえたその声。辺りに漂う強力な毒。
―すぐに分かった。私の同胞だと。
「アルビノの、軟弱でお優しい王サマ?なんてくだらないのかしら。」
彼女が通ってきた道には触れても、攻撃をされた訳でもなく、この…彼女の恐ろしい程の毒を吸い、絶えた私の側近達。
――なんと…
「そんな生温い事してたら、自然の掟がヌルくなるわ。さっさと消えなさいクズ。」
「なんとバジリスクらしい女性だ。」
「は?」
不意に零れた私の言葉に、彼女は理解ならない表情を見せる。
「すまない、私は自然の掟に何の関与もしていない。彼らとの交流を楽しんでいただけだ。」
そして、あからさまに私に敵意を向けた。
「バジリスクが交流を楽しむ?ハッ なんて可笑しな話かしら…この世が強いものが勝ち弱いものは死ぬの。アンタがそれに反してるから、私が直々に制裁を下しに来たのよ。
―――いい?私達バジリスクはいらない生き物を排除すればいいの。王は孤独なの。なのにそのくだらない生き物達と交流なんて、ホンット…くだらない。」
――…彼女の言っている事はバジリスクとしてはとても正しい答えだ。
しかし、バジリスクでありながらその感覚が薄い私には難しい所だ。だが、
「全く、貴女の言葉は正しいよ。だけど、私は王をやめるつもりはない。だけど、貴女と戦うつもりもない!」
「はぁ?」
「私の妃になってくれ!バジリスクらしくないこの私をバジリスクに出来るのは、通常の個体よりも強く大きく、何より女王らしい貴女だけだ!」
彼女はとても驚いた顔をして、私を見据えた。そして高らかに笑った。
笑って、言った。
「ふっふっふ…私が女王?なんて当然の事を言うの?私は女王。だけど印が浮かないのよ。可笑しいと思わない?…だって貴男が王になっているんですもの?」
『可笑しな話ね』と言葉を足した直後に彼女の表情は冷め
「それは、その『バジリスクらしくないバジリスク』に、王の器が負けている証拠なのよ…ホンット、本っっっ当に腹が立つわ!」
強い殺気の篭った瞳。
本当なら恐れるところなのだろうが
私は…本当に美しいと、心が奪われていくのを感じていた。
「――でも、まあ……王妃、って言うのも…悪くはないわ」
「私とつがいになってくれるか!」
「ただし、アンタが私と見合わない様な男だったら、すぐに食い殺すわ。いいわね。」
「勿論構わない!君の好きにしてくれ!」
彼女を酷だと言う声を決して少なくはないだろう。
だが、私は彼女を本当に素敵だと感じる。
彼女を愛したいと、共に歩みたいと。
…それはきっと、私に宿る僅かながらのバジリスクとしての本能なのだろう。
愛せる自信は、ある。
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