幼い天使の話
"天使"それは神の使い。人間の願いを神に伝える者。
一口に"天使"と言えど、その生まれ方は様々。
神が自ら創る者もあれば、神のふとした感情や、天使同士の愛として生まれる事ある。
又は自然の一部から、自然に生まれてくる天使も…
「お花、今日もすてき!」
この天界の花畑で生まれ、花がある事で力を発揮する天使。
「みんな、お花で元気になって、ね!」
花で誰かを笑顔にするのがこの天使の仕事であり、力の源。
名を"チアシード"。
誰かを励まし、花で笑顔の切っ掛けを作るという幸せを届ける天使。
彼の触れた花は枯れる事を知らない。
それが地上の花であっても。
「お花、枯れたら寂しいけど、命は、いつか終わっちゃう…」
地上の花の終わりを悲しむあまり、彼は地上に降り花を愛でた。天界の花とは違う花ばかり。花の天使は夢中になって駆け回った。人間とも言葉を交わし花を渡す。全ては笑顔が見たい、幸せにしたいという、ただそれだけの願い。それだけの…
「…そっか、君は天使様なんだね」
「チアシード、ってね、いうんだよ」
この出会った少年は身寄りのない孤児。なにもないけれど花が好きだと言う少年に彼が花を沢山生み出して、一瞬にして辺り一面を花畑にしてしまった。
「天使様、こんなに素敵なお花、見てせ下さってありがとうございます!」
「ううん!お花、大好きでいてくれたら、僕、とっても幸せ! 」
お礼に、と可愛らしい地上の花を貰い、大喜びで天界へと帰って行った。
…それが、掟破りとも知らずに。
「チアシード、お前が手に持っているのはなんだ。」
「?お花、ですよ!地上で、おとこの子が、くれました!」
「天界と地上は交わってはならないと言った筈だ!!!降りても、人間の前で力を使う事は許されぬ愚行!何故だか分かるか!?」
先輩天使の怒声にすっかり萎縮し、震えて肩を竦める花の天使。目の前の大きな天使に"答えてみろ"との言葉に恐る恐る口を開いた。
「…悪、い…人間に…捕まる…から、ですか…?」
「違う」
「え、えと…り、りよーされるから、ですか…?」
「それは同じ事だ。」
「えと、ええと…あと…あと…」
いくつか答えてみるものの、当たりは出ず、見限った先輩が話し出す。
「よいかチアシード。確かに欲深い人間に囚われずにいる事も大切だ。だがな、力を使ってはいけないのは、お前の場合だと不幸を生むからだ。」
「え…?でも、僕」
「そうだ。お前は花と幸せの天使だ。花に込められた幸せを受け、人は幸福を得る。
…だが、それは幸福と同時に別の人間を不幸にする事でもある。人間は自分より優れている者を知ると憂い、妬み、憎む。何故あの幸福が自分ではないのだと。チアシード…お前は、地上でどれだけ力を撒いた…その幸せの分だけ、お前は誰かを不幸にしたのだ。」
「ぼく…ぼくは…」
「お前が作り上げた花畑も、既に不幸を呼んでいる。見てみろ」
そう言い、取り出した鏡に映るのはあの少年。そして沢山の大人。
大人が、少年を、撃ち抜いた。
「…どうして…どうして…?」
ぽろぽろと涙を零して、少年から貰った花を抱き締める。
「これが"幸福"の招いた"不幸"だ。」
「こんな…ぼく、こんなの…違う、ダメ…違うよ…」
花の天使が地面に落とした涙の跡からは芽が出て、次々と花が咲いていく。
「お前は幼い。だが、これだけの事をしてしまっては罰を免れる事はない。」
「ぼく…ぼく、どうしたら、いい、んですか…?」
「人間として生きろ。そして、人間を見て、人間を知れ。」
全てを奪い、全て消そう。
この天使が与えた幸福、この幼き天使が生んだ幸福の花。
全て、無に返そう。
「だがお前を守る天力は残そう…暑さに焼かれぬように、寒さに凍えぬように…生きられるように。」
チュンチュン…
「………」
花畑の真ん中で、小さな子供が目を覚ます。
白い服を汚して、でも気にする様子もなく、花を手に取った。
「…お花、と、…って、も。きれ、い…」
小さな、小さな男の子。
天使が人間として落ちた姿。
人間の生活を何一つ知らない天使が、今から生きていく。
花に、幸せを込めながら。
「お花…どう、ぞ…」
人に、小さな幸せの花を、今日も届けている。
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