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【詩】夏と、その痕。(「蝉と蝦」他三編)
蝉と蝦
夏が滞って瀝青に焼き切れる。
金属めいたセミの亡骸が赤錆に朽ちて、煙草の吸殻へ手向けの火を点けた。
真っ青なエビの群が深く炎天を泳いでいるから、南洋の匂いと樹林の翳りを電波塔は受信する。
打ち上げ花火
キナ臭い黒と尊厳を炙り出す熱帯夜に、
アルコール漬けの肋骨は煤煙を噴く。
白昼が捩れて裏返ったら、
真っ暗闇に再三再四金銀の裂傷。
虹色に崩壊する天国は祈りの切実さより
速く溶けていく
【詩】ライムグリーン
ライムグリーンの
スパークを弔い
水煙に悼まれる
都市を荼毘に付す
父と母の葬列は
何時何時何処迄
続いていく
わたしの亡霊は
無縁のまま
その亡骸を捜して
行方知れず
そんな景色に
火を放つ
スパークは
ライムグリーンに
輝きだす
【詩】ひかりにおしながされる
陽に焼けた両腕で膝を抱えて
街角に座っているにいさんと
淡く黄色がかった陽の光に
押し流されて歩く人達。
ぽっかり浮かんでいる空欄として
にいさんの目は妙に黒々と
街にとどまっている。
来て去る人達とにいさんの目に
触れるか触れないかの
一過性の関係が生起する。
にいさんの目は来る人も去る人も
捉えず
刻々と変容する彼の視界を眺める。
それはただ光の瞬きに等しくて。
にいさんのまえを通り過ぎる
【詩】前方不注意雨中宇宙
曇りガラスの
メガネのむこうで
街明かりの超新星爆発
信号機の連星は瞬いて
電光掲示板の星雲を
受信…中……
「まえみて歩けよ」
となりのビニール傘から
きみの危険信号
送……信中…
わたしは雨の流星に
降られながら
夜を
遊
泳
中
【詩】 運転見合わせ
帰りの電車が動かないから
デパ地下へ苺のパフェを
二つ
買いに行こう
考えることは
みんな
同じなんだろう
華やかなショーケースに
あまやかな多幸感が
ひしめいている
ショーケースの前に
スーツの灰や黒の
列
一番後ろに並んだ
私
誰かのいきどまりが
誰かのよりみちに
つづいている
私の目の前のスーツは
苺のショートケーキと
モンブランを
ひとつずつ買っていった
蓄冷剤は
三十分
次は