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【詩】御神籤

天気雨は薄膜のように靄めいて
翻っては冷然と私の頬や額に触れる。
前触れのように
期待するように
去年と地続きの徒労を眺めている
始まりの日に。
大気の奥深くで微細な氷は集散しながら
銀灰色に渦を巻いている。
罅割れた空にほとばしり気狂いのように
光るネオンブルー
その下に肺炎を患う父。
守衛の他には誰もいないエントランスから
何処へ続く扉の向こう側にも沈黙は
息衝いている。
大きな窓硝子が濾過する陽射しの喫水線を
面会室の一隅を占める自販機で測って
待っている。
清涼飲料水で冒険してみたら
しょうじき飲めた味じゃなかった。
やっぱりアセロラのやつにしておけばよかった
と後悔する。
駅前にて母と別れたその足で
初詣に。
参道をかたどる常緑樹の翳りを頭上に仰いで
人々の肩から肩を縫うようにして漫ろ歩く。
連なる出店の匂いから匂いへ
目移りしていると
あなたは
口にするなら火の通っているものにしなさい
と言う。
りんご飴は火を通していただろうか
と一瞬だけ考える。
私がひいた御神籤の末吉
そこそこ良いこと書かれてあった。
あなたのひいた御神籤の大吉
は散々でロクでもないこと書かれてあったから
もう一度ひいてみたら
と私。
二百円で運命を変えられたらお安いもの
でしょうから
だから二度目の籤はあなたを満足させてくれた
小吉。
二百円で変えられる運命って何
その二百円が変える運命。
遅い白昼はフローライトのように色づきはじめて
四羽の渡り鳥が首と翼をめいっぱい
伸ばして
開いて
滑空する
する
すると幕が上がるのか/下りるのか
鳥が上昇するのか/わたしが下降するのか
籤をひくまでは曖昧なままでいい。

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