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散文

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2022年8月の記事一覧

海で目覚める

海で目覚める

朝、夢から目が覚めたとき、どうしようもなくやるせない気持ちになる。それはとても静かな気持ち。早朝の海辺の、湿った砂浜で、ひとりきりで目覚めたみたい。朝から感傷的になりすぎる。とにかくやりきれない。なにかがたまらなく恋しい。さっきまで一心同体でいたはずの、誰かの気配を感じる。寂しい、悲しいというよりも、苦しい。どこへ帰っても、帰りきれないようなホームシック。深刻な懐郷病。

本当に恋しいのはどっちな

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どこまでも情に流される

どこまでも情に流される

うわべだけの付き合いなんていくらでもやれるわと思ってたけどちがった。私は自分で思っている以上に人間を必要としているみたいだ。ひとりより孤独を感じても、あれこれ文句を言いたくなっても、傷心にたえない毎日だとしても、心と心が触れ合うような深い交情を求めているんだ。

実際に人間関係の渦に巻き込まれたときには、矛盾と葛藤や見栄と意地や嫉妬と憧れの荒波に揉まれて、こんな文章はただのきれいごとにしか感じられ

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悲しみのなかにある笑い

悲しみのなかにある笑い

なんかもうムチャクチャな話だった。飲んだくれの私立探偵ニック・ビレーンが、行く先々で暴言を吐き散らし、女のケツを押さえようと追いかけ回し、ムカつく男がいればそいつのケツも蹴り飛ばす…。チャールズ・ブコウスキーの遺作、「パルプ」。

主人公ですら、「こんなダメな奴にケツの一蹴り以外何かを手にする資格があるのか?」と自問するくらい下品な話。それなのに不思議と、作品全体に哀愁を誘う雰囲気が漂っている。

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