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マリリンと僕

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小説『マリリンと僕』をまとめました。
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#ショートストーリー

マリリンと僕17 ~新たなる脅威~

マリリンと僕17 ~新たなる脅威~

オーディション当日。

僕はインターホンのチャイムの音で目を覚ました。時計は既に午前10時を回っている。今日のオーディションは11時の予定だ。飛び起きて玄関に向かいドアを開けると、そこにはマネージャーの萱森さんがニコニコしながら立っていた。
「ダメですよー、ちゃんと起きなきゃー」
一応注意をしてくれているが、笑顔だし、言葉にも怒気が全く込められていない。赤茶色のショートカットに童顔な萱森さんを見て

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マリリンと僕11 ~行く年来る年~

マリリンと僕11 ~行く年来る年~

目が覚めた時、既に絵莉の姿は無かった。

身に纏っていた柑橘系の香水の匂いや、抱いた後の体の気怠さだけが、部屋の中に、体に、そして心に残されている。

テーブルの上には絵莉の書いたメモが置いてあり、スマートフォンには桜井から「連絡くれ」というメッセージが届いていた。

状況を整理する為に、僕はとりあえずホットコーヒーを入れることにした。

絵莉は「あなたの幸運にあやかりに来た」と言った。そして、積

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マリリンと僕10 〜 過去との遭遇 ~

マリリンと僕10 〜 過去との遭遇 ~

クリスマスの夜、いつもの公園でマリリンと会った後、自宅アパートに戻ると、1人の女性が僕の部屋の前に立っていた。

顔を見て、すぐに誰なのかが認識出来た。

「絵莉…」
彼女の名前は深谷絵莉。元カノだ。

元カノと言っても、当時の僕は多い時で5人の女性を掛け持ちしていた。専門学校の同級生、バイト先の後輩、友達の友達、バイト先のお客さん(たぶん既婚者だったと思う)…。どれも僕からではなく、アプローチを

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マリリンと僕9 ~クリスマスは終わらない~

マリリンと僕9 ~クリスマスは終わらない~

目が覚めた時、時計は昼の12時を回ったところだった。カーテン越しでも外が晴れていて、陽が差しているのがわかる。体は朝方よりはスッキリしていて、頭痛や吐き気も無い。

マリリンのお父さんから誘われたクリスマスパーティは、想像を超える盛大さだった。それはまるで夢のような出来事だったし、戸惑いや緊張を抑える為に大量にワインを飲んだせいで、本当に夢だったんじゃないかと思うくらい実感を伴っていない。

昼過

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マリリンと僕7 ~黒猫は夢に誘う~

マリリンと僕7 ~黒猫は夢に誘う~

準レギュラーで出演していたテレビドラマがクランクアップを迎えた。初めて体験することばかりで、日々緊張の連続。でも、とても充実していたから、終わってしまうことが実感を伴わず、過去に無いくらいの喪失感を感じていた。そしてある意味では、不安だった。

撮影最終日の夜、出演者や監督を始めとしたスタッフがほぼ全員集まっての打ち上げがあった。当然のことだが、ダブル主演の八雲一朗と木村咲良も参加していた。僕と2

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マリリンと僕 6 ~その桜は秋に咲く~

マリリンと僕 6 ~その桜は秋に咲く~

「俺、役者辞めようかと思ってるんだ」
「え、なんで?」
「もう28歳じゃん?これ以上ズルズルやってると、後戻り出来なくなる気がしてさ。生活もずっとギリギリだし、普通に仕事して、普通の暮らしして、普通に結婚してる同級生見てたら、ちょっと羨ましくなったんだよね。今まではそんなこと思わなかったから、急に冷静になった自分にちょっと引いちゃってさ」

劇団の仲間であり先輩であり、専門学校の同級生であり、そし

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マリリンに色が付いた日

マリリンに色が付いた日

今日はここ最近で一番嬉しい出来事がありました。
noterのアリエルさんが、私の『きっかけはロリータ少女から』シリーズの登場人物である主人公(名無し)とマリリンをイラストにして下さいました!

彼らに色彩を与えて下さって、記事のオススメまでして下さって、もう感謝しかありません。

アリエルさんの記事も、通勤中にニヤニヤさせられてしまう愉快な物がたくさんあって、なんと言っても直筆のイラストが素敵です

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マリリンと僕4 ~マリリンに逢いたくて~

マリリンと僕4 ~マリリンに逢いたくて~

7月も終わりが近づき、いよいよ長梅雨が明けると、雲一つない晴天からは、悪意すら感じられるような、強烈な陽射しが大地を照り付ける。
初夏の趣きを感じる間もなく気温は35℃を超え、テレビでは気象予報士が「各地で猛暑日になります。日中の外出は控えて下さい」と伝えている。

近所の公園に行くと、気象予報士の言葉も虚しく、たくさんの子ども達が、きゃーきゃーとつんざくような奇声を発しながら、水風船や水鉄砲を手

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マリリンと僕3〜その黒猫は光を運ぶ〜

マリリンと僕3〜その黒猫は光を運ぶ〜

6月は梅雨の時期。

最近では初夏という言葉が失われたかのように、早々と真夏日が訪れる。そこに不快指数100%の湿度が加わると、外を少し歩くだけで体がじっとりと汗ばみ、心まで陰鬱としてしまう。

近所の公園に鮮やかに咲いた紫陽花は、梅雨の時期にあって、鈍色の僕の心に色彩を与えてくれる。雨に濡れることで、より活き活きとして美しく、華やかに咲き誇る。

半年前、僕は役者の夢を諦めることを考えたが、もう

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きっかけはロリータ少女から

きっかけはロリータ少女から

11月も終わりが近づくと、いよいよ吹く風の冷たさは厳しいものに変わる。

深夜に差し掛かる22時過ぎ、レンタルビデオ店でのアルバイトを終えた僕は、自販機で買ったホットコーヒーをダウンジャケットのポケットに入れ、肩をすくめながら自宅近くの公園のベンチに腰を掛けた。

27歳、独身。彼女もいない。
高校卒業後、役者を目指す為に、俳優コースのある専門学校に入学した。

「夢追い人」と言えば格好良いが、特

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