秋を感じるとさびしくなるのも。

今日は朝起きた時、窓からの風が
秋めいていたので、もう夏は終わったの
かなって思った。

寒くて薄いセーターをかぶった。

はだしだった足に靴下もはいた。

日常のあれこれをこなしつつ
それでもその風を心地よく感じながらも
どこかで、このまま秋になったらやっぱり
さびしいなって感じていた。

秋になると人はなんでさびしくなるのか。

知らないけれど。

あんなに文句言っていた人だって、どこかで
さびしがる。

あ、それはわたしだ。

こういう気持ちに毎年なるのだから
これはもうなんか夏って、結局人々の
記憶に残ってしまう、なにをみてもなにかを
思い出すみたいに。

どうしようもなかった惚れたやつにも似てる。

人の身体は生身だから、いつも外気に
触れている。

心よりも先に体が先に感じるところが面白い。

そして心はあとづけだ。

人それぞれの秋の感じ方があるけれど。

秋の気配の感じ方としてあまりに好きな
言葉がひとつあるのだけれど。

それは、

私だけの感じ方かもしれないが、足を組んで
もち上げたほうの足裏にひんやりした空気を
感じた時が、秋なのである。

<詩>の誘惑
井坂洋子著
丸善ブックス
「実感のホック」P43より


はじめて読んだ時も、たぶん手帳に書き写し
たのかもしれない。

身体を感じる言葉だったから、すんなりと
違和感なく覚えていたのかもしれない。

そしてこんなふうに足を組んだ時の足裏に
それを感じたことはないはずなのに
いつしか自分の秋の感じ方のように
ぴったりと重なったような気がした。


<詩>の誘惑>井坂洋子著
丸善ブックス


この本のどこかにその言葉があったのを知って
いたから、なんどもなんどもページをめくり
ながら。

なんどもなんどもそれが書いてあるページに
めぐりあえず、すれちがっていた。

そしてあきらめた頃に、このページにたどり
ついたのだった。



そうやってページをめくりながら、自分が
好きな箇所にはちいさな☆印を鉛筆で
薄く書いてあった。

きっと栞もポストイットもなくて読み始めた
から、そこらへんにある鉛筆で申し訳
なさそうにうすく印をしていたのかもしれない。

いくつかの好きな言葉のページで立ち止まった。

たとえばこのページ。


数え切れぬ晴天に恵まれて、人類はここまで
やってきたのだ。
宇宙には善悪もないが、感覚もまたありはしない。
ただ隅々までびっしりと細部の詰まった、巨大な
空白があるばかり・・・・・・

『メランコリーの川下り』谷川俊太郎著

この詩が好きだったことをうっすらと  
思い出しながら、この詩につづく言葉。


「晴れてる日って、せつないねぇ」と、さっき、昼ご飯のスパゲッティミートソースを食べながら彼は言ったのだ。

<詩>の誘惑
井坂洋子著
休日のからだ~谷川俊太郎より
P182

という文章に目が留まる。

この言葉、今も好きだなって思った。

幾つの頃だろうずいぶんと昔20代か
30代の頃に読んでいたあの頃と
好きな言葉がおなじで
ちょっとびっくりした。

なにか向こうからやってくる感情に
たいしての処し方って変わって
ないんだなって思った。

私の予想ではそういう抒情みたいな
ものはちょっとめんどくさいもの
でもあるから
更新されているとじぶんでは
思っていた。

でもちがっていた。

そしてこの本のページをめくりながら
詩のことを思った。

詩は感じていたらいい、わかるか
わからないか
じゃないと教わったけど。

わたしは自分の感情が若い頃から
あまりわかっていないことがあって。

そういう時に詩を読んで、色々な
人たちの感情をまなんだ。

読むことで人はこういう時にこんな
気持ちになるのだなという、
たくさんのシーンに触れた。

感情をアウトプットするやり方が
わからなかったので、すこしずつ
哀しい時の感じ方や嬉しい時の
比喩を学習していったような気が
する。

わたしにとって詩は、人の感情の
カタログに似ている。

素手の気持ちが苦手だったのかも
しれない。

素のままの気持ちを外に出すと
大人たちが眉を顰めることを  
知っていたからかもしれない。

みんなと同じ感情に触れてちょっと
愛されてみたかっただけ
かもしれない。

そしてさっき引用したみたいに。

「晴れてる日って、せつないねぇ」
という感情にじぶんをあてはめた
晴れていた
ある日

ほんとうにせつないが追いかけて
きたことが
あって。

空の上ではヘリコプターの音が狂おしく
響いていた。

わたしのなかで「晴れの日はせつない」
「悲しいほどお天気」みたいな気持ちが
定着していったことを思い出していた。

この感情はきっとわたしがじぶんで
手にした感覚なのかもしれない。

身体に沁みついたこの感じ方はきっと
ずっと忘れないんだろうなって思う。

秋になると悲しくなるのもきっと
井坂洋子さんの
言葉から学んだものなのかもしれない。


かつての自作短歌より。








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