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誰かを信じることがこわかった。

叔父がちっちゃな広告会社を経営していたので
コピーライターの専門学校に興味をもって
大学に通いながら夜間通っていた。

信じられないぐらい楽しかった。
そこで出会った人たちはみんな社会人だった。

みんな働くことを日常にこなしている
人たちばかりだった。

わたしにとっては自分で働き自分で食べている
ひとが眩しかった。

いわゆる喰っていけてる人だ。

カッコいいと思っていた。

学生だったからバイトはしていたけど固定の
場所で働くことがあまり想像できなかったのだ。

で、就職どうでしょうと、己に問いかけた
けれど。
よくわからなくて。
迷っていた頃、カレがとある人と知り合った。

その方が広告事務所をもっているんだけど、
新卒を欲しがってるから、コピーライターに
なってみぃへん? って試験を受けたのが
わたしのコピーライター修行の始まりだった。

コピーライターの専門学校を出たひとたちは
みんな大手の広告会社を目指していた。

わたしはそんな野心がもてなかった。

ほんとうにコピーを書いたりすることが、
すきなのかもわからなかった。

そして、なんとかその会社に受かり
そして、彼とは別れるけれどその事務所では
しばらく働いていた。

しかし、わたしのふにゃふにゃのメンタルは
すぐに高いところから落としたお豆腐パック
のようになっていった。

まず、会社にかかってくる電話をとるのが
こわくて仕方ない。

コピーはとっかかりがみつからないから
もちろん書けない。

取材原稿の時も現場でちゃんと取材して
帰ってこれない。

取材のあとの原稿をどこから書き始めたら
いいのかわからない。

先輩のスーちゃんはさくさくとこなしていた。

それでも、スーちゃんはわたしに
マウントとることもなく、こちらのペースを
乱さないように接してくれた。

わたしは、わからないことがあると
わからないくせに、自分で解決しようと
するところがあった。

がんじがらめになって最終的に自滅して
しまうタイプだった。

わからへんかったら、聞けばいいやん。
チーフのみゆきさんに叱られた。

びびった。

自分で考えたのに叱られるのだと思った。

みゆきさんはわたしのコーチ役。

電話の取り方から、お客さんへのお茶の
出し方から、打ち合わせの仕方まで教わった。

最初は、インタビューの仕事の見習いだった。

初回だけはみゆきさんに同行して、1本を
仕上げるのをそばで見習った。

他の事務所はわからないけれど。
わたしの勤めていた「スタジオブース」では
レコーダーだけの取材が禁止だった。

必ずノートとICレコーダーのふたつを持って
現場にのぞむ。

お話を聞かせて頂きながら、みゆきさんの
鉛筆を走らせる音を隣で聞いていた。

わたしは今でこそメモ魔だけれど、メモ
することが習慣になっていなくて、
素手でこなそうとするところがあった。

素手。
つまりノートを取らずにという意味だ。

ぼんちゃん、あんたは聖徳太子かって
ふたたびみゆきさんに叱られた。

宙で聞くのをやめ!って言われて
それからいつなんどきも
メモをとるようになる。

メモを取っていると、そこから新しい
問いがみつかったりするから、結局
遠回りじゃないんやでって教わった。

大好きだったドラマ『ミステリと言う勿れ』
では、新人の刑事さんに応援要請がきて新し
いチームで働くことになった時、名物警部に


「お客さんになるな」って叱られる。



あ、さっさと動けっていってるんやなって早合点
していたら。

どうもそれはそうじゃなくて、

困った時は、まわりの人に頼れって言う意味だと
知った。

その時のドラマの中の新人刑事はあの頃の
わたしだと思った。

わたしが出来なくても、じぶんのなかだけで
解決しようとしていたのは、他者を信じることが
こわかったせいかもしれない。

否定されることがなによりこわかった。

思えば、同僚のスーちゃんはチーフのみゆきさん
にも怖がらずに、わからないことはわからない、
できないことはできない。

そして、おまけにしたくないことはしたくないと
断言できる人だった。

わたしには十万年先でも無理だと思いながらも
スーちゃんのその仕事のスタイルが好きだった。

憧れだった。

だから取材もうまかったのだなって。

そしてわたしは中途半端なままその会社を
辞めるのだけれど。

辞めてしばらく経ってから、再び声をかけて
くれてのは、元の会社社長洋子さんだった。

フリーとしてその会社からの仕事を受けた。

お酒の専門雑誌『バッカス』に掲載される
お店取材。

テーマは「接待」できるお店紹介だった。

まだまだ駆け出しだったけれど。
新人の甘さは許されないのだなという思いで
取材をさせていただいた。

一度失敗しているので、わたしはわからない
ことは聞く。

一度聞いておけば大きなミスにつながらなと
いう経験からの姿勢をそれなりに発揮した。

聞いてなんぼなんだ。

聞くことを恥ずかしがらない。

それはスキルとかじゃなくて。

プライベートをふくめた人間関係なんかと
深くかかわりあってると気づいた。

仕事はえらそうに言えないけれど「人」だ。

人と人だ。

人と人と人だ。

たったひとりきりの仕事をしていても
ひとりっきりではなにもできない。

人との付き合いかたを見直した。

自分を守るために自分をトゲだらけにして
相手を寄せ付けない身の守り方は辞めようと。

今想うと、周りを信じられなかったわたしの
ことを社長の洋子さんは信じてくれていたことを
あらためて知った。

そんなわたしを見捨てずにチャンスをくれたの
だと。

誰かに信じられてると感じると、その思いに
応えようと思うものだ。

今でも心掛けていること。
それは目の前にいる仕事相手の方を信じてみる
ということ。

心を開かないと仕事でもうまくいかない。
それとわたしの意見だけを通そうとしない。

自己顕示欲は仕事には無駄だと思ってる。

お店ならお店のコピーのために書く。

誰かの取材なら誰かが最大限引き出せるように
書くことに徹する。

それは「わたしの作品」から遠く離れている
ことなのかもしれない。

そして第一前提で信じるということ。

信じたり、信じられたりすることの積み重ねが
「働く」ということなのかもしれないです。

「わたし」を捨てた所に「仕事」があると
そのことだけはずっと信じてやってきたように
思う。



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