見出し画像

好きになった人は、少ないけれど。

恋って免疫みたいなものだからって声を

よく聞く。

数をこなしているうちに、傷つかない

術を覚えていけるって。

若い頃はそう思っていた頃もあったけど。

どの人もひとりとひとりとしてはじめて

出逢うわけだから。

それって通用しないなって思う。

仕事がらみで出会った知人はいかに男性との

付き合いが途切れたことがないかを、

語りながらわたしに好きな人が長い間いない

ことをちょっと信じられないと、嘆いた。

大きなお世話だわって笑いながらも、

内心それは痛くもかゆくもなかったけど。

数じゃないでしょって。

途切れないって、彼女にとってはそれは

数だよねって。

わたしは好きな人のことをそうやって

数値化したくなかっただけだ。

わたしがちゃんと好きになったのは

今までの人生で3人ぐらいだと思う。

人生の節目の大切な時間を過ごした人が

いたけど、母に結婚を反対されていたことも

あって、わたしは家の中でも反乱分子で

あったから、あとは駆け落ちしかないかなって

いうところまでギリギリの気持ちだった。

そんな時だった。

あの頃わたしは、なにかが上手くいっていると

物が書けなくて、酷い目にあっている時ほど

文章が書けるという危うい時間の中にいた。

そんな時に、これが最後だと思って詩を書いた。

これが最後だと思ったのは、ずっと父から

詩を書くことを反対されていたことが

じぶんの身に馴染み始めていた。

いつだったか去年の記事でも書いたことが

あった。

別れるつもりで書いたのか、

じぶんにピリオドを打つために

書いたのかあの頃の気持ちは今と

なってはあやふやだけど。

いろいろ失うかもしれないことを

あらかじめ予想して、記憶にとどめる

ために書いたのかもしれない。

チョコレート会社が企業メセナとして

企画した、バレンタインの詩を書くという

ものがあった。

最初で最後だと思って応募してみたら

たまたま選んでもらって、イタリア旅行を

プレゼントして頂いた。

その頃の事も記事に書いたことがあった。

理科室が舞台の詩だった。

タイトルは「冷たい鼻」というもので

今は読み返すのもこわいぐらい稚拙な

ものだとわかっているので、クローゼットの

隅の収納ボックスのどこかで眠っている

はずだ。

詩を書いたことは、いちど、ここで彼との関係に

終焉を迎えそうだった、ピリオドまでの

時間が延長されたにすぎなかった。

詩を書いて誰かに伝えるなんて酔狂な

ことをしたことはなかったので。

受かったよって言うのがすごく

恥ずかしかった。

彼はとても喜んでくれた。

へーそうなんおめでとう、って言ってたけど、

だからといってわたしたちふたりの仲が

ゆるぎないものになったという証でも

なかったし。

ゆるぎない仲ではあったかもしれない

けれど。

ふたりを取り巻く環境を

乗り越えられなかった。

駆け落ちする覚悟すらなかった。

ふたりが好きならそれでいいというような

簡単な話でもなかった。

後で幸せになったら許してくれるよって

まわりからも言われた。

子供ができてしまえば許してもらえるよって

言う人までいたけど。

そうじゃなくて。

ふたりは現状を維持しながら受け入れて

もらいたかったのだ。

そのままのわたしたちを。

誰にも反対されることなく、一緒に

なりたかったというところだけは

ふたりが唯一だれにも譲れない

思いだったかもしれない。

彼がいたから、バレンタインの詩を書くことが

できて、それが再び何かを書くということの

はじまりになった。

やがて彼とは別れることになるけれど。

あの時、わたしの家族が許さないという理由さえ

なければ、たぶん一緒になっていただろう。

制度とか社会とか関係とかめんどうくさい。

そう思って閉ざし始めながらも、それが書くことの

きっかけにもなっていた。

ある日、どこかでみかけた広告があった。

西武百貨店のポスター。コピーは糸井重里さん作。

広告の勉強をしている時だったので

コピー年鑑の中のページのどこかだった

かもしれない。

大阪に住んでいたので、西武百貨店の広告は

なかなか目にすることがなかった。

ほしいものが、ほしいわ。

その頃は、このキャッチフレーズの

意味をうまくつかめなかった。

ほしいものが、ほしいわ。

わかったようでわからなかった。

ここまで時間を重ねて、恋したり失ったり、

もういいやとか想っているうちにふと

このコピーを想い出すことがいまはある。

他のだれでもいいのではない。

あなたじゃなければいけないと

心の底から思えること。

そう、代わりになる誰かじゃなくて

ほしいものがほしいのだと心の中で

言えること、それが

恋しているってことなんだなって。

月日を重ねたいま、このコピーに恋してる。




この記事が参加している募集

#自己紹介

231,593件

いつも、笑える方向を目指しています! 面白いもの書いてゆきますね😊