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「地球少女アルジュナ」社会問題をグロテスクに取り上げた名作

今回は地球少女アルジュナについて語りたい。

「地球少女アルジュナ(2001)」

地球少女アルジュナはサテライト初の元請け作品となっている。
監督は河森正治氏、音楽には菅野よう子氏が起用され、プラス以降のマクロスシリーズを彷彿とさせるスタッフだ。
初期のサテライトオリジナル作品は尖った作風とメッセージ性が特徴で、元請け作品の2作目にあたる「ジーンシャフト」もハードSFアニメの傑作として名高い。

「ジーンシャフト(2001)」

ジーンシャフトについては個別の記事も書いたので、よければ読んで欲しい。

ちなみに、河森氏がサテライトで次に監督を務めた作品は「創聖のアクエリオン」だ。サテライトの元請け作品としては4作目にあたる。

「創聖のアクエリオン(2005)」

地球少女アルジュナの最大の特徴は社会問題を豊富に取り扱った点だ。
環境汚染や遺伝子組み換え食品、薬剤耐性菌、原発、妊娠・中絶etc…と2000年頃に取り沙汰されたトピックは作中で一通りクローズアップされる。

工業化による汚染
飢えに苦しむ親子

また、作中では実際の社会問題を連想させるカットが多く挿入される。
食品ロスを思わせるようなシーンもあり、本作から四半世紀近くたった現在でようやく解決へ向けて取り組まれている問題を、2001年当時に扱ったのは先進性と言えるだろう。

食品ロスを思わせる廃棄される大量のハンバーガー

物語は女子高生の「有吉樹奈」が恋人とのツーリングの最中、事故に見舞われ命を落とすところから始まる。意識だけの存在となった樹奈は、クリスという少年から「ラージャ」と呼ばれる魔物と戦って欲しいと告げられる。

「有吉樹奈」
地球を覆う「ラージャ」

クリス曰く、ラージャと戦うのであれば再び命を与えると言う。
戸惑いながらも樹奈はそれを承諾し、時の化身アルジュナとして終末を回避するべくラージャとの戦いに身を投じるのだった。

近い将来で終末が訪れるらしい…
「アルジュナ」

大まかなストーリーは90年代や00年代初頭に流行った終末系を予感させるものとなっている。だが、地球少女アルジュナが他作品と一線を画すのは先に挙げた社会問題とのリンクした描写だ。

第1話では原子力発電所がラージャに襲われ、メルトダウン寸前まで追い込まれる。地磁気の異常を感知したラージャ対策の国際機関「SEED」の調査員が原発の司令室へ乗り込む。

原発へ現れた「SEED」の調査員

訪れたSEED調査員に向けて、原発の管理責任者は4重の安全対策を行っており、設備は万全であらゆる自体に対処が出来ると発言する。
このように、当時では未だ信じられていた原発の安全神話を象徴するようなシーンがあるのだ。

原発は絶対安心と断言する

当然ラージャの存在はフィクションだ。だが、安全神話を信奉し予想外の大災害に見舞われるのは、福島原発事故を経験した我々にとって非常にリアリティを感じさせる描写だ。

ラージャに襲われた原発

本作が放送されていた当時、原発が破滅的な災害を齎すというのは絵空事だったかもしれない。しかし後年、実際に原子力災害が発生したことで今となれば、フィクションと断ずることができないのは皮肉的だ。

また、本作は現代社会への痛烈な批判も特徴だ。
アルジュナとして目覚めた樹奈がハンバーガーを口にするシーンで、原材料となった家畜や作物のイメージが脳内に流れ込む描写がある。

ハンバーガーを口にするが…
流れ込む家畜のイメージ

突然の出来事に仰天する樹奈が手にしているハンバーガー、実にグロテスクではないだろうか?写実的に描かれ、美味しく見えるはずのハンバーガーが恐ろしく見える。

どこかグロテスクなハンバーガー

作中では何度か、現代社会の隠喩としてハンバーガーが象徴的に登場する。
ハンバーガーのケチャップが垂れるシーンは、血液を思わせるように生々しく滴り落ちる。これは過剰なまでに消費を促し、利潤を貪る現代社会への痛烈なメッセージと捉えられる。

まるで血液が滴るかのようにケチャップが垂れる

さらに地球少女アルジュナについては下記の通り有名なデマが存在する。

・2話で打ち切りになった
・第9話が放送倫理に抵触したため、放送休止となった

Googleのサジェストも一番上がデマ

まず、僅か2話で打ち切りになったというのは完全なデマである。
本作は地上波未放映となった第9話を除いた、全12話がしっかりと放送されていた
河森氏は後年のインタビューで当時の制作環境の苦境を語っている(1:00~)
強いメッセージ性が特徴の作品で、現代社会を批判するような内容はスポンサーや放送局から難色があったのは事実だ。
しかし、河森氏はあくまで今起きている事をリアルに描写しただけで、批判する意図はなかったとインタビュー中で発言している。
実際、社会問題をセンセーショナルに扱っているが、2話で打ち切られるほど過激ではない。したがって、この噂は尾ひれの付いたデマである。

次に、第9話が放送休止となったという噂も完全なデマである。
確かに第9話が未放映となっているのは事実だ。そもそも該当の回はソフト化にあたって追加されたエピソードであり、当初放送予定だった回が止むなく休止となった訳ではない
先ほどの打ち切られたというデマも、この未放映回の噂で補強され、さらに広まったと推察できる。

一部では現代社会を批判し、不都合過ぎたその内容から放送禁止と噂されているが事実無根のデマである。打ち切りやTV放映が禁止された事実は全く存在しない!

デマ動画も多く見られる

現代社会への批判や自然賛美などの強烈なメッセージ性を持つ本作、個人的にはテクノロジーや自然はバランスだと考えている。
今更、自然を礼賛し原始時代へ回帰することは不可能だ。かといって、地球に住まう人間が自然を蔑ろにすることもできない。共存共栄を上手く目指すことが不可欠である。
地球少女アルジュナでは自然賛美の方面へ描写が傾いていると感じられる。テクノロジーで成り立つ現代社会を悪と見做して、批判的に論じている部分も多い。
だが、問題提起としてあえて偏った意見というのは決して間違いではない。2001年にこのような作品が放送されていた事に価値があると思う。未見の方にはぜひ、視聴をおすすめしたい。

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