昔の博識=今のバカという話
皆さんの周りで、幅広い分野の知識を得意気に語る人はいるだろうか?
恐らく昔であれば、その類の人間は博識と評されていたはずだ。
だが今となっては、その幅広い知識=雑学を披露することは自身がバカであると証明する行為に他ならない。何故なら、現在ではゆっくりやずんだもん動画に代表されるコンテンツで、インスタントに情報を摂取できるからだ。
私の体験を話そう。久々に会った友人が、突然ユーゴスラビア紛争や地政学ついて熱く語りだした。友人には申し訳ないが、近現代のヨーロッパ史に全く興味もないタイプだったので非常に驚いた。
そこで私は思った。恐らくその手のゆっくり解説動画を観て、付け焼き刃の知識を語っているのだろうと。
リンク先は一例だが、You Tubeでは他にも、ユーゴスラビア紛争についての解説動画が多数ある。数万〜数十万再生の動画もあり、その人気の高さが窺える。
この出来事で私が感じたのは、あまりに自らの経験やバックボーンと相違する知識を身につけていても、それは全く賢そうには見えないということだ。
別に友人も賢人ぶりたかった訳ではないと思う。ただ、最近観た動画から得た知識を話題の1つとして取り上げたに過ぎない。
例えば同様に、初対面の方がユーゴスラビア紛争について語ったとする。
その場合であれば、その方は近現代のヨーロッパ史や世界史について造詣が深く、また興味を抱いていると推察できる。
しかし突然、気心知れた友人や人間性を把握している会社やバイト先の同僚が、突拍子もない知識を披露し始めた時を想像して欲しい。非常に違和感を覚えないか?
確かに突然、ユーゴスラビア紛争に興味を抱き、独自に調査や学習を始めた可能性も捨てきれない。だが、実際そんなことはあり得ないだろう。
先ほど挙げた動画が人気を博してるように、ほぼ100%の人間が解説動画から知識を仕入れている。
一般教養としてチトーの名前くらい知っているのは不思議ではない。高校の世界史の範囲で習うはずだ。しかし、いきなりユーゴスラビア紛争の経緯を詳細に話し出すのは無理がある。
このように、自身の経験やバックボーンに基づかない知識を解説動画などから身につけた人間を博識とは呼ばない。
解説動画を観て、その知識を誰かに話したっていいじゃない!と思われる方もいるだろう。だが、問題なのは解説動画を視聴する行為ではなく、情報を仕入れる際のスタンスだ。
解説動画から専門外の知識を摂取する人の多くが、最初のきっかけはYou Tubeのレコメンド機能だったはずだ。サイト内でオススメされたから視聴してみた。このような動機が一番ありがちだ
何にせよ、知らない事を知る、すなわち学ぶという行為は主体的に取り組んでこそ意義がある。自ら考え指向性を持ち、知的好奇心のまま探求していくことで、己の糧となるのだ。しかし、You Tubeのレコメンド機能のように、膨大なコンテンツ中から、提示された娯楽を受動的に消費する様を学びとは呼ばない。
加えて、解説動画の質という問題も存在する。
私は鳥類、特にカモが好きで観察に出かけたり、またYou Tube上でカモ類の動画を視聴する事が多い。そして、最近見つけたのが以下に示す低クオリティのショートだ。
このショートの問題点は、動画に登場するマガモの雌雄をいい加減に表している部分だ。動画冒頭で「メスマガモ」と紹介される個体が登場する。
だが、頭部が鮮やかな緑色になるのは繁殖期の雄だけである。
ハワイマガモと日本のマガモの交雑問題を取り上げるなら、マガモが雌雄同色ではないという細かなディティールも正確に発信する必要がある。雄雌の体色の違い、こんな初歩的生態すら誤る解説動画に何の価値があるのか。
このようにYou Tube上ではサムネイルやタイトルで注目を惹き、内容の正誤は二の次の、いい加減な解説動画が氾濫している。
今回は一例として、筆者が見識のあるカモの解説動画を取り上げた。
しかし、まだまだ有識者が観れば疑問を感じざるを得ないような、低クオリティの解説動画は各分野に存在しているはずだ。
解説動画を視聴して知識の受け売りをする人は多い。だが、そこで得た情報の裏取りまで行う人間はいないだろう。あくまで、インスタントかつ娯楽的に情報を摂取している人々が、内容の正確さにまで目を向けるはずがない。
つまり、これこそが大問題なのだ。玉石混交の解説動画から受動的に情報を仕入れ、いい加減かもしれない知識を触れ回る。まさしく現代の情報化社会における、バカの生態の一つだ。
古くは、専門外の分野でも幅広く知識を身につけた人間を博識と呼んだ。
しかし現在では、自らの経験やバックボーンとあまりに相違する知識を、得意気に語る姿は、逆に博識とは程遠く疑わしい。
膨大な情報が奔流する今となっては間違った情報知るよりも、知らないことの方がある意味賢いのではないだろうか。
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