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みんなの「#文活」

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読者のみなさんが書いてくれた「#文活」記事をまとめていきます!ハッシュタグの使い方は自由です。小説の感想、最近読んでおもしろかった本、書いてみた小説作品など、なんでも気軽に書いて…
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#小説

小説「原罪」

小説「原罪」

※この記事は投げ銭制です。全文読めます。

 ああん、おっきい、おっきい。
 ネットに放られていた動画の行為をノートパソコンに映し出し、千夏は見つめていた。千夏とおなじ四十くらいの女の、わざとらしい嬌声が流れてくる。ソファの上で女は全裸になっていて、ズボンと下着だけを脱いだ若い男に跨られ、喘いでいる。
 おっきい、もっと。また女が喘いだ時、部屋のドアが開かれた。
「音、でかくないか」
 スライドド

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小説「あなたがここにいてほしい」

小説「あなたがここにいてほしい」

 これ、乗ってみてもいいすか?
 それがはじめて、あなたがわたしにかけてきた言葉でした。
 わたしはその時、車いすから背もたれを倒した椅子に移り、うとうととまどろんでいました。職場の昼休み、軽い昼食をすませると、そうしてからだを休めるのが常でした。別に車いすのまま机に突っ伏してもいいのですが、一日のどこかで、五歳の頃から二十年以上乗り続けているタイヤと肘掛け付きの乗り物から解放されたい時間が欲しか

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小説「ひかりとコアラといちまいごはん」

小説「ひかりとコアラといちまいごはん」

「あれ、乗ってきていい?」
 ほぼひと月ぶりに会ったひかりは公園に着くと、小声でどこか遠慮がちにささやいた。私は一瞬言葉につまった後、いいよ、とうなずく。ひかりは軽く手を添えていた私のアルミ製の松葉杖から離れた。細い両脚を重そうに運び、向かったのは、パンダの乗り物だった。まるっこく、垂れ目の頭の上に取っ手がついていて、乗るとおなかの下から伸びているばねが前後に動く乗り物。
 ひかりはこのパンダの乗

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掌編小説 | インディアン・サマー

掌編小説 | インディアン・サマー


前日譚:世界のすべては3.24㎡

・・・

 小学4年生の時に出された国語の宿題は「あなたの名前の由来を調べましょう」というものだった。帰宅後、変わらぬリズムで野菜を刻む母の背中に問い掛けたあの日の夕方をあたしはきっと一生忘れない。たとえ、記憶力が良すぎるという短所のような長所を抜きにしたとしても。

 《小春日和》晩秋の穏やかな気候の日を意味し、俳句の世界では冬の季語、それなのに春という漢字

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遺失物係

遺失物係

「落としましたよ」

 アメ横通りを歩く私の肩をとんとんと叩いた人がいた。振り向くと、夏なのに黒いスーツに黒いネクタイをしめた、一見少年のように見える男の人が立っていた。

「はい、これ」

 それはねじだった。長さ三センチくらいで、頭に十字の穴が開いている、なんてことないねじだ。でもそんなねじ、心当たりはまるでない。

 肩にかけているビジネスバッグには大事な資料が入っていて、私はいつもより過敏

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小説「ふたりだけの家」1(全13話)

小説「ふたりだけの家」1(全13話)

 ここ、小児科だっけ。
 受付を終え、身を乗せている車いすを回れ右させて病院の待合室を眺めた私は、一瞬本気でそう疑った。
 待合室はほぼ満席だった。二歳から五歳くらいの小さな子どもや、まだ生後何か月、といった感じの赤ちゃんの姿が目立った。その子たちを連れてきている母親たちも、二十代半ばと思しき人たちばかりだ。受付すぐ目の前の席にも、女の子を膝に乗せた若い母親が順番を待っていた。女の子はしきりに手や

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表現の正解を目指さない

表現の正解を目指さない

私は短編小説が好きだ。短編小説のアンソロジーなど、一冊にさまざまな人生や感情、人間の美しさから濁りまで、名前のつけられない模様がつまっていてとてもおもしろい。

お菓子のアソート・セットのように、好きなフレーバーとそうでないものを選り分けながら楽しめるところも良いと思う。



このたび、なみきさん、よもぎさんのおふたりにおさそいいただき、人びとの生活に小説を届ける文芸誌『文活』へ短編小説を寄せ

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小説「ふたりだけの家」 まえがき

小説「ふたりだけの家」 まえがき

昨年、noteをはじめてまもなく、「川べりからふたりは」という作品を発表させていただきました。

孤独をみずからに強いて生きている車いすの青年、涼と、ある秘密を抱えた健常者の女性、奈美の物語です。全17話という長い作品でしたが、幸い多くの方々に読んでいただきました。それからもぽつぽつと読まれ続け、最近も一気読みしてくださり、感想文まで書いてくださった方もおられ、感謝の涙を流したものでした。

(ひ

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