「修学旅行に行けない中高生」へ贈る1冊
私は正直言うと修学旅行が苦手でした。疲れるし眠れないし。でももし部活でやっていた卓球の大会を中止にされたら「オリンピックはやったのに何で?」と憤ったはず。だから学生たちの気持ちは理解できるつもりです。
中学生の大会は中3の時がいちばん勝てるチャンス。それがダメになったら。。。想像するだけでやるせない。修学旅行も一緒。彼らには「今」しかないのです。卒業したらバラバラになるわけだし。
たとえば県境を跨がない小規模グループごとの一泊旅行はどうですか? もちろん行きたい人だけで。簡単に「中止」じゃなくてもうちょっと何か考えないと。
現実に希望を見出せない。そんな時こそ本の出番です。今回は特に「修学旅行に行けずに落ち込んでいる中学生・高校生にオススメの青春小説」を1冊選んでみました。
平田オリザ「幕が上がる」です。私は単行本で読みましたが、すでに文庫になっています。2015年には映画化。あの「ももいろクローバーZ」が出演して話題になりました。
ちなみに「青い鳥文庫」から映画のノベライズ版も出ています。ただこちらは新刊での入手が難しく、しかも原作と話が微妙に違うので、先に↑を読むことをオススメします。
一言で要約すると「弱小演劇部が勝利を目指して奮闘する物語」です。仲間たちが一致団結して夏合宿をする場面もあります。定番といえば定番。ただこの作品が他と違うのは「『学生らしさ』『高校生らしさ』とは何か」というテーマに踏み込んでいること。大人たちの考える「高校生らしさ」と現役の高校生が考えるそれは果たして同じなのか、と。
大人という生き物は、得てして自分が子どもだったころの記憶と印象で今の世代の考えや感性を理解しようとします。私も大学生のころ、父に「いきなり議論吹っ掛けられるだろ?」と知たり顔で訊かれたことがあります。いつの時代の話だ、と呆れました。でも今の自分にそういう面がないかと考えると。。。
著者の平田オリザさんは、もちろん学生ではありません(1962年生まれ)。そういう年長者が10代の高校生の日常を描く。ある意味で「傲慢」な行為です。でも著者はその点を十全に自覚し、作品の特色として上手くストーリーのあちこちに盛り込み、問題提起してくれています。こういう手法は現役世代にはなかなかできないこと。ゆえに私は「今」を生きる中高生にこれを読んでもらい、考えて欲しいのです。
もうひとつ今作を推す理由を述べます。作中で主人公たちが宮沢賢治「銀河鉄道の夜」を舞台化していることです。
これも演劇の定番ですよね。でも「幕が上がる」を読んで初めて気づいた解釈、というか思考の広げ方がありました。もちろん優れた文学作品は様々な視点から読み解くことが可能。どれかだけが正しいわけではない。だからこそ他者の見解を知ることを通じて多種多様な「正解」の可能性を己の中に蓄えることができる。その全てを「そういう考え方もあるよね」と等しく尊重できるようになるのです。
「価値観の多様性」が重んじられる現代ではこれも「読書」に求められる使命のひとつだろうと私は考えています。
「幕が上がる」を読んで興味が沸いたら、ぜひ「銀河鉄道~」も手に取っていただきたい。もし「銀河鉄道~」を読了済みなら、ぜひ「幕が上がる」も読んで新たな解釈に触れてみてください。間違いなく「正解」の幅が広がります。
1冊と言いつつ2冊紹介してしまいました。夏休みの思い出にぜひ。
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