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「10月5日」の前にどうしても読みたい一冊

徐々に涼しくなってきました。

いわゆる「読書の秋」の到来です。だからなのか魅力的な新刊の発売が続いています。本好きとしてもイチ書店員としてもありがたい。

来月には、noteで何度か紹介させていただいた中村文則さんの最新長編が出ます。タイトルは「列」。

著者の公式サイトを覗いたところ「これまでとは違う切り口の小説です。新しいことをやりつつ、これからある意味、原点に戻ります」と書かれていました。実際長さは170ページ。2014年出版の「教団X」から始まった重厚路線にひと区切りを付け、「遮光」や「土の中の子供」といった初期作のボリュームに回帰しています。

アマゾンの作品紹介にこんな文章が載っていました。

「あらゆるところに、ただ列が溢れているだけだ。何かの競争や比較から離れれば、今度はゆとりや心の平安の、競争や比較が始まることになる。私達はそうやって、互いを常に苦しめ続ける」

どうでしょう? 

私は「教団X」以降に顕著な体制批判や社会風刺の色を感じました。一方で時代とか国家とか戦争とか○○主義みたいな大きな枠組みではなく、ひとりひとりの小さな生き方にスポットを当てている。そんな印象も受けました。

様々な名著に触れ、禅を学び、他人と比べることがどれだけ不毛であるかを自分なりに理解してきました。それでも「本当にこれでいいのか?」という不安を完全に消し去るのは難しい。「大丈夫、これでいいんだよ」と誰かに断言してほしい己がいる。もしくは信用できない誰かの声ではなく、自信や力の証明としての確たる何かを得たい。

中村さんのデビュー作「銃」の主人公は、偶然手に入れた一丁の銃が持つ圧倒的な美しさと存在感にそれを求めました。

私がこちらを読んだのは社会人になってから。もし主人公と同じ大学生の頃に出会っていたら、と考えると寒気を覚えます。銃器に対する憧れはいまも昔もありません。しかし当時は、己を選ばれた特別な人間と信じたい願望が最高潮に達していた時期だったのです。

そう考えると「列」とは「教団X」に端を発する体制や時代のあり方にノーを突きつける壮絶な旅をやり遂げ、成長したステータスを維持したままゲームをリスタートする「2周目の銃」なのかもしれません。

「列」の発売は10月5日。その前に「銃」をもう一度読みます。果たして何を感じ取るか。

皆さまもぜひ。

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