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なんでもない。

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記したつもりが消えていくもの。
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2020年9月の記事一覧

多面体。(父の夢をみたから固定)

多面体。(父の夢をみたから固定)

 夏が過ぎ、秋へ向かう。

 季節の変わり目は、いつも高校2年の夏休みを思い出す。
精神は湖のように深くゆれ揺らぎ、全身を浸した水面で手足を掻き続けて底が濁る。濁らせたい訳ではないが動けば動くほど濁りは広がってゆく。同時にいつ沈むのか推測不能な不気味さに体が冷え切る。常に水の中に浸っているからか手先足先が痺れる。一歩進み出したら一瞬で溺れてしまうかもしれない恐怖と緊張と裏腹に、陸に上がり自分の体温

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リバース。

リバース。

 車を運転しながら、山手通りを走る。

 自分の部屋以外を清掃する新鮮さ。雨続きのジメリ感から、秋晴れを予感させるような陽射しに全身を任せる。人間は光がなくては生きられない。そんなことを思い浮かべながら、箒を手にしたままで通りをフラッと渡り、目黒川を覗き込んだ。

 あの日、あの時と変わらない水の流れに、実際に暮らしてた頃の残像がフィルムとアルバムを巡るように、交互にスライドして回る。この近所の暮

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白昼。

白昼。

 川沿いを歩いて、この場所まで来た。ここら辺ドラマの撮影にもよく使われるのよね。なんて独り言を呟いたら、急に右側の木がザワって揺れて、あの匂いを纏った風が全身を力強く、かつ優しくフワリと抜けた。

 背後に気配を感じて振り向いたら、彼がいた…。

『あ、昼間でも登場出来るものなんだ?』

「アハハ…まあね、第一声がそれ?」

『何時も夢の中でじゃない?それにメール中とはね…』

「僕が去った後、キ

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