ビネバル出版/北欧留学情報センター

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私たちは東京の神楽坂を拠点としデンマーク語、スウェーデン語、ノルウェー語、フィンランド語、アイスランド語の語学教室、北欧留学情報の提供を行っています。noteではフィンランド語やアンデルセンなどのコラムを掲載 https://linktr.ee/bindeballe

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最近の記事

不安の渦中にいる人間たちの運命劇

 ノーベル文学賞と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは「今年も村上春樹は受賞しなかった」というニュースだけだろうか。実際、毎年ノーベル賞ウィークの中だるみのようなタイミングで発表される文学賞は、決定前の方が決定後よりもはるかに盛り上がっているような印象を受ける。そして翻訳大国と呼ばれた日本もはるか遠く、今では邦訳も作家紹介もない「見ず知らずの作家」たちがノーベル文学賞を受賞することも多く、そうした意味ではせっかくの文学賞にあやかりたい書店員さんたちも苦虫を噛み潰しているのではな

    • 映像のデコパージュに誘惑される| 『エーレンガート:誘惑の極意』

      先月、第96回アカデミー賞(2024年)の受賞結果が発表され、日本映画では山崎貴監督の『ゴジラ-1.0』が視覚効果賞、宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』が長編アニメーション賞を受賞しました。 アカデミー賞というとアメリカの賞が有名ですが、デンマークにもロバート賞(Robert Prisen)と呼ばれるアカデミー賞があります。今年発表されたロバート賞(2024年)の作品賞には、ニコライ・アーセル監督、マッツ・ミケルセン主演の『Bastarden』が輝きました。本作は、日本

      • 人のありのままを受け入れる力:ヴィヴィカ・バンドレルが語るトーベ・ヤンソンと『ムーミン谷の十一月』

        第11回・第14回で、『Resa med Tove : en minnesbok om Tove(トーベとの旅:トーベとの思い出の本)』を紹介しました。この本は、トーベ・ヤンソンにかかわりのあった23人が書いた比較的短い文章で構成されており、ヤンソンが亡くなった翌年の2002年に出版されました。  この本には、スウェーデン語系フィンランド人の舞台演出家、ヴィヴィカ・バンドレル(1917-2004)へのインタビュー記事(1979年発表)が編集されたものが掲載されています

        • 苦しむ人間の胸中にこそ「魂」が宿る

          北欧流自然主義文学の代表作 親元を離れてから病気に罹ることほど心細いものはない。そう強く思ったのは、東京に出てきて間もなくして、新型コロナに罹った時だった。検査で陽性が出た当日ぐらいは「意外とこの程度か」と高を括っていたが、その翌々日には39度近くの熱と、そして凄まじい喉の痛みが襲ってきた。 地元の大阪を離れ、一人で迎えた病床は、何ともまあ苦しいものだった。私の場合、熱が出てから病院を探そうとしたせいもあり、熱と喉の痛みでまともに会話ができず、本当に苦労した。息も絶え絶え

        不安の渦中にいる人間たちの運命劇

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        • 北欧文学散歩-北緯55度以北を読む
          2本
        • 進め!ノルディックスクリーンの向こう側へ
          9本
        • 「ト-ベ・ヤンソンを知る」読書案内
          15本
        • 北欧映画と本
          10本
        • デンマークで保育士-エピソード
          3本
        • アンデルセンと歩くデンマーク文学の歴史
          10本

        記事

          可愛いだけの映画じゃない。『ロッタちゃん はじめてのおつかい』(試写)

          試写会にお誘いいただき『ロッタちゃん はじめてのおつかい』を観てきました。 今回初めて観る機会に恵まれ、とても楽しく可愛い作品だったので、みなさんにも紹介したいと思います。 おかえりなさいの人も はじめましての人も ハートをつかまれる! 映画ロッタちゃんシリーズは、『ロッタちゃんと赤いじてんしゃ』(1992年)と『ロッタちゃん はじめてのおつかい』(1993年)の2作品からなります。 原作は、『長くつ下のピッピ』や『やかまし村の子どもたち』などで知られるスウェーデンの国民

          可愛いだけの映画じゃない。『ロッタちゃん はじめてのおつかい』(試写)

          トーベ・ヤンソンが読んだ子どもの本

          第11回で、『Resa med Tove : en minnesbok om Tove(トーベとの旅:トーベとの思い出の本)』を紹介しました。この本は、トーベ・ヤンソンにかかわりのあった23人が書いた比較的短い文章で構成されており、ヤンソンが亡くなった翌年の2002年に出版されました。  今回は、この本の中から、スウェーデン語系フィンランド人の作家ボー・カルペランがヤンソンへの2つのインタビューをまとめた記事を参照し、ヤンソンがインタビューで言及した本や作家を紹介しま

          トーベ・ヤンソンが読んだ子どもの本

          トーベ・ヤンソンの本の探し方

           これまでトーベ・ヤンソンの本の内容について紹介し、本の背景や解釈について書いてきましたが、今回はトーベ・ヤンソンの本の探し方を紹介します。末尾には、本を探す時に参考になるウェブサイトも記しておきます。 ヤンソンが発表した作品のなかには未邦訳のものや雑誌のみに翻訳が掲載されたものがありますが、ここでは日本語訳のあるヤンソンの著作のうち、本の形になっているものについて書きます。  ヤンソンの日本語訳の本を表にまとめました。  表について少し補足します。ムーミン全集にはいくつ

          トーベ・ヤンソンの本の探し方

          なぜ大人がムーミンに魅了されるのか?:トーベ・ヤンソンのエッセイ「似非児童文学作家」から考える

           ムーミンの小説を大人になって読み返す人、あるいは大人になってから初めて読む人もいると思います。児童文学として位置づけられるムーミンの物語を大人が手に取り、そして魅了されるのはなぜでしょうか。今回は、トーベ・ヤンソンが1961年に発表したエッセイ「似非児童文学作家」をもとにムーミンの物語が大人をも惹きつける理由を考えてみます。  「似非児童文学作家」は、2017年に刊行された『Bulevarden och andra texter(「大通り」とそのほかのテキスト)』という短

          なぜ大人がムーミンに魅了されるのか?:トーベ・ヤンソンのエッセイ「似非児童文学作家」から考える

          ゆっくり、長く歩くこと

          北欧文学ブックレビュー No.1 『歩くこと、または飼いならされずに詩的な人生を生きる術』トマス・エスペダル著 枇谷玲子訳  評者 山下泰春    酔い潰れて終着駅まで送られたことがある人なら分かるだろうが、深夜にそこから歩いて自宅まで帰るときほど惨めで孤独で、しかし自由な時間は存在しない。スマートフォンの充電も底を突き、タクシーを呼べるほどの金もなかった私だったが、幸いにも歩いて一時間半ほどで帰れる場所に自宅があった。駅にいてもどうしようもないので、馴染みのない深夜の道

          トーベ・ヤンソン 旅と小説

          トーベ・ヤンソンが亡くなった翌年の2002年、Resa med Tove : en minnesbok om Tove(トーベとの旅:トーベとの思い出の本)というスウェーデン語の本がフィンランドで出版されました(ヤンソンの母語はスウェーデン語です)。この本は、ヤンソンにかかわりのあった23人が書いた比較的短い文章で構成されています。日本語にはまだ翻訳されていません。 本の表題である「トーベとの旅」は、ヤンソンのパートナーであるトゥーリッキ・ピエティラ(※1)が書いた文

          トーベ・ヤンソン 旅と小説

          小さき者たちのクリスマス『オンネリとアンネリのふゆ』

           12月に入った途端に寒い冬がやってきました。アドベントも最終週となり、クリスマスが待ち遠しいですね。この時期、北欧はイルミネーションやクリスマスマーケットで賑わうのですが、今年のクリスマスは少し様子が違うようです。エネルギー高騰のため、各地のイルミネーションの時間が短縮されたり、暖房の温度が低く設定されたりしているようです。いつもとは少し違うクリスマスですが、厳しい冬を乗り越えるために楽しむ気持ちは大切にしたいものです。  北欧映画には、クリスマス映画が多くあります。実は

          小さき者たちのクリスマス『オンネリとアンネリのふゆ』

          家族三人の島暮らしをのぞき見る『少女ソフィアの夏』

           前回は『聴く女』について、ムーミンを踏まえたヤンソンの新たな挑戦の本であるというお話をしました。今回は、『聴く女』の翌年、1972年に出版された大人向けの本、『少女ソフィアの夏』を紹介します。  『少女ソフィアの夏』は、パパとその娘のソフィア、おばあさん(父方の祖母)が島で暮らす様子を描く22の短編を収めた本です。この三人は、トーベ・ヤンソンの弟ラルス、ラルスの娘ソフィア、母シグネをモデルにしていると言われています。しかし評伝『トーベ・ヤンソン:人生、芸術、言葉』によれば

          家族三人の島暮らしをのぞき見る『少女ソフィアの夏』

          バラの木通りに暮らす女の子たち『オンネリとアンネリのおうち』

           このコラムでは"ノルディックスクリーン"とタイトルに入れながらも、デンマーク映画ばかりを紹介してきました。私が得意とする分野はデンマーク映画なので、他の北欧諸国の映画を紹介することに自信が持てなかったというわけです。しかし、今回は勇気を出してデンマークから飛び出し、フィンランド映画『オンネリとアンネのおうち』ご紹介したいと思います。 ストーリー  夏休みのある日、とても仲良しのオンネリとアンネリは、バラ通りにある水色の素敵な家の前で封筒を拾います。その封筒には「正直者にあ

          バラの木通りに暮らす女の子たち『オンネリとアンネリのおうち』

          「ケア労働」へのまなざし 『あるじ』

           夏の暑さもようやく落ち着いてきた頃、フィンランドの画家ヘレン・シャルフベックを描いたアンティ・ヨキネン監督の『魂のまなざし』を観ました。画家としての自分を生きようとするシャルフベックの強いまなざしと、スクリーンにときおり映る絵画のような場面が心地よいリズムを作り出していました。年代としては1915-1923年を扱っており、これはフィンランドの女性参政権が成立した1906年から少し経った頃です。映画では、参政権から発展しない女性運動に対する苛立ちが描かれる場面もあり、参政権の

          「ケア労働」へのまなざし 『あるじ』

          デンマークでサッカーをする-3

           保育園や学童保育で過ごしていると、友達をすぐつくる子どもたちのコミュケーション能力に驚かされる。成人してから、しかも外国人と心を交わせるようになるのは簡単ではないと思う。デンマーク人と友人関係を作るのはなかなか難しい、とは現地在住の日本人からよく聞く。デンマーク人と友達になるにはまず語学力だが、プラス、もう一つ違う形のコミュケーションの手段を持っていると良いと思う。私の場合は「サッカー」だった。    フォルケホイスコーレ(Gymnastikhøjskolen i Ol

          デンマークでサッカーをする-3

          第9回 「私たちのアンデルセン」の誕生、そして……

           1850年5月3日、日刊紙「祖国Fædrelandet」にアンデルセンの詩「デンマークで我は生まれた I Danmark er jeg født」が発表されます。現代でも学校や地域活動の中で日常的に歌われていて、2020年公開の映画《アナザーラウンド》(原題は《飲んだくれ Druk》)にも合唱の様子が描かれていますので、ふたたび観る機会があれば注意してみてください。とりあえず1番だけ訳してみましょう。  デンマークで我は生まれた、そこに私の故郷はある、  そこに私は根を

          第9回 「私たちのアンデルセン」の誕生、そして……