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進め!ノルディックスクリーンの向こう側へ

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可愛いだけの映画じゃない。『ロッタちゃん はじめてのおつかい』(試写)

可愛いだけの映画じゃない。『ロッタちゃん はじめてのおつかい』(試写)

試写会にお誘いいただき『ロッタちゃん はじめてのおつかい』を観てきました。
今回初めて観る機会に恵まれ、とても楽しく可愛い作品だったので、みなさんにも紹介したいと思います。

おかえりなさいの人も はじめましての人も ハートをつかまれる!
映画ロッタちゃんシリーズは、『ロッタちゃんと赤いじてんしゃ』(1992年)と『ロッタちゃん はじめてのおつかい』(1993年)の2作品からなります。

原作は、

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小さき者たちのクリスマス『オンネリとアンネリのふゆ』

小さき者たちのクリスマス『オンネリとアンネリのふゆ』

 12月に入った途端に寒い冬がやってきました。アドベントも最終週となり、クリスマスが待ち遠しいですね。この時期、北欧はイルミネーションやクリスマスマーケットで賑わうのですが、今年のクリスマスは少し様子が違うようです。エネルギー高騰のため、各地のイルミネーションの時間が短縮されたり、暖房の温度が低く設定されたりしているようです。いつもとは少し違うクリスマスですが、厳しい冬を乗り越えるために楽しむ気持

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バラの木通りに暮らす女の子たち『オンネリとアンネリのおうち』

バラの木通りに暮らす女の子たち『オンネリとアンネリのおうち』

 このコラムでは"ノルディックスクリーン"とタイトルに入れながらも、デンマーク映画ばかりを紹介してきました。私が得意とする分野はデンマーク映画なので、他の北欧諸国の映画を紹介することに自信が持てなかったというわけです。しかし、今回は勇気を出してデンマークから飛び出し、フィンランド映画『オンネリとアンネのおうち』ご紹介したいと思います。

ストーリー
 夏休みのある日、とても仲良しのオンネリとアンネ

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「ケア労働」へのまなざし 『あるじ』

「ケア労働」へのまなざし 『あるじ』

 夏の暑さもようやく落ち着いてきた頃、フィンランドの画家ヘレン・シャルフベックを描いたアンティ・ヨキネン監督の『魂のまなざし』を観ました。画家としての自分を生きようとするシャルフベックの強いまなざしと、スクリーンにときおり映る絵画のような場面が心地よいリズムを作り出していました。年代としては1915-1923年を扱っており、これはフィンランドの女性参政権が成立した1906年から少し経った頃です。映

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『愛さえあれば』-人生にイタリアのレモンを添えて

『愛さえあれば』-人生にイタリアのレモンを添えて

 あっという間に梅雨が明け、夏のギラギラした日差しが降り注ぐ日々が始まりました。夏休みが待ち遠しい人もたくさんいるのではないでしょうか。
一年を通して寒い時期が長い北欧では、昔から温暖な地域(イタリア、ギリシャ、スペイン)への旅行が人気です。特にイタリアは、旅行先のみならず絵画や文学の題材とされてきました。
  デンマーク映画においてもイタリアは複数の作品の舞台になっています。代表的な作品として、

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生と死の香りが漂う映画『アナザーラウンド』

生と死の香りが漂う映画『アナザーラウンド』

 6月、日本は梅雨の季節ですね。うってかわって北欧デンマークの6月は、夏休み前のワクワクした季節であり卒業の時期でもあります。デンマークでは高校卒業が盛大に祝われ、学生たちは「studenterkørsel(卒業パレード)」というイベントを6月下旬に開催します。これはクラスで大きなトラックを貸切り、クラスメイトの家を回りながら卒業をお祝いするイベントで、高校生たちはトラックの荷台で大音量の音楽を流

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静謐な映像に表れる揺れ動く心-『わたしの叔父さん』

静謐な映像に表れる揺れ動く心-『わたしの叔父さん』

   ゴールデンウィークが終わり、4月から新生活が始まった人は、少しずつ慣れて来た頃でしょうか。一方で、新年度が始まったものの新しい挑戦への一歩が踏み出せていない人もいるかもしれません。
 そんなみなさんに観てもらいたい映画が、今回紹介するフラレ・ピーダセン監督のデンマーク映画『わたしの叔父さん』(2019)です。

 本作は、第32回東京国際映画祭(2019年)のコンペティション部門でワールドプ

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『ライダーズ・オブ・ジャスティス』にみる弱い男たちの連帯

『ライダーズ・オブ・ジャスティス』にみる弱い男たちの連帯

強くなるとは、何か強い力を得ることではなく、自分の弱さを認めること。   
 今年(2022年)1月、『ライダーズ・オブ・ジャスティス』が公開されました。デンマークで最も注目されている脚本家の一人である、イェンセン監督の最新作です。この映画は、列車事故で妻を失った軍人マークス(マッツ・ミケルセン)の復讐を中心とした人間ドラマにユーモアのスパイスが加えられており、予測不可能な展開で観客を驚かせる内容

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