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「ト-ベ・ヤンソンを知る」読書案内

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人のありのままを受け入れる力:ヴィヴィカ・バンドレルが語るトーベ・ヤンソンと『ムーミン谷の十一月』

第11回・第14回で、『Resa med Tove : en minnesbok om Tove(トーベとの旅:トーベとの思い出の本)』を紹介しました。この本は、トーベ・ヤンソンにかかわりのあった23人が書いた比較的短い文章で構成されており、ヤンソンが亡くなった翌年の2002年に出版されました。  この本には、スウェーデン語系フィンランド人の舞台演出家、ヴィヴィカ・バンドレル(1917-2004)へのインタビュー記事(1979年発表)が編集されたものが掲載されています

トーベ・ヤンソンが読んだ子どもの本

第11回で、『Resa med Tove : en minnesbok om Tove(トーベとの旅:トーベとの思い出の本)』を紹介しました。この本は、トーベ・ヤンソンにかかわりのあった23人が書いた比較的短い文章で構成されており、ヤンソンが亡くなった翌年の2002年に出版されました。  今回は、この本の中から、スウェーデン語系フィンランド人の作家ボー・カルペランがヤンソンへの2つのインタビューをまとめた記事を参照し、ヤンソンがインタビューで言及した本や作家を紹介しま

トーベ・ヤンソンの本の探し方

 これまでトーベ・ヤンソンの本の内容について紹介し、本の背景や解釈について書いてきましたが、今回はトーベ・ヤンソンの本の探し方を紹介します。末尾には、本を探す時に参考になるウェブサイトも記しておきます。 ヤンソンが発表した作品のなかには未邦訳のものや雑誌のみに翻訳が掲載されたものがありますが、ここでは日本語訳のあるヤンソンの著作のうち、本の形になっているものについて書きます。  ヤンソンの日本語訳の本を表にまとめました。  表について少し補足します。ムーミン全集にはいくつ

なぜ大人がムーミンに魅了されるのか?:トーベ・ヤンソンのエッセイ「似非児童文学作家」から考える

 ムーミンの小説を大人になって読み返す人、あるいは大人になってから初めて読む人もいると思います。児童文学として位置づけられるムーミンの物語を大人が手に取り、そして魅了されるのはなぜでしょうか。今回は、トーベ・ヤンソンが1961年に発表したエッセイ「似非児童文学作家」をもとにムーミンの物語が大人をも惹きつける理由を考えてみます。  「似非児童文学作家」は、2017年に刊行された『Bulevarden och andra texter(「大通り」とそのほかのテキスト)』という短

トーベ・ヤンソン 旅と小説

トーベ・ヤンソンが亡くなった翌年の2002年、Resa med Tove : en minnesbok om Tove(トーベとの旅:トーベとの思い出の本)というスウェーデン語の本がフィンランドで出版されました(ヤンソンの母語はスウェーデン語です)。この本は、ヤンソンにかかわりのあった23人が書いた比較的短い文章で構成されています。日本語にはまだ翻訳されていません。 本の表題である「トーベとの旅」は、ヤンソンのパートナーであるトゥーリッキ・ピエティラ(※1)が書いた文

家族三人の島暮らしをのぞき見る『少女ソフィアの夏』

 前回は『聴く女』について、ムーミンを踏まえたヤンソンの新たな挑戦の本であるというお話をしました。今回は、『聴く女』の翌年、1972年に出版された大人向けの本、『少女ソフィアの夏』を紹介します。  『少女ソフィアの夏』は、パパとその娘のソフィア、おばあさん(父方の祖母)が島で暮らす様子を描く22の短編を収めた本です。この三人は、トーベ・ヤンソンの弟ラルス、ラルスの娘ソフィア、母シグネをモデルにしていると言われています。しかし評伝『トーベ・ヤンソン:人生、芸術、言葉』によれば

トーベ・ヤンソンの新たな挑戦 短編集『聴く女』

 トーベ・ヤンソンの短編アンソロジー2冊と自伝的な小説『彫刻家の娘』(1968)を概観しました。今回は、ヤンソンがムーミンの小説の完結後にはじめて発表した本格的な大人向けの本を紹介します。  その本は『聴く女』というタイトルで、18の短編小説を収めた短編集です。1971年に出版されましたが、その前年の1970年は、ムーミンの小説として最後になる『ムーミン谷の十一月』が出版された年であり、また、ヤンソンの母シグネ・ハンマシュティエン=ヤンソン(通称「ハム」、※1)が亡くなった

『彫刻家の娘』から考える、「小説から作者を知る」とは?

 本連載のタイトルは“「トーベ・ヤンソンを知る」読書案内”ですが、今回は、1968年に刊行された『彫刻家の娘』を紹介しながら、小説から作者を知るとはどういうことなのか、改めて考えてみたいと思います。 『彫刻家の娘』は、19の短編が収められており、少女「わたし」が日々のできごとを語っています。評伝『トーベ・ヤンソン:人生、芸術、言葉』によれば、実際のヤンソンの日記に書かれているエピソードがあることから、内容はヤンソンの経験に基づいていると思われます。その一方で、別の評伝『ム

ムーミンママの魅力:ムーミン・コミックスより「預言者あらわる」

 今回は、ムーミン・コミックス第5巻『ムーミン谷のクリスマス』に収録されている「預言者あらわる」を紹介しながら、ムーミンママの魅力をお伝えします。  前回、ムーミン・コミックスには、トーベの作品、トーベと弟ラルスの共同作品、ラルスの作品があるとお話ししましたが、「預言者あらわる」は、1956年に発表されたトーベの作品です。トーベはコミックの制作においてストーリーを重視し、アイディアを出し続けることに苦労しました。実際にムーミン・コミックスを見ると、彼女の苦労の成果が読み取れ

ムーミンたちのクリスマス

 今回は短編「もみの木」を紹介します。このお話は、『ムーミン谷の仲間たち』(1962)に収められている、クリスマスにまつわる物語です。  あるヘムルは、誰かに言われてムーミンたちを起こしにきましたが、ムーミン屋敷の屋根を雪かきしていたところ、内側に開いた窓から家の中に転がり落ちてしまいました(「ヘムル」は種族名です)。機嫌を損ねたヘムルは、冬眠中のムーミントロールたちに向かって怒鳴りました。  「クリスマスが来るぞ!きみたちの寝坊には、まったくいやになっちまうな。クリスマ

トーベ・ヤンソンとエドワード・ゴーリー

 今回紹介するのは、『トーベ・ヤンソン短篇集:黒と白』です。  この本は、第3回で紹介した『トーベ・ヤンソン短篇集』と同様に、『聴く女』、『人形の家』、『軽い手荷物の旅』、『クララからの手紙』の短篇集4冊から17篇が収められたアンソロジーです。訳者の冨原眞弓さんが、内容による4つの分類で作品を選んでいます(「幻想の旅」「孤独の矜持」「過去への視線」「恐るべき芸術家」)。  第3回では、ヤンソンの大人向けの小説の内容がムーミンに似ている特徴と異なる特徴を併せ持っていることを

映画『TOVE/トーベ』を観る。

 今回は、配給会社のご厚意で10月1日日本公開予定の『TOVE/トーベ』の試写を観ることができましたので、本作品をご紹介したいと思います。   映画『TOVE/トーベ』は終戦後のフィンランドを舞台に、30~40代のトーベ・ヤンソンを描いた映画であり、トーベ・ヤンソンを多面的に捉えた作品です。 若き日のトーベ・ヤンソンを多面的に描く 芸術家としての側面をひとつとってみても、ムーミンの小説・漫画・絵本・舞台、フレスコ画、絵画などの制作風景が描かれ、創作活動が多岐にわたっていた

「ト-ベ・ヤンソンを知る」読書案内 #3

第3回 トーベ・ヤンソンの大人向け小説とムーミン トーベ・ヤンソンは、1970年にムーミンの小説が完結した後、1971~1998年の間に複数の大人向けの短編・長編の小説を発表しました。これらの本は、全8巻の「トーベ・ヤンソン・コレクション」シリーズなどとして邦訳が出ています。  今回紹介するのは、『トーベ・ヤンソン短篇集』です。この本は、『聴く女』、『人形の家』、『軽い手荷物の旅』、『クララからの手紙』の短篇集4冊から20篇が収められたアンソロジーです。訳者により主題として

「ト-ベ・ヤンソンを知る」読書案内 #2

今秋(2021年)、ムーミンの作者であるトーベ・ヤンソンの半生を描く映画『TOVE』が公開される予定です。 私も観賞を心待ちにして、ヤンソンの作品や伝記を読み返しています。 私は卒業論文と修士論文でヤンソンの文学作品、とりわけムーミンの小説の主題を考察しました。ヤンソンの作品を何度も読んでいますが、彼女の物語はさまざまな見方ができ、読むたびに異なる魅力に出会います。 このコラムでは、ある「視点」を切り口にヤンソンの作品をご案内してみたいと思います。 それでは、始めましょ